江戸川乱歩がデビューする前に古本屋を営んでいたことは知っていた。
けれどその当時の事は良く知らない。
なので江戸川乱歩が古本屋を営んでいた時代を舞台にした作品ということで大いに興味を惹かれ手に取った作品。
この三人書房という古本屋を営む平井太郎がいかに探偵小説会の祖となる江戸川乱歩に変化していったのか?早く読みたくてたまらない。
まず本名が平井太郎という平凡な名前が意外だった。
江戸川乱歩というペンネームは敬愛するエドガー・アラン・ポーをもじったのと日本のエドガー・アラン・ポーになるという意気込みがあったようだ。
子供の頃、江戸川乱歩の本は表紙が不気味なのもあって怖い物語というイメージが強かった。
そんな江戸川乱歩という妖しげな名前からは想像できない遊び心とユーモアに溢れたペンネームだと知り驚いた。これもトリックのひとつ?
舞台は大正時代の東京、団子坂。
弟二人と共同で営む三人書房という古本屋の周りで起こる怪事件や彼のもとに持ち込まれる様々な謎を探偵役として解き明かすミステリー短編集。
また、松井須磨子、高村光太郎、宮沢賢治、横山大観、宮武外骨など、ちょっと知らない名前もあるけど当時の実在した文化人も登場し時代の空気感を色濃く感じさせてくれる。なかでも宮沢賢治が登場したときはちょっとテンションが上がってしまった。
本作品の短篇の中では『北の詩人からの手紙』と『秘仏堂幻影』が良かった。
宮沢賢治が浮世絵好きなのを初めて知った。葛飾北斎の娘のお栄の壮絶な最後も心に残った。
特に興味を惹かれたのが、作中の短篇が『D坂の殺人事件』や他の乱歩作品のアイデアに繋がっていく描写は非常に興味深く乱歩作品が作られた過程を感じさせてくれる。
また、乱歩の的確な推理で謎を解き明かす様はスカッとした爽快感と未来の文豪の片鱗を垣間見ることができた。
本書は史実をベースにしたフィクションで古書店主時代に平井太郎が自らが描く作品のような怪事件に巻き込まれたら?ifをえがいたミステリーで「本当にあったかもしれない」と思わされるから不思議だ。
そんな若き日の乱歩を感じさせてくれる魅力ある一冊。
残念ながら私はあまり乱歩の作品を読んでいなかった。
なので乱歩の作品をもっと読んでいれば数倍楽しめた作品だと思う。
本書は乱歩作品への招待状、これを機に乱歩とお近付きになりたい。