サーシャ・フィリペンコのレビュー一覧

  • 赤い十字

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    奈倉さんの訳という事で触れた当作。思った以上の素晴らしい内容、展開、心が打たれた。
    読みながらも胸のビブラードがふるえ、サーシャの心中、タチヤーナの本懐がすれ違う様で、クロスして行くプロセスに、笑えない現実の重さを感じさせられた。

    彼女が経験してきた人生航路の壮絶さは語りの軽やかさと反比例して居るだけに、圧倒されんばかりの熱が地中で迸っている・・静かなるマグマの様に。

    ただでさえ「鉄のカーテン」が惹かれたソ連、外務省、翻訳という業務・・・そして捕虜名簿。
    フィリペンコという冷たく熱い才能の作家を知れたことは幸い~「理不尽ゲーム」を是非読みたいと思った。

    この数年、ロシアは遠くて未知の国と

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    2022年08月27日
  • 赤い十字

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    認知症のタチヤーナばあさんが、向かいの部屋に引っ越してきた青年サーシャに自身のこれまでのことを語る。戦時下のソ連で夫は捕虜になって帰らず、当局の粛清に怯えて暮らすうち、突然逮捕されて幼い娘と引き離され収容所に送られる。
    当時のソ連が自国民を粛清し、外から差し伸べられる手を無視し続けたことなどがタチヤーナの語りと電文で伝えられる。淡々としているようだが彼女の国家に対する疑問や怒り、深い悲しみが静かに胸に迫ってきた。
    タチヤーナの認知症は、こうした体験が語られることなく風化していくことの象徴なのか?そしてまた似たようなことが繰り返される。

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    2022年07月05日
  • 赤い十字

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    ネタバレ

    アルツハイマーを患っている91歳のタチヤーナの第二次世界大戦前後の話を、妻を失って越してきた30歳の青年サーシャが聞く話。
    後書きで訳者が述べる通り、象徴の使い方や歌謡・赤十字の交信資料の引用が巧みで、ゆっくり読み解いたらもっといろんなものが見えると思う。
    赤い十字は、タチヤーナがソ連外務省で翻訳してタイプしていた赤十字とのやりとりであり、タチヤーナの娘アーシャの埋葬地にタチヤーナが立てた錆びた鉄パイプの十字架であり、タチヤーナの出身地ロンドン・友人パーシカの出身地ジェノヴァの印でもあり、タチヤーナが埋葬され「安らかに眠らせてください」と刻まれた御影石の墓石でもある。人間ではどうしようもない苦

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    2022年04月19日
  • 赤い十字

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    一気に読んだ。とても面白かった。恐らく膨大なアーカイブから着想を得た、粛清のソ連を描いた作品。運命等という軽い言葉では表せない時代。

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    2022年01月25日
  • 赤い十字

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    ばあちゃん、安らかに眠れ
    国家に、全体主義に、独裁者と権力側に虐げられた人々よ、安らかに眠れ

    戦争において敵国は脅威
    ぶん殴ってくる
    自国も味方ではない
    平気で踏みつけてくる

    戦争、紛争は各地で続いている
    新たに起こるかもしれない
    酷かった過去のお話ですまないことを皆知っている
    繰り返してしまう歴史に恐れ慄かなければ

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    2025年09月27日
  • 赤い十字

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    タチャーナの語りを聞いてると、百年の孤独のウルスラを彷彿とするのはなぜか?
    イライラしながらも先が気になる物語である。

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    2024年08月18日
  • 赤い十字

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    ベラルーシのミンスクで語り手であるサーシャと、彼に自分の生い立ちを語る老婆タチヤーナ。
    タチヤーナの語る話は、第二次大戦前のソ連に生まれ、戦争に夫をとられ、夫がナチス・ドイツの捕虜となり、つまり、「虜囚の辱め」に甘んじた裏切り者となったため、反逆者の妻としてとらえられ、娘と引き離され、、、という重なる悲運に満ちた人生だった。
    そのような悲惨なソ連の状況を生んだ張本人はヨシフ・スターリンなのだが、そのスターリンが死に、その悪行が明らかになっても、やがて時間が経つと、スターリンを持ち上げる人々が生まれてくるのだという予言が語られるが、タチヤーナの人生の最後にあっても、その亡霊の様に蘇るスターリンの

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    2023年11月13日
  • 赤い十字

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    ネタバレ

    ロシアからベラルーシのミンスクに引っ越してきたサーシャは同じフロアの91歳の老人・タチアーナの懐古話を聞く羽目になる。最初は嫌々だったものの段々と自ら彼女の人生を聞きに行くようになる。

    恵まれていた子供時代、初恋、外務人民委員部での書類処理の仕事、恋愛結婚、そして開戦。

    赤十字から送られる捕虜の扱いに関する手紙を処理する仕事の最中にタチアーナは捕虜リストの中に夫の名前を見つけ、彼女は大胆な行動を取る。1945年7月、夫の帰りを待っていた彼女は逮捕され娘を取り上げられた上、収容所へ送られてしまう。

    ソ連の人間の尊厳を微塵も大切と思わないお粗末極まりない手段に辟易してしまう。現在の戦争にも通

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    2022年12月22日
  • 赤い十字

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    ベラルーシで何が起こっているのか、少しでも知る手がかりがあるのでは、と思い読んだ。

    著者のサーシャ・フィリペンコは国外で暮らしているそうだ。かつて見たドキュメンタリー番組でも、同じように心あるベラルーシの人々は、リトアニアに脱出していた。ルカシェンコ大統領の不正選挙の後、民主化運動へ息を潜め、ルカシェンコ政権のもと、自由な発言は国内ではできない状態だ。もちろん、ロシア連邦の中でも同様だ。

    どんな発言が許されないのか。
    社会主義の大義に反すること。そして、独裁者の意に背くこと。

    この小説でも、アレクシェーヴィチの「戦争は女の顔をしていない」でも、逢坂冬馬「同志少女よ敵を撃て」でも同様に描か

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    2022年07月22日
  • 赤い十字

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    「生きて虜囚(りょしゅう)の辱(はずかしめ)を受けず」かつて日本が戦時中に兵士たちの訓戒とした言葉だ。それはソ連も同じだった。
    2000年、ベラルーシの首都ミンスクのとあるアパートに青年サーシャが引っ越す事から物語が始まる。同じ階に住む老婦人タチヤーナは91歳でアルツハイマーを患っており強引なコミニケーションで自らの半生を語りだす。彼女が第二次世界大戦で夫が戦地で捕虜になり彼女の生活は一変され放浪されていった。経験した者が話す血の通った話に、青年は引き込まれていってしまう。

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    2022年06月29日
  • 赤い十字

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    著者と同じ名前の主人公、サーシャは、30歳の青年。ロシアからベラルーシの首都、ミンスクに越してきたばかりだ。
    家族に大きな不幸があり、母親が再婚相手と暮らしているこの街に住むことになったのだ。
    だが越してきた早々、階の入口ドアに奇妙な赤い十字が描かれているのを見つける。苛立ちながらそれを消すサーシャに、同じ階に住む老婆が話しかけてくる。十字は老婆が描いたもので、アルツハイマーを患っているため、自分の家の目印にするつもりだったのだという。
    自分の不幸で手一杯で辟易気味のサーシャに、老婆は強引に身の上話をし始める。
    それはソ連の暗部にまつわる、強烈に皮肉な人生の物語だった。

    老婆、タチヤーナは、

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    2022年06月20日
  • 赤い十字

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    引っ越し先で知り合った隣人は、認知症を患う元ソ連の外務省職員。
    夫が他国の捕虜となったことを彼女が知ってしまったことから始まる運命は、軽妙なタッチでぐいぐいと読ませる。
    そしてそこからの地獄は「理不尽ゲーム」同様。

    国家というものが、いかに簡単にそこで暮らす人々を切り捨ててしまえるのか…ジュネーブに残された赤十字のアーカイブ資料は語る。

    最後の一文に悲しみしかない。

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    2022年01月20日
  • 赤い十字

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    サーシャは幼い娘と暮らすため、アパートへ越してきた。隣の部屋に住むおばあさんタチヤーナは、アルツハイマーで最近の事は忘れてしまうことが多いという。ソ連時代に外務省で働いていたタチヤーナは、サーシャに第二次世界大戦中に自分がしたことを話して聞かせる。
    ソ連の粛清を恐れて文章の改ざんをしたタチヤーナ。長い投獄生活を送り、行方不明の夫と娘を探し続けたタチヤーナ。そして、最後にわかった真実。厳しくも悲しい人生だ。

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    2022年07月01日