島崎藤村のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
これは傑作だ……。人の醜さも美しさも全て入っている。とてつもなく残酷な世界だけれど、それでもきっと誰かが見てくれているから、前を向いて歩いていけるはずだと、そう強く信じ願う作品だ。そして今も、文学の必要性を示し続ける作品だ。
丑松は周りの人々をしっかり見ていた。そんな誠実な彼を周りの人々も見ていた。それが、差別を乗り越えて絆となった。今の社会も、この作品の時代と何も変わっていない。差別は吹き荒れ、人は権力に惑わされ、苦しむゆえに他者を傷つけてしまう人もいる。そんな社会で、この作品の彼らのように、私は誰かを見ることができるだろうか。前を向くことができるだろうか。
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Posted by ブクログ
感涙必至!また、日本文学史を少しでも意識するなら、社会性を問うている斬新さから、完全に必読書。
『破戒』が問うている世界は、日本社会そのものの危うさ。関東大震災の時に韓国人を虐殺していることや現代のsnsにおいても人が「これが正義だ!」と思った瞬間、一歩踏み込んで容易に人を傷つけること。人々の「安心」は、隠された攻撃なのかもしれない。
重要なことは、それらと向き合う人々から「人間性」が表出すること。別の世界を目指すことや苦しんだからこそ平然と向き合える新しい世界。たしかに、私たちはそうやって生き延びてきた側面がある。
大江健三郎の『個人的な体験』のラストにも通じる生の可能性は必見。
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Posted by ブクログ
【読もうと思った理由】
直近で読んだ三木清氏の「人生論ノート」の感想欄(雑感)にも書いたが、本書を読もうと思ったきっかけは、ロシア人YouTuberのAlyona(アリョーナ)氏の「これって渋い?好きな日本文学作品について語ってみた」の動画がきっかけだ。その動画では、島崎藤村氏の「破戒」以外の日本文学作品も、いくつか紹介してくれているが、僕が一番興味関心を惹かれたのは「破戒」だった。またAlyona氏が、別の動画で紹介してくれていたが、ロシアでは、文学と国語(現代文)は、そもそも教科(科目)が別々に別れているとのこと。日本だと現代文の中で文学作品も学ぶが、ロシアでは、文学は独立した教科になって -
Posted by ブクログ
それまでの3冊は歴史記述もふんだんで、情景も事細やかに描けていたが、個人的には一人の人間を十分に描ききれていない気がしていたが、最終巻では主人公半蔵の葛藤が分かりやすいほど根深く描かれ、ドラマとして面白く感じることができた。
本来ならばもっと奥ゆかしい表現や慎ましい心理描写に心を砕くことが大事なのだろうが、機微や些細な変化に対してあまり感性がないせいで、こうした大きな展開がなければ作品を楽しめないのは、昔からの性格と言っていいかもしれない。これは読者であるじぶんの欠陥かもしれないが、とりあえず読破には成功し、終章は見事なほど素早く一気に読み通してしまった。
100年前の小説であるが、文学的価値