五十嵐純のレビュー一覧
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14話後半では引き続き越郎の過去が語られるのだけど、前半部とは彼の印象が異なると感じられるのは、一人暮らしや美羽との付き合いが良い意味で彼に柔らかさを与えたからなのだろうな
今まで誰かに追い立てられるような生活をしていた。だから解放された環境は安らぎを味わう機会となった
そんな彼の安寧が悪意と呼ぶ事も憚られるような雑な悪意に拠って呆気なく崩壊してしまうのが嘆かわしい…
彼の崩壊の裏には幾つかの意図が絡んでいるのは確か。様々な巡り合わせが宜しく無かったのも確か
それでも何かを「悪い」と表現するのが間違っているような感情の坩堝によって彼の未来が閉じられたのは悲しい事だと思える
だからこそ、自身の手元に迷い込んできたせいかに越郎が投げかけていた言葉が自分にこそ投げかけて欲しかった言葉だと気付く流れには感動してしまったなぁ…
どうしても涙が止まらない苦しみを知っている。だから涙に抗おうとしていた彼女に越郎は親身になれたのかも知れない
彼女との精神的な繋がりに気付ければ越郎は彼女の為に歩み出せる
封じられた場所から蘇る封じられた記憶と時間間隔。それは越郎が閉じられた空間から脱出した証拠
せいかの文化祭は近付いて、以前は無かった級友との付き合いも生まれて。そこには前巻にて田邊から振るわれた暴力の形跡が感じ取れないほど
最初に読んだ時はその違和感をどう受け止めたものかと悩んだのだけど、裏事情が明かされて吃驚
彼女は恐怖に打ち克ったのか!
教師からの暴力と口止めという普通の少女に抗う事は難しい理不尽。これにせいかは真っ当に勇気を振り絞り戦ったという事実に感極まりそうになる
「信じて」という言葉を起点にして始まる理不尽と戦おうという機運の流れは素晴らしい
せいかが戦えたなら、次は越郎の番
これまでは自分が悪いと信じ込まされて美羽の暴力にただ従うだけだった
そんな彼が美羽という束縛から逃れて『外』へと行く様は一つの終わりなのだと感じられたよ
ただ、後から思えば、彼がこの時逃れようとした束縛は美羽だけではなかったのだろうけど……
越郎は自身を閉じ込める家から出られてハッピー、せいかは恋人の居なくなった越郎に告白できてハッピー
…と成らなかったのが本作の行き着いた先か……。全ての重しが取れて、せいかに越郎が示したのは子供じみた感謝
考えてみると、家族からも恋人からも誰からも重量感の有る愛情を得られなかった彼の精神はずっと子供のままだったのかな…
なら、そんな相手に自分勝手な想いを告げるなんて間違いで。この時、せいかは越郎よりも大人びた態度で彼を守ったと言えるのだろうな
それともせいかは越郎を縛り付けるべきだったのか?その答えは容易に出せそうにないな…
ただ、彼は最後の最後に思うが儘自由に行動した。それは確かだったのかもしれない…
そんな越郎に対して、せいかが最後にすべきは何か?
理不尽な別れに対して、泣きながらもそれに抗おうとする彼女はやはり強さを手にしたのだと思えるね
だからギターという形代に拠って授けられた彼の思い出を大切なものとしつつも、その形代を壊せたのかも知れない
彼への想いを捨てたというわけではないのだろうけど、あの行為によりせいかが越郎の居なくなった家に囚われる事はない。彼女は彼女の支配者のままで居られる。そのようなラストだと感じてしまったな -
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前巻のあの引きからどうやって現在の穏やかな沙頼へと繋がるのかと気になっていただけに、11話冒頭の何とも普通に恋人の距離感をしている沙頼と瑞喜に疑問を感じずにいられなかった。けど、あの引きの続きが描かれた事で色々と納得させられたよ…。やっぱりこの作者さんは『ドミナント』を描いた方なんだなぁ…なんて改めて思い知らされたよね……
現在における沙頼と瑞喜は本当に普通の恋人模様。それこそかすみと晴世にとって良い手本となりそうなくらいに
でも、二人の関係が周囲に見せない”秘密”を元手に始まったのなら、同じくエスをしているかすみと晴世相手であろうと全ての秘密を見せるとは限らなかったわけだ
かすみと晴世は年齢差を引っ繰り返すという一種の倒錯を見せた。対して沙頼と瑞喜は相手に与えた消えない傷こそが愛の証となるのか…
特に沙頼の豹変は瑞喜以上に凄まじかったな…。彼女は瑞喜の甘ったるい可愛さに惹かれた筈だった。なのに他人に決して見せる事が無いだろうグツグツとした仄暗さに沙頼は魅せられてしまったわけだ
そして同様に瑞喜の方もこんな手酷い事をやらかした自分を愛してくれる沙頼に魅せられてしまった感じかな
結局、二人は同じ大学には行かなかった。けれど誰にも見せる事のない”秘密”が二人を大学なんてちっぽけな価値なのだと思わせる程の愛で包んでいるように思えたよ……
今巻において出番は少なかったけど、かすみと晴世は以前よりも仲を深められた印象
前巻においてはエスの関係性に憧れオママゴトのような雰囲気すらあった晴世、自分と晴世の意識差を認識していしまうが為に何処か晴世に対して奥手なかすみ。エスの先輩に出逢い、そして生じかけていた擦れ違いを正しく埋められた事で以前よりもエスとして、又はそれ以上に近付けたような
心の内ではこの関係を「子どもじみた願い」と感じていた晴世がかすみとの関係をもっと続けたいと感じるようになったのは大きな進展であり変化だよね
また、更に積極的と成った晴世の言動にかすみの方はもっと先を思わせる反応を返している様子に思わずニマニマしてしまう…
他方で気になるのは晴世の願望とかすみの受け止め方かなぁ…
晴世はエスにおける”お姉様”役をしながら、大人になる自分を夢想している。そこにあるのは変わりたい、又は変わらなければならないという焦燥感か
だとしたら、そんな晴世に「変わらなくたって私はずっとあなたが好きだからね」と今の晴世も変われずに終わるかも知れない晴世をも肯定したかすみの言葉は彼女を安心させるものでありつつ、将来的に二人の道は交わらないものになるかも知れないという予感を覚えさせるものになったような……
沙頼と瑞喜より前に手紙を見付けていた佳代子が語るのはかすみや晴世とはまた別のタイプの文通交際か
友達が欲しいという生徒会の立場では対処が難しい意見書、佳代子は”ゆうれい”に成る事でミアに応え始めるわけだけど、特別な優しさからミアと付き合い始めたわけではないね
ただ、かつて遣る瀬無い体験をした自分と重ねて、自分を助けるようなつもりでミアと向き合った。それは佳代子が考えている以上にミアの環境を変えるものとなり、そして想像していたよりも佳代子に寂しさを覚えさせるものとなったようで
ミアは当初の願い通り寂しい状態ではなく成った。でも、何度も心通わせたミアと自分は全くの知り合いではない。それは佳代子に寂しさを覚えさせてしまうものに成るね
だとしたら、芸能人というより遠くの存在に成った彼女を応援していたのはそういった寂しさを埋める代替行為だったのかもしれない
それだけにあの擦れ違いにしかならないような一瞬でミアを佳代子を思い出して繋ぎ止めたシーンには興奮させられましたよ!
手紙の遣り取りだけをしている頃には話し掛けられなかった。それが手を握るどころか抱き締めたミアの大胆さに現れる本気の想いには驚かされたよね
…ただ、そんな大胆なミアを前にしても佳代子の方はニブチンなようで(笑)
そういった鈍感さを突き抜けるような積極性をミアが出した時、二人の関係はどのように変わるのかと期待してしまいますよ…! -
Posted by ブクログ
越郎の奇妙な境遇に関し、まさか黒幕が居ただなんて……
越郎も美羽もかなり歪な言動ばかり。それは歪んだ愛によるものと単純に受け止めていたけど、まさかそれが第三者に拠って誘導されたものだったとは……
美羽と田邊による正体の知れない会話が「順調ですか?」という何気ない台詞から全く異なる色が見えてくる様子には恐怖しか感じられなかったよ
衝撃的なエピソードから始まる今巻は越郎とは何者かという点に迫る内容となっていたね
せいかにとってはギターを教えてくれる謎の先輩、美羽にとっては痛めつけても留まらせたい愛しい人
どちらであっても彼の正体が見えてこないという点では変わらない
でも、何も最初からそういう人間だったわけではなくて
椎名や田邊に見せていた越郎の姿は何処か気の抜けた青年の姿。話しかければ応えてくれるけど、それ以外の時はまるでネジが切れているように何もない
その意味では幼少期から越郎はとても空虚な少年だったと言えるのかな
不和の両親、捨てるかのような放逐、それでも盲信した帰宅
どれも越郎に何かを与えてくれるわけではないから、彼の中身は満たされない
そんな彼を最も癒やしたのは音楽の存在だったんだろうなぁ
母との依代、外界の遮音、周囲との繋がり
彼がギターを通して得たものがどれだけ尊いものだったか、他者には想像すら難しい
弾き語り曲を定めたせいかは順調にギターを掻き鳴らしていたね。ギターを使ってどう成りたいわけではない、憧れが有ったわけでもない
それでも今は聴かせたい人が居る。その人に向けて弾きたい曲がある。だからこそ惹かれた曲に描かれる理想像と現状の自分との差異に悩むようになったわけか
そういった流れだったから次の曲や文化祭を意識してポジティブになっていたせいかを襲う理不尽な暴力に絶句……
教師による暴力、威圧的な言動。対人能力の低いせいかにどうこう出来る筈もなく
読者的には彼の語る言葉は11話のものと合わせて、一連の流れの真相なのだと判るけど、越郎の事情を把握していないせいかに何が伝わるわけもなく
ただ伝わってくるのは目の前にいる教師の恐ろしさだけ
抗う術を持たない彼女がそれでも越郎に別れの挨拶をしたのは彼女の律儀さによるものか
きっとそれは田邊の想像を少し超える行動。だからこそ美羽も田邊も知らない越郎とせいかの約束が越郎の何かを変えてくれるのでないかと期待してしまうが…… -
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互いに正体を知ってしまった、思い描いていた年齢差ではなかった。待ち合わせ場所へ行かないという裏切りも有った
それでも二人はエスの関係を続けるんだぁ…
これって別の意味で倒錯的な関係が継続されると受け取れるのか
本作の底流にある『花物語』は少女達の友愛が描かれた物語。けれど現代においては同性愛を肯定する風潮が広がっている関係から、『花物語』のような関係が必ずしも特別とは言い切れない時代となっている
それだけに”お姉様”が後輩で”妹”が先輩という年齢差を承知で、他者にその関係を隠した上で友愛を続けようとする二人の在り方は繊細な倒錯感を含む事に成るね
ここで面白いのは登場当初こそワタワタした感が強かった晴世がかすみから「お姉様」と呼ばれ求められる内に本当に”お姉様”っぽくなっていく点か。それは演技を超えた不思議な在り方であるように思える
けれど、対するかすみの方は演技の先にある在り方として”妹”っぽくなったのかというと、どうにもそのように感じられなかったりするんだよね
晴世の手が触れる度にドギマギし、彼女の言葉に感極まり…。それらは自然な言動をであるようにしか感じられない。だからこそ”お姉様”を前に不安を吐露する彼女の姿は”お姉様”に甘える”妹”の姿というより元々かすみが抱えていた不安感が表出したものであるように感じてしまう
ただ、晴世は結構な同性キラー過ぎる気もするけどね!カーテンに隠れて『二人きり』の世界を演出する姿なんて本当に”お姉様”のようにしか見えなかったよ!
こういう娘と逢瀬を重ねればかすみが彼女に心乱されていくのは当然というもの
ただし、二人の関係には表に出せない問題点が隠れているね。エスとしての関係を他者に明かせないというのは勿論あるけれど、少しずつ晴世に対して本気になっていくかすみに対して晴世はまだ無邪気にエスの関係を楽しんでいるかのような印象が拭えない
そうした一端が8話の抱擁に現れたのだろうし、晴世に本来の手紙の主を会わせようなんて余計なお節介に繋がってしまったのだろうし
てか、手紙から始まったエスの関係に先人が居たとは想いませんでしたよ…。文通という面ではかすみと晴世二人だけの関係である点は変わりないけれど、『花物語』に挟んだ手紙という在り方としては二人だけの世界ではなかったようで
そして露わになったエスの先人・沙頼の話はどう受け取るのが正しいのやら……
他の女生徒にもエスの関係を促すかのような遣り口がまず意図が見えないし、「大切な人」である瑞喜に対して今はどのような感情を抱いているのか全く読めやしない
当初は名前すら把握していなかったし、エスの関係を求められたのだって彼女を通して至りたい境遇が有ったから。でも、その後は少しずつ瑞喜に魅せられていった。それは少女愛としてはお手本かのように麗しい物語
学園を舞台に行われていたエスの関係がそれぞれの進路を意識する内に破綻したのはある意味当然の成り行きで
それでも予想を超えたのは瑞喜が見せた怒気と凶刃か。彼女の中では学園を卒業してなお、エスの関係に縋らなければ心の安定を得られなかったのかな…
本編の時期的に沙頼は既に進路を決定している筈。結局沙頼はどのような道を選んだのか?彼女が提案したダブルデートはどのようなエスの未来をかすみ達に見せる事になるのか
沙頼との出会いがかすみと晴世に破綻の未来を齎しそうで少し怖いね…… -
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どうやら本作の底には『花物語』という作品の影響があるようで
自分はその作品は全く知らなかったのだけど、本作を読み終わった後に少しウィキ等を見て、『花物語』を好むかすみと”お姉様”との関係に色々と思うところが出来たよ
とても好ましく感じ中巻へと読み進めようとした本には手紙が挟んであった、なんて書いてしまうととてもメルヘンチックであり出来すぎた舞台装置であるように感じてしまう面はある
しかし、作中でも言及されているけど、電子的な方法によって瞬時の遣り取りが可能な現代において、敢えて時間が掛かる遣り方を選択するのは逆に叙情的と言えるし、それによって通常の遣り取りよりも感情の行き来が際立つ面はあるように思える。というか、現代でも文通している人は居るらしいし
ただ、本作において特殊な点は相手と自分の正体を明かさないし探りもしない点か。”お姉様”・”妹”、そのように呼び合う関係性は現実の人間関係に依拠していないが故に勉強ばかりの毎日に対する息抜きを求めていたかすみにマッチしたのだろうね
面白いのはかすみは”お姉様”との文通に夢中に成りつつも、”お姉様”が手紙に混ぜ込まない思惑を何度も推測したり疑ったりする点だね
それはかすみの生来の気質がさせる行為だろうけど、低速の遣り取りならではの現象と感じられるね
かすみにも現実に面と向かい合って遣り取りする友人は普通にいる。けれど、桃香達に対して”お姉様”相手のように言動の裏を疑ったりしている描写はほぼない。せいぜい桃香が”お姉様”ではないかと疑ったシーンくらいか
口頭での遣り取りなら次々と互いに言葉を交わし合うからその裏を読む余裕なんて無い。けれど、非常にタイムラグがあり、特に自分の言葉が手元に残らず相手の言葉ばかり何度も見てしまう文通は余計に”お姉様”の思惑を考えさせてしまうものとなっているね
それは時にストレスに成りかねない要素。それでもかすみが”お姉様”との文通に夢中になるのはそれこそ彼女が求めるものが手紙から得られるからという理由が大きいのかも知れない
姉的な存在、安らぎ、眩しさ。それらは少しずつ自己肯定のような形でかすみの中に降り積もったのかな?
だとしたら、あの裏切りは本当に惨たらしいものとしてかすみを殴りつける衝撃としてやってきたのだろうな……
最初から予防線を張っていれば、もっと相手を疑っていれば
そのような後悔は今更だからこそ、余計にかすみを苦しめるもの
だというのになぁ……。かすみはそれだけの痛みを背負い、謝罪の手紙を見た際にあれだけの怒りを浮かべた。なのに、再び”お姉様”を待ってしまった。その心情や如何に……
明かされた意外過ぎる”お姉様”の正体。これで文通は正体の判らぬ同士に拠るものから卒業する。それでもエスの関係は続くのか?逆転状態でも”お姉様”と”妹”の関係は続けられるのか?
この時点では物語がどう転ぶか想像もできないだけに、次巻が恐ろしくも有り期待してしまうものでも有り…