7月1日に白水社から発売された『米露諜報秘録1945-2020』を読んだ。
とにかく内容が濃い。
近現代史の知見が得られたのはもちろんのこと、民主主義にはらむ脆弱性についても気づかされた。
本書の主題は第二次大戦後の米ソ・米露関係である。
語り尽くされたテーマにも思えるが、諜報活動や外交についての
...続きを読む膨大な量の機密解除文書にもとづいて書かれているため、歴史の舞台裏を垣間見ることができる。
前半は冷戦時代をあつかっている。
諜報の分野では帝政ロシア以来の歴史を持つソ連に対して、アメリカは素人だった。
アメリカは第二次大戦後にCIAを設立し、ソ連の政治戦に対抗していく。
コンゴ動乱やインドネシア9・30クーデター、ポーランドの民主化運動について、歴史の教科書で読んで知ってはいた。
しかし、諜報活動や外交の記録、関係者の証言を積み重ねることで、教科書からは伝わってこなかった立体的な構造が見えてくる。
後半は冷戦終結後についてである。
旧ソ連崩壊は民主主義の勝利だと思われたが、アメリカはそこで戦略を間違ってしまう。
それがロシアを刺激し、プーチンの反撃をまねくことになる。
クライマックスは2016年のアメリカ大統領選挙だ。
ロシアが大統領選にどのように介入したか、その影響力は本書を読むまで想像できないほどだった。
原著は2020年に発売されている。
アメリカ大統領選の結果が出る前であり、もちろんウクライナ戦争も起きてはいない。
しかしながら、本書を読むとトランプ前大統領による連邦議会議事堂の襲撃や、ウクライナ戦争は必然であると感じられる。
著者のティム・ワイナーは、国防総省とCIAの秘密予算にかんする調査報道でピュリッツァー賞を受賞したジャーナリストである。
日本でも『CIA秘録 その誕生から今日まで』などが出版されている。
膨大な機密解除文書から歴史を紐解いていく技量は素晴らしかったし、文章も巧みだった。
謝辞まで秀逸で、ここまで読ませる謝辞は初めて見た。
歴史や国際情勢に関心がある人だけでなく、民主主義や国家のあり方に興味がある人にもおすすめできる本である。