甘福あまねのレビュー一覧
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なんというか、部活(?)で青春な作品。
先月読んだファミ通作家コラボで読んで気になったので読んでみた。
学校の階段や廊下を走るという変なクラブに入った新入生の話なんだけど、アホなことでも一生懸命頑張れるのは青春だよなあと、妙に懐かしかった(笑)
いや、でも、そんなアホな設定も主人公がだんだん部活に嵌っていく過程が丁寧に描かれていて、すんなり引き込まれた。
この辺り、『ベン・トー』にも通じるものがある。
最後のラリー対決にいたる盛り上がりと、その後の生徒総会場面の安心感が作品を温かくしている。
とはいえ、恋愛要素は希薄で、熱血成分もまだ足らないと思う。
次巻以降、さらに熱い展開になるのか -
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“息を吸い込んだ。
「「「「「「明けましておめでとうございます!!」」」」」」
年始の挨拶とともに、六人は一斉に飛び出した。
「うおりゃああああああ!」
井筒がスタートダッシュを見せる。手に持った懐中電灯をブンブン振って石段に突っ込んでいった。一段飛ばしで駆け上がる。その後を九重と三枝が並んで続いた。幸宏は天ヶ崎とほぼ同時に石段へ飛び込む。ほとんど真っ暗闇の中に身を投じたのだが、まったく怖くなかった。ゴツゴツと均一でない石段の感触も、すぐ足に馴染む。
よしっ、意外と周りも見えるぞ。
外から見たときは真っ暗闇に見えたが、実際に足を踏み入れてみると両脇の明かりがしっかり足下を照らしている。懐中電灯 -
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“その椅子が、ゆっくりと回転する。スクリーンの中の人物が、こちらを向いた。
「!?」
その人物の顔を見て、幸宏は目を疑う。そこにいたのは――
「皆さん、こんにちは。私は、天栗浜高校『女神委員会』会長・吉田行弘です」
吉田だった。吉田が生徒会長の椅子にふんぞり返って不敵な笑みを見せている。そして、スクリーンの外からもう一人の男子生徒が現れた。
「同じく、副会長の渡辺雪比呂です」
今度は渡辺である。こちらも不敵な笑みを張りつけていた。幸宏は混乱する。どうして彼らが生徒会室でこんなことをしているのだろう。
まるでその疑問に答えるかのように、吉田が宣言した。
「『三年生を送る会』にお集まりの皆さん。本 -
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“幸宏は日の光をぼんやりと見つめ、深呼吸をした。まだ空気は冷たいけれど、朝の緩やかな日差しを吸い込むことができたような気がする。
スイッと、横に誰かが並んだ。振り向いた瞬間、相手が囁く。
「おはよう」
美冬の横顔が目の前にあった。彼女の頬に日光が射す。ツインテールの髪が揺れ、幸宏の肩を撫でた。
「……お、おはよう、ございます……」
幸宏はろれつが回らなくなる。美冬はさっさとその場を離れ、天ヶ崎の腕に手を回した、二人して笑う。
……え、えーっと。
日差しが急に暑くなった。視界の隅で井筒と前田がニヤついている。女子に混じって吉田や渡辺、石井も何か叫んでいた。幸宏は顔を多少乱暴に撫でつけ、一つ、ため -
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“「どうして勝てない気がするの?」
「……なんていうか、『武器』が見つからないっていうか」
幸宏は美冬を見る。思いのほか真剣な表情で彼女はこちらを見ていた。
幸宏は「武器」について悩んででいることを美冬に話してみる。
「……そうだね、勘は『武器』にならないと思う」
話を聞き終えると、美冬はポツポツと、考えながら言葉を紡いだ。
「多分、それは『盾』だよ」
「『盾』?」
幸宏は思わぬ言葉に聞き返す。
「自分を守るもの。……決め手にはならないけど、ギリギリで支えてくれるもの、かな」
「僕の『直感予測』が?」”
階段部の次期部長になるのは誰なのか。
幸宏はどうなっているのか。どう変わっていってしま -
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“「……どうして」
どうしてだろう。どこかに隙があったのか?先日の水戸野との一件以来、気をつけるようにしていたのに。勘の良い水戸野ならともかく、槙島にまで見透かされそうになるなんて。
「どうして、放っておいてくれないんだ」
踏み込んできてもらいたくはない。ここからは全て自分ひとりで決める。そんな線引きをしているというのに、自分の周りの人間はやたらと土足でその中に踏み込んでくる。邪魔で邪魔でしょうがない。
「…………くそっ」”
波佐間勝一の問題。
天ヶ崎と水戸野のやり取りが面白い。
三島は幸宏が好きなの?
にしても幸宏は鈍すぎる。
“「あら、文字通りの引っ張りだこね」
そこへ御神楽までやっ -
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“しかし、その予想は覆された。誰もが引くと思っていた場面で、神庭は思い切り前に出たのである。元々、筋肉研究部をネタにして笑うという行為自体があまり褒められたものではなかった。大半の生徒はそれを頭の片隅では理解しているので、御神楽の言葉に笑いながらも罪悪感はどこかにあったはずである。
そこに来て、神庭の思い切った一言。そこまで面白い発言でなくても、暗い嘲笑よりずっと気持ちよく笑える。あいつはどんな計算は一切していなかっただろうが、あれで神庭は心情的に「良い人」の立場に立った。……チャンスだっ。
ここで生徒会長としての力量もプラス評価がつけば、流れは神庭に大きく傾く可能性が高い。
仕掛けるか。
刈 -
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“「……………」
そこにあるのは、やはりただの階段だった。
あ、れ?
スタート。
レースは一方的だった。四階まで上がり切る前に井筒にリードを許し、そのまま彼の背中を追いかけて走る展開になってしまった。今度も階段を飛ばして降りることができない。ゴールするまでに息切れしてしまい、最後は少し歩いてしまった。
「おーいっ。何だよ、それ。本当にテンション下がってんぞ!せっかく俺が……」
怒る井筒に平謝りで応じながら、幸宏自身も苛立っていた。おかしい。こんなはずじゃないのに。自分は、どうなってしまったんだろう。”
神庭幸宏が階段を駆けることに理由はあるのか。
御神楽が普通に怖い。計算づくだ。
遊佐の計 -
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“「愛ちゃん」
凪原が呟いた。隣に立つ三島の唇からも「マキマキ?」という声が零れる。
「どした?」
一番後ろを歩いていた井筒が呑気な声を上げた。瞬間、少女の視線が井筒へと移る。そして、たちまち険のある顔つきになった。再び凪原を見やり、
「何よっ!バカ!」
そう叫んで踵を返した。走り去る。幸宏が唖然としているうちに、凪原が「待って!」と叫んで飛び出し、少女を追いかける。”
月光ダンシングステップと月の女神様の問題。
友達とはどういう関係を指すのか、とか。
凪原ちゃん可愛いよ。眼鏡がマジ可愛い。
マブチとか天ヶ崎とか波佐間とか水戸野とかは、持ち越し?
“『わかってねえなあ』
誰の台詞だったろ -
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“「退部届」と書かれてあった。
「これ。誰がっ?」
幸宏は驚いて左右を見回す。井筒や天ヶ崎、九重も同じ反応をしていた。五人の中でただ一人、刈谷だけが封筒をじっと睨みつけたまま黙っている。
「こなっちゃん先生!何ですか、これ!?ていうか、こんなイタズラするなんて、悪趣味だわ!」
九重が腕を振り上げて叫んだ。あなたが言いますか?と幸宏はツッコみたかったが、今はそれどころではない。小夏を見ると、彼女は黙ったまま刈谷の方を向いた。
「それは、三枝のものだ。恐らくな。そして、冗談でもイタズラでもないぞ」”
天才ラインメーカーが階段を駆ける理由とは。
三枝くんのあの毒舌とそっけなさはテレからでしたか。 -
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“「天ヶ崎泉争奪階段レースを開催致します」
生徒会長の言葉に、幸宏は耳を疑った。どよめきが広がる。夕食の席。生徒だけが集まっている食堂で、遊佐は高らかにそう宣言したのだ。側に立っていた中村がガクッと肩をコケさせた。
「先程、二年の天ヶ崎泉さんが階段部を退部。女子テニス部に移ることになりましたが、女子テニス部は天ヶ崎さん獲得のチャンスを他の全ての部に与えたいと申し出てくださいました。よってここに、『天ヶ崎泉争奪階段レース』の開催を宣言したいと思います!」
オオオオオオオオ!
真夏の太陽に脳をやられた連中が、諸手を挙げて喜んだ。
「さらに生徒会から真夏の特別ボーナス。天ヶ崎さんを獲得したところには -
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“「神庭先生、お願いがあります!」
九重が叫ぶ。と、その足が止まった。
「なあに?」
くるり、振り向いた小夏の姿に他の五人も立ち止まる。幸宏はまじまじと「それ」を見た。
「……小夏姉さん、何それ?」
小夏は人参を咥えている。
それも丸のまま。皮も剥かずに。
「ダメでしょ、神庭君」
ところが、小夏は飄々として言った。
「学校では、小夏先生」
「あ、はい。いや、それよりも、何で人参丸齧りなの?」
「先生には敬語」
「あ、はい。何で、丸齧りなんですか?」
「お弁当よ」
「いや、お弁当で人参丸ごとって……」
小夏のお弁当を見る。ぎょっとした。
弁当ギチギチに人参が詰め込まれている。その一本には小さな旗 -
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“はっきりわかった。
「あーあ。階段部って嫌だよな。神庭、行こうぜ」
「…………ごめん」
幸宏は階段を降りる。ゆっくりと。二人を見つめて。
「ごめん。やっぱりダメだ。確かに三枝さんの言う通りだよ」
「……何が?」
「悪いことだってわかってる。はた迷惑だって小学生でも知ってるよ。でもね」
幸宏は笑みを浮かべていた。
「走り出したら止められないんだ!」
駆け出す。刈谷を追って。吉田たちをすり抜け、階段を駆け下りた。
「神庭!」
「ごめん!バスケ部はパスだっ。僕は」
二階に降りたところで、一度だけ振り返る。
「階段部に入るよっ」”
読みやすいし面白い。
最後の展開には思わずうるっときた。
彼ら彼女