佐々木昭夫のレビュー一覧
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下巻では3つの章に分かれていて、紀元前1200年から1500年まで、1500年から1700年まで、最後は1700年以降の医学の発達に伴う生態的な影響について述べられています。世界史の教科書を紐解くと殆んどと言っていいほど疫病についての記述がありません。唯一、14世紀にユーラシア大陸全体に流行した黒死病(ペスト)の影響があるだけのようです。しかし、この本を読むと、疫病がいかに人類史に影響を与えてきたかが分かります。
紀元前から人類を苦しめてきた疫病は、ペストに代表されるように、風土病として長らくその土地に留まってきたのですが、ユーラシア大陸でのモンゴル帝国の侵略により、遠くの土地まで拡がってしまいました。その土地の遊牧民の部族は、ペスト菌を保菌している齧歯類(ネズミなど)に対する、感染の危険に対処する方法を昔からの掟を備えていて、疫学的にみても有効な方法でした。…よそから入ってきた連中が地方的な「迷信」として守ろうとしなかったとき、初めてペストが人間的な問題になりました。と著者が書いているように、その土地の慣習は何らかの理由があることを忘れてはいけないのです。
カミュの小説、「ペスト」を思い出しましたが、…完全な健康を保っている人物が二十四時間も経たないうちに悲惨な死を遂げてしまう…事態は、神も仏もない当に不条理な世界です。新大陸でスペイン人などが、インディオ社会や、それまで栄えてきた帝国を滅亡に追いやったのも天然痘などの感染症がきっかけでした。こうした疫病が目に見えない微生物の仕業だとは分からない、当時の人々の精神状態がいかに不安に苛まれるか想像の枠を超えてしまいます。日本でも飢饉などに加え疫病が流行った時代には仏像の建立が成されたのも合点がいきます。
公衆衛生の概念が発達してきた1700年以降の疫病対策は人口増加をもたらし、都市の発展を促しました。また20世紀の初頭には、予防接種を制度とするなどして、軍隊で発生してきた疫病による死者を戦死者より少なくする組織的な取り組みで成果を上げていきます。
こうして今日、私たちは衛生概念の行き過ぎた社会で暮らしています。腸内細菌のバランス云々がクローズアップされる所以です。感染症の制圧ということでは人類が勝利したかに見えるのは多分錯覚に過ぎないのでしょう。マクニール氏が最後に述べているように…寄生する形の生物の浸入に対して人類がきわめて脆弱な存在であるという事実は、覆い隠せるものでない。…ということです。交通網の発達した現代では地球上で感染症の発生、特にパンデミックはいつ起こってもおかしくないということを忘れてはいけないのを肝に銘じました。 -
Posted by ブクログ
著者のマクニール氏は当然歴史家ですが、これを読むと科学者でもあると思うのです。
この本では「世界史」で詳細に触れていない疫病について述べているのですが、数少ない古書を紐解くにしても医学や生物学などの自然科学の知識がないと、感染症ついては到底推測できないからです。グローバル化した現代社会では地球の裏側で発生した感染症が忽ち全世界を脅かす危険に曝されています。最近ではパンデミック寸前だったエボラ出血熱が記憶に新しいところです。今日の人間を脅かす感染症の元となる出来事は、人類の祖先がはるか昔、アフリカの大地から各地に移動していったことに寄ります。熱帯雨林での多様なミクロ寄生の網の中で他の生命体と絶妙なバランスを維持してきた環境から抜け出した人類は、各地で様々な特異な性質を現し、他の動物を圧倒し食物連鎖の頂点に立ちます。爆発的に人口も増えて行くのですが、これにより人体内部の寄生体(微生物)の多様性も失っていたのです。宿主と寄生体のアンバランスが病気を発症させるという基本的な考え方を思い出すと、脆弱なミクロ寄生の環境に身を置いた人類がその後、幾度も目に見えない病原体の侵入に曝され、急激な人口減少を繰り返したのも必然の成り行きなのでしょう。冒頭でアステカ帝国が少数のスペイン人により制圧された要因が疫病にあると推測していますが、これまでの歴史家が焦点を当ててこなかった部分で学際的で納得がいきます。疫病の流行がキリスト教や仏教の布教に影響したというのもなるほどね〜と思いましたし、以前に読んだ孔子の時代をテーマにした小説で南部の地方の医者が薬の処方や治療に長けていると言う記述があったのは理由があったことに気づきました。マクニール氏によると、天然痘の根絶に成功したとWHOが高らかに宣言したとしてもそれは「人類の手による生態学的な混乱のひとつ」であるから、われわれは「依然として地球のエコシステムの一部」であるという人間の本質的な条件に変わりはないといいます。微生物側からするとちゃんちゃらおかしいということなのかもしれません。下巻では 黒死病など具体的な疫病についての考察があるようなのでこれも楽しみです。ネイサン・ウルフの「パンデミック新時代」という本とこの本を並行して読むと尚理解が深まるのでお勧めします。、 -
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世界中で長く読み続けられている中公文庫の「世界史」を書き上げたマクニールが、『疫病』という観点から歴史を紐解いた本。
最近文庫化して中公文庫「世界史」の隣においてある「銃・病原菌・鉄」と似たテーマであり、病気というものが如何に人類に影響を与えてきたのかがよく分かる。
人類を最も多く殺したのは事故でも戦争でもなく「病気」であり、これが常に戦争の結果や文明の運命を大きく左右してきた。
スティルバーグ監督の映画「宇宙戦争」の最後に、酸素が原因で侵略者達が滅亡するシーンがあったと思うが、人類は他の地域から侵略を受ける度に、お互いの病原菌を運んで大打撃を受けてきたのである。免疫力というものが古来の戦争には非常に大きな勝因であるらしい。
よくも悪くも人口を抑えてきた疫病だが、最近はかなりの種類を滅してきたかのように思える。しかし、アフリカ大陸を考えてみるといい。未だに野生の動物が数多く暮らす彼の大陸は、動物が駆逐されない範囲で生態ピラミッドが成立していることを表す。つまり疫病が人口増加の制約として機能しているということだ。
人口が多くなるほど、新たな疫病が広がる確率が高くなる。少し前に起こった鳥インフルエンザもその一つだ。人類の未来を考える上で、唯一の天敵を学ぶことの有意をこの本は教えてくれる。 -
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ネタバレ下巻はモンゴル進出以降の疫病の歴史。黒死病と言われたヨーロッパのペスト禍。この間を含めローマ帝国最盛期からルネッサンス期まで、ヨーロッパの人口は殆ど増加しなかった。そして、新大陸到達におけるインディオの低免疫によるユーラシア・アフリカの疫病禍。絶望的ともいえる人口の減少は数百年かけて奥地の小部族をも全滅させた。
終盤は天然痘。いわゆる種痘免疫法は、古来よりアジアの庶民風俗として定着していたらしい。その技術が英国をはじめとする欧州の王室を救った。また戦死は、従来ほとんど疫病の感染が原因であった。しかし日露戦争における日本兵の集団混合接種により人類史上初めて相手方の攻撃が主因になった。
人類史においては鉄器、大砲、疫病が人口減少に寄与した物であるらしい。(「鉄・銃・病原菌」という本がある)ガンや心臓病が克服されても、人類は疫病とだけは付き合っていかざるを得ないと著者は語る。他生物には人類こそが最大の疫病であろう。 -
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ネタバレ人類に寄生、感染発病する疾病、捕食者を地域と時系列で追った社会学的著書。現生人類の誕生前の樹上生活時から、世界各地に文明が栄える12世紀までを上巻で取り上げている。
著者は寄生を広義にとらえ、ライオン・オオカミなどによる捕食、ヒトによる寄生(略奪・支配)をマクロ寄生とし、微生物についてはミクロ寄生と定義した。さらに気候、統治、農耕による影響を加えて検討している。一例で言えば、ヒトの移動や都市の形成にともない新たな寄生を受けた当初は劇症を発するが、寄生主も生き延びるために変態し、慢性化をして定着していくといった具合である。
読者が印象的であったのは、戦争の必要性(人口、食糧)、風土的疾病による見えないバリア、宗教発祥の地域性など、単なる道徳やイデオロギーでは解し得ない生き物としてのヒトという観点だ。 -
Posted by ブクログ
初稿1974年。本書は疫病がいかに世界史に大きく影響し続けてきたのか、その可能性を提示するものであり、それを裏付ける証拠については、筆者自らが語るように十分ではない。
疫病による世界への影響が改めて確信された2022年現在においては、その主張の全てを受け入れてしまいそうになるが、『熱帯アフリカからの人類進出に大きな影響を果たした』『都市で保持されていた感染症が農村に輸出され、文化圏の確立に影響した』など、本書だけでは判断ができない論説も多く、特に『キリスト教も仏教も、感染症の影響で浸透した』という主張は、あまりにも力点を感染症に置きすぎているように思える。
そもそも1974年の本を正しく評価するには、当時の状況と最新の研究を知らずには判断できそうにない。下巻の題材はAD1200年以降であり、まだ古代よりは証拠が残っていそうなものだが、注意深く読み進めたい。