予想外だったのは3点。
1つ目は、10年以上も前から既に佐藤優氏の治療が始まっていたこと。
2つ目、さすがというべきか、現役医師との共著でありながら、対談の中で佐藤優氏が主導で医療について語っていること。
3つ目、主治医と患者という組み合わせの斬新さに加え、医師である片岡氏の生き様や思想、文章がまた
...続きを読むとてもドラマチックかつ重要な示唆に富んでいて、またその謙虚で真摯な人柄も相まってとても興味深く、共感を得たこと。
1冊の本ではあるが、ジャンルの異なる数冊の全く別の本を読んだかのような不思議な感覚を得た。
最初は佐藤優氏の病気の遍歴や現状について。
他の著書から、食べることが好きで、運動は好きじゃなく、またかつて超長時間労働を業務でこなしていたたこと、またショートスリーパーであることなどは知っていたため、生活習慣病のリスクが極めて高いのが気になっていた。
北方領土問題など、健康よりも仕事を優先してきた、という話が出ていて、なるほど佐藤優氏らしい。
ただ、健康第一、という基本的な部分が欠落していたのは意外で、その要因はなんだったのだろうと思ったがその明確な答えはなかった。
お次は主治医である片岡氏との対談。
医師が実は儲からない仕事であるだとか、大勢の医師たちのボランティア精神によって今の日本の質の高い医療がギリギリで維持できていることだとか、医療業界が新自由主義化していくことによる重大な危険性だとか、多くの面で目から鱗であった。
医師の年収は、少なくとも日本人の平均年収の中央値を超えているため、「儲からない」「高収入ではない」というのは素直に受け取りにくいが、考えてみれば多額の学費と長い学習や下積み期間を超えるという多額のコストを支払っての結果でそのリターンとすれば、確かにショッパイだろう。
とはいえ、重要なのはむしろそこじゃなくて、お金や報酬の多寡によって医師になるかどうか、どの分野を選ぶかという観点自体に問題があって、自発的な貢献の気持ちや、それに見合った社会制度の設計、そしてそのことの周知こそに意味があるのだった。
医者は優しく情熱に溢れながらも高給取りであくどい、という一般的なステレオタイプイメージは、ブラックジャックなどの古い国民的なコンテンツによる影響が大きいんじゃないだろうか。
後半は片岡氏による執筆で、医療や病に対する考え方や経験が述べられている。
これまで医師が書いた本と言えば大体が専門的な医学や健康情報、啓蒙的な情報を主張したものしか読んできていなかった。
なので、一医師としてのこれまでの診療経験談や思想のことを知れたのがとても新鮮だった。
とても良い本だった。
全ての一般の人にお勧めしたい。