イーディス・ウォートンのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
原著1937年刊行。
幽霊と覚しきものが出現する、まあ、「怪奇」短篇小説集。
しかし、イーディス・ウォートンはエンタメ系の小説家ではない。19歳ほど年長のヘンリージェイムズがこの女性作家を励まし、親交を深めたそうで、ウォートンはアメリカ文学史において、ジェイムズの後継者的ポジションに位置すると見られることが多いらしい。
ウォートンの『無垢の時代』を先に読んだが、確かにジェイムズに近い地味で稠密な心理小説といったところ。もっともジェイムズほど難解な文体ではない。
従ってシリアス文学というか、普通小説というか、いわゆる純文学系の作家である。が、どうやら幽霊小説に惹かれるものがあったらしく、そうした短篇を集めたのが本書。
エンタメなホラー小説を期待して読み始めた人にはちょっと読みにくいかもしれない。それに、読者をどんどん怖がらせてやろうという娯楽ホラー小説とは根本的に異なっており、幽霊的なものの発現を核とした心理的な小説群である。それでいて、やはりちょっと怖いような感触があることも間違いない。この感触を、ウォートンは愛好したのだろう。
本巻中幾つかの作品は確かにヘンリー・ジェイムズの影響を受けているような、あの「曖昧法」の醍醐味が感じられた。特に私が気に入ったのは「小間使いを呼ぶベル」「柘榴の種」そして最高に感じたのは「ジョーンズ氏」だ。この最後の作品は存在しないはずの者が人々のあいだに強烈な存在感で存在していて、「不在の存在性の重圧」「心象の迫真性という強迫」を素晴らしく描ききった傑作だと思う。
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Posted by ブクログ
書き出しがすばらしい。映画の歴史大作を思わせ、まるで壮大なオペラの幕開けのようだ。しかしそれからしばらくは、19世紀後半のニューヨークの時代背景や、上流階級でのみ通じる複雑なしきたりや人間関係を詳細に描こうとするあまり、私たち現代人からすると退屈ともとられかねず、読み飛ばしたい衝動に駆られるかもしれない。
だが、そんな読むのに忍耐が必要な描写が続くのは第一部の最後から1つ前の章の第17章まで。そこまでは何とか読み進めてほしい。なぜなら第18章以降、主人公ニューランドとエレン・オレンスカ伯爵夫人の2人が織りなす物語は、ラヴェルのボレロのようにクレッシェンドしていくからだ。
それは私たちが思い描くような姿での恋とは言い表せられない。同様に愛とも言い難い。だが2人が第18章でお互いの心のうちを告白し合い、その後出会うたびに深められてゆく思慕の念は確かに恋であり愛だと言えるだろう。ただそれらは私たちの通俗的な想像をはるかに越えた姿かたちをしているがゆえに、そう簡単には読み解けないだけだ。
そうは言うものの、本書の新しい訳文は現代的な言い回しで占められ、(本当にその訳文で原文の本意を満たしているのかという議論はあるが、)500ページ以上というボリュームの岩波文庫としては比較的読み進みやすいはず。
そして本編最後のページである550ページ目。この物語の最後の2行によって語られるニューランドの行動は、ここまで読み進めてきた読者の期待とまったく正反対のものだろう。しかし彼にとってはこの結末以外は絶対にありえない珠玉のものだ。
この2行の真意、つまりなぜニューランドがそのような行動をとったのかを理解できるかどうかが、読者自身が人生を味わい深く過ごしてきたかどうかの指標ともなりうるのではないか。まるで自分の人生の密度や深淵さを見積られるようで恐ろしい。だが彼の行動は他人の目や財産やしがらみといった外的要因から一切離隔されており、読者自身に対して自由で正直でinnocenceな生き方をしているかを問いかけているようでもある。 -
Posted by ブクログ
ネタバレマサチューセッツの小さな村を舞台に、病気がちの妻と、妻の親戚の女性と3人で暮らすイーサン・フロムの身に起きた事件を描くお話
イーディス・ウォートンは以前「無垢の時代」を読んだことがあるのだけど、とにかく情景の描写が細かくて、その時代や場所を文章という形で生き生きと再現するのが本当に上手いなと改めて思いました。
ニューイングランドの冬の寒々しい感じとか、主人公家族の家の様子とかが映像として脳内で再生されていく感じがとても楽しい読書体験でした。
肝心の物語の方は、病弱の妻がいるにも関わらず親戚の若い娘に思いを寄せてしまうというお話で、妻が泊まりで出かけた時にやたらワクワクしてる主人公の様子とかがすごく細かく描かれるのだけど、妻がかわいそうだなとか思いながら割と冷めた感じで読んじゃいました。
最後の方になって、イーサンとマティが激しく求め合うところのセリフのやり取りが読んでいてムズムズしまくりで、自分は一体なにを読まされているのだろうと思ったところからの、これはホラーではないかと思うようなゾッとするラストで全然爽やかじゃない読後感でした。
普通なら命を落とす展開にすることが多いと思うのだけど、あのラストに落とし込んだ作者が怖い。