藤沢桓夫のレビュー一覧
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新しい価値観
梅田新道、中之島、心斎橋、御堂筋から大阪近郊まで職業を持った男女の恋愛模様を描きながら、旧弊な倫理観と新たな価値観を模索して爽やかに生きたいと願う人々の姿を活写しており、物語の展開にスピード感がある。中年男達の卑俗に誘惑されかける若さを「緑の風」というタイトルに象徴させた藤澤桓夫らしいモダンでストレートなメッセージに熱いものを感じ、いつの時代も自分らしく生き抜くことは困難を伴うのだと考えさせられた。
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舞台は東京
藤澤作品には珍しく大阪は、主人公が出張で訪れるのみで、主要舞台は東京である。そのせいなのか、筋運びが冗漫であるように感じられた。どこかこなれていないものが随所に見受けられ、最後まで読み通すのを何度か諦めそうになった。とはいえ、発表年代が昭和33年であることを思うと、男女の恋愛事情は革命的な変化が生じたのだと、一種の証言記録でも読むつもりで、ページをめくった。結婚にまつわる貞操問題が、ここまで小説の題材になりうる時代があったのだと、それも一種の歴史的な記録であるように思えた。つくづく、時代に応じて読者が求める作家というのは多彩であり、小説は進化しているし、文体も変化していると実感できるテキストで