馬部隆弘のレビュー一覧
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論文作成には先行論文が欠かせない。
論文は再現され、立証され、または反証されて証明されてから価値が出る。
この点、理系の論文は検証されやすいのではないか。
対して、歴史学の古文書がデタラメだったら。
9割の真実に1割の嘘を混ぜるのが嘘つきのセオリーと聞く。
それらしく真実を混ぜ、更に嘘を混ぜ込んだ文書を一つではなく、大量に齟齬なく嘘の体系を作り上げた江戸時代の人物がいる。
椿井政隆、各文書に対するサイン名は多岐にわたる。
この人物が手掛けた文書は膨大で、おもに近畿を中心にした古文書が彼によって作成された。
村同士の争いごとが起きると、どちらかに有利に働く文書を作成した。 -
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一言でいうならば「根が深い」。
作成者である椿井本人の巧妙かつ膨大な偽史料作成、それをさまざまな理由で「是」とした同時代や後世の人々、専門外であるや己の主張や単に気づかないという状態でこれを引用する研究者、地域振興になるから…利益になるからと無批判に利用する自治体。
幾つもの線が絡み合って、今まで「真」として伝わった一連の文書は、これはこれで興味深すぎる事例ではあるけれど、解きほぐすには時間がかかる…。
筆者が何度か述べているように「批判からはなんの利益も生まれない」。「東日流外~」事件でも、限られた研究者人生を偽物の追及にあてるのは割に合わないといわれたが…。
根が深いなぁ。
椿井文書に比 -
Posted by ブクログ
日本最大級の偽文書が、なぜ人々に受け入れられたのか。そして、その結果、どのような影響をもたらしているのか。
大半は、眠たい、歴史の授業のような退屈な内容なのだが…。
人々がこうあってほしいという思いに根拠を与える由緒や歴史的背景を示すことで、多くの人に受け入れられてきたという。分かりやすかったり、耳障りの良いものにはご用心、というのは歴史学上の偽文書に限った話ではあるまい。
今住んでいる枚方市の町おこしや国際交流が偽文書から端を発したもの(カモ?)というのが印象深い。人間の語り継ぐ歴史、物語であるからこそ、人間の感情や思惑が介在せざるを得ない。
「事実」が必ずしも「真実」として語り継がれる -
Posted by ブクログ
ネタバレ<目次>
第1章 椿井文書とは何か
第2章 どのように作成されたか
第3章 どのように流布したか
第4章 受け入れられた思想的背景
第5章 椿井文書がもたらした影響
第6章 椿井文書に対する研究者の視点
終章 偽史との向き合いかた
<内容>
研究者でないと知らない「椿井文書」。ただ近世後期にせっせとこれを作った本人よりも、明治期から戦中期までの思想的影響と戦後の地方史の活性化(および各地方の観光目的の政治的使い方)が、この偽史の扱いをさらに深いものにしてしまったようだ。第1、2章はミステリーのようでなかなか面白い。後半は、うって変わって現代日本のダメなところがいくつも出ている