稲羽白菟のレビュー一覧
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文化大革命時代の中国で、江青ら「四人組」に対抗すべく伝統文化の担い手たちを匿う山奥の円楼「文閣楼」。劇作家や詩人、科学者などが集められたその中で、連続殺人が発生する。自分たちの中に敵のスパイが紛れ込んでいて皆殺しを企んでいるのではという疑心暗鬼で、平和な隠遁生活が崩れてゆく…
600頁を超える大作で序盤は中国の名前が覚えられなくて苦労したが、第二部あたりからは面白くてほぼ一気読みだった。途中に挟まれる江青側のパートは、文革に詳しければ登場人物がわかってもっと楽しめたと思うが、四人組くらいしか知らなくても読むのに支障はなかった。
特殊な背景で起こる犯罪だけにスパイは誰か、殺人犯は誰か、動機は何かなど謎が多く、読み応えがあるミステリだった。 -
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舞台は1960年代中国。毛沢東の夫人・江青らが主導する紅衛兵による知識人への弾圧が進む「文化大革命」の最中、周恩来首相は命を狙われている重要人物達を「文革楼」に逃して匿っていたが、その屋敷内で連続見立て殺人が起こるという話。
「文化大革命」を全く知らなかったので、この凄惨な動乱について調べてから読んだ。「文革楼」というものは実在しないが周恩来首相が文化人や科学者のリストを作成し、保護していたのは史実通りらしい。
登場人物が多く最初は混乱したが、次第に読む手が加速した。文革楼の外での大虐殺、中での連続サツ人という二重地獄の状況である。本格ミステリとしての最大の読みどころは「見立て」だが、その「見立て」にこそ、この地獄の時代・状況を選んだ必然性が見えてくる。途中からはスパイ小説的なハラハラ感もあり、終盤では理不尽な革命に翻弄されながらも自分の誇りを貫く文化人達がいちいち格好いい。
本格×歴史ミステリーの傑作。 -
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◼️ 稲葉白菟
「神様のたまご 下北沢センナリ劇場の事件簿」
シモキタの地域ミステリ。小劇場をめぐる人間模様。続きあるよね?
下北沢は単身赴任時に数回行った。当時のシモキタ駅はすごい高い階段があったような。確かに広くない路地にお安くて小さくてクセのありそうな店がたくさんあるイメージ。劇場もあった。何かの用で夜10時ごろ歩いたこともあり、劇中の雰囲気も少しだけ分かる気がする。
下北沢の複合施設・シモキタザワ・イーストエンドに入っている下北沢センナリ劇場。そのオーナーの孫・竹本洸太朗は大学入学で神戸から上京、2つあるハコのうちセンナリ・コマ劇場の支配人・日英ミックスのウィリアム近松のもとアルバイトとして働くことになる。折しも、ホームズ物語のオマージュを上演しようとした劇団の出演者が小道具として持ち込んだ本物のアレクサンドライトの指輪が見つからず、盗難かという騒ぎが持ち上がるー(神様のたまご)
冒頭のエピソードには「The Adventure of the Blue Carbuncle」という副題がついている。ホームズ短編人気の1つ「青いガーネット」だ。クリスマス時期に盗品の、有名な青い宝石がガチョウの体内から見つかる、というお話。そちこちにパロディっぽい仕掛けも見える。ほか、サスペンスもの「死と乙女」、島崎藤村の詩をロックにする「シルヤキミ」、ちょっとホラーっぽい「マクロプロスの旅」、本格ミステリの色合い「藤十郎の恋」で締めとなる。
劇場に絡む人情もの、という感じがする。基本テイストはコメディっぽい。洸太朗の祖父がセンナリ劇場を立ち上げ、祖母はオーナー、おじがもう1つのハコ「ザ・センナリ」の支配人、小さい頃来た時遊んでくれた女性の和田は制作部長、まりやとダイク、2人の若いアルバイト。この本でも一部の者にフォーカスはされているが登場人物についての掘り下げはこれから、という感じ。これは続巻あるだろうなと。
街ものと舞台もの、両方あって、ステージも有効に使って、ライトなものから本格まで、舞台、芝居を使ったミステリも過程はおもしろい。ワクワクして読める。
青いガーネットのネタについては、議論は尽くされている感があり、プチシャーロッキアンとしてはまあ想定の範囲内。他にもちょっと結末が予想できるな、という作品もあった。謎そのものはどうなるのか、という期待感を持たせる異色さ。でも結末はもうひとつ物足りないかな。
独立した感のある下北沢の街を活かすのもまだまだこれからかと。ただシモキタって憎めない、若いエネルギーが注ぎ込まれている街だなと思う。
とりあえず続巻を注目しようかな。 -
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ネタバレ目を惹く美麗な装丁とタイトルに手が伸びた一冊。
一本の映画を観ているようでした。そして行った事もないカンヌへ疑似旅行したような気持ちになった作品です。
読む前はあらすじから異国が主な舞台なので、頭ついていけるかな?と少々身構えていたんですが、読みやすくてわかりやすく、問題なく楽しんで読む事が出来ました。
メインの登場人物達がオペラ歌手やトップ女優など、華やかで洗練されてる雰囲気が伝わってくる事もあり、情景描写も綺麗で全体が上品な印象でした。
もちろん事件そのものは凄惨なのですが…そう、映画というか舞台を観ているような、それが一番近いかもしれない。ガストン・ルルーの『オペラ座の怪人』のミステリアスさ。綺麗で華やかな裏に潜む冷たい地下への恐怖。
最初からミスリードされてしまうというか、犯人については存在感薄すぎて推理しようがない。ここが惜しい。どこかで印象深く出せていれば動機や心理などに深さがあっただろうけれど、正直「え?誰だっけ?」なぐらいポッと出た感じで。いたんですけど、何の肉厚さもなかったから吃驚。そしてそこから怒涛の実はこうでああで…な、犯人の悲劇過去告白。伏線もなかったから「そ、そうだったの…」ないきなり感にややついていけない。
が、全体のまとまりは綺麗。強く感情を揺さぶられるかという部分は薄い。
プリマドンナとエミールさんとのその後か気になったりしております(*'ω'*)