著者は証券に22年務められ、うち16年勤務してきたゴールドマン・サックスから、2023年1月に突然解雇される。
資本を売りとするビジネスの最先端で、資本主義の極みに位置する生き方の今日について共有されています。
GSでのタブーな言動の存在などを知り、今もこのような働き方があるのだなーと思いながら読む。そして同時に、この金融業界が世界の資本を動かしていると考えるとぞっとする…。
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- 資本主義の罪
著者は、資本主義を否定するのではなく、資本主義の非本質的な以下の3点が問題を生んでいるという。
①成長の目的化、②時間軸の短期化、③会社の神格化。
まず、一つ目について、資本主義の本質ではない成長至上主義が浸透してしまっていることが問題を生んでいるという。
時間軸の短期化は、特に株式会社などで、4半期ごとの決算のサイクルなどを通して短期的な利益を出すことを求められる制度設計を問題視。
会社の存続が、何をするか、何のためにするか、といったことよりも優先されている、会社ありき、事業継続が前提の状態。ゴーイング・コンサーン。
これらが資本主義の主産物ではなく副産物なのかは、別として、どれもなじみのあるトピックではあると思います。
アメリカと日本、資本主義が生む問題はそれぞれ違いつつも、それぞれで資本主義がうまくいっていない点が書かれています。
- 自由市場での保身
政策保有株式について、そしてそれが日本独特なものであることも初めて知りました。日本独特で、株式を持ち合うことで企業の安定を守る仕組みになってきたらしい。
短期目線への防波堤としての役割。そこに象徴される経営者の保身を批判し、
本物の投資家に興味をもってもらうためには、経営者が政策保有に頼らずに真剣に投資家と向き合うことが大事だと強調されています。
バーター取引についてもご指摘されていました。完全な自由市場での取引を集団として避ける知恵として発展したともいえるのかもしれませんが…。
忖度文化にもつながるところを感じます。
それが膠着してしまっているのが現状なのかなと思ったり。
- 資本と経営
ROA(総資産利益率) が日本は設立後、低下している中で、日本の会社の資産への考え方に課題があるという。
「自己資本」という言葉が使われている点を指摘。
日本基準の貸借対照表にこの定義はなく、自分の資金と言う考え方を助長しかねないと述べられています。
本来は、純資産ーnet assetや、株主資本ーshareholders equity のことだそうです。
ここでも、しっかり投資家と向き合い、リスクを理解してもらうという、IRの姿勢が強調されています。
株式投資とは、「社会課題を解決してくれる企業に対して株式という形で資金を提供し、その企業の成長と共に投資家も配当や株価の上昇によって恩恵を受けられる」ことを意味する。
証券会社からの一つの視点を知るという側面では、投資家関係(IR)の点からも興味深く読めるところがあるかと思いました。
また、
日本は、利益に占める人件費の割合は右肩下がり、というデータ。これはアメリカのデータが少し上がっている傾向にあることと比較されていました。内部留保も多く話題となっているけれども、なかなか根が深そうだなーと思いました。
- 理想の会社
著者は、ビジネスの考え方の順序として、現状を変える必要があると述べています。
利益のあとに、社会に貢献する、ではなく、
社会のため、を儲かるようにすること。
パーパス経営やソーシャルビジネス、
金融業界での多くのタブーなどを読むと、これはまだ例外的な話なのだなーと思いました。
ワークとライフの統合、たぶん100%とかではなく、重なりの話だと思います。
- 個別の時間軸
時間軸の短期化を指摘している際に、画一ではなく、固有の時間軸を持つべきだ、という考え方には大変共感しました。
ビジネスの扱う対象の多様性は明らかである、ということだけではなく、
おそらくビジネスを超えた話でもある。
人間についても、様々な組織や活動についても、すべて早く成果を出す、結果を出すことがいい、という風潮は、資本を扱うビジネスの考え方が、あらゆる場面に浸透してしまっている状況であるといえるのかもしれない。
「自然の流れに沿うのがいちばん環境負荷が少ない」。
その通りだなー。
「功あるひとには禄を与えよ 徳ある人には地位を与えよ」(西郷隆盛)
なるほど。
資本主義の際に見ある金融界に象徴される実力主義では、
どこまで徳を考慮できているのか、できないシステムなのか、とは言えないのかもしれない。
それなら大きく変えるために何をすべきなのか。…