荒井裕樹のレビュー一覧
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数年に一度に出会えるかどうか、と思えるほどの素晴らしい作品でした。
一貫して平易な文章に努めながら、かつ誘導や断定を注意深く避けながら通説でない北條民雄に迫り、しかも同時に現在社会の病理をさりげなく照らす。
そして、望外の収穫は、この作品を通じて、初めて文学研究という営みの価値を実感することができたことです。
また、「北條民雄に自分の影を見る」の一文は、長年わたし自身が社会に対して納得できないと思っていた違和感を明確に言葉にしてくださっていました。こうした視点を持つ先生だからこその、この作品の高み、とも言えるでしょう。
ひとりでも多くの人に、いま読んでほしい一冊です。 -
Posted by ブクログ
今、日本という国で少しずつ降り積もってしまっている、侮辱し、貶め、罵り、蔑み、差別する言葉の存在に気付くことを促し、その存在に警鐘を鳴らすことを試みた本。
著者は障害者やハンセン病患者たちと長年の交流を行ってきた。
その差別され抑圧されてきた当事者たちの「生(なま)」の言葉を多数引用し、その重みを示す。
戦争の歴史や優生保護法という差別を具現化した恐ろしい法律、ハンセン病患者隔離の事実、精神病を「治す」こと、ALS患者の体験、水俣病の背景など、事実を紹介することに留まらず、それに関する著者の経験の中にあった「言葉」に着目し、問題の正体と改善策を考えようとしている。
例えば、戦時中の障害者 -
Posted by ブクログ
ネタバレツイッター(現X)でおすすめされてたのをきっかけに読んだのだけど、とても面白かった。
障害者差別の話だから、青い芝の会の話はあるだろうなと思ってたら全部青い芝の会の話だった。
体を張ったすごい運動をしたことは知ってたけど、行動綱領や理念などはちゃんと知らなかった。障害者本人の視点から語られる差別、本当にまったくそんなこと考えもしなかった!みたいなことばかりだった。
例えば、障害児の子育てに疲弊した親が子供を殺してしまった時、その親にばかり同情が集まり、殺された障害児のことは置き去りにされてしまっているとか。車椅子でバスに乗るために介助者が必要な時、それはその場に居合わせたすべての健全者が介助 -
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ネタバレ〈筆者の立ち位置〉
・ぼくの仕事は「言葉そのものについての研究」というよりも、「この社会に存在する数々の問題について『言葉という視点』から考えること」といった方がしっくりくる。 p20
・ぼくの専門は「非抑圧者の自己表現活動」。こう書くとなんだか仰々しいけれど、簡単に言うと、この社会の中で、いじめられていたり、差別されていたり、不当に冷遇されていたりする人たちは、厳しい境遇にいる自分のことをどのように表現するのだろうかーーといった問題について研究している。p20
〈気に入った章やエピソード、言葉の一部〉
・のび太のママにひとこ -
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苦しくてつらい状況に巻き込まれてしまった時、忙しすぎて心を失いそうになった時、不安で頭がいっぱいで何も手に付かない時、誰かの都合や機嫌を気遣いすぎて疲れた時、社会や世間に合わせるのがしんどくなった時・・・・・そうした時に、水面から顔を上げて、大きく息を吸うようにして、自分で自分を確かめたくなることがある。
自分はこういうことが好きだったんだとか、自分はこういうことに傷つくんだったとか、自分はこうしたことが嬉しいんだったとか、そうそう自分はこういう人間だったんだとか、自分は今日こういうことをしたんだとか、自分にはこうした思い出があったんだとかーこうした些細な再確認が、生きていると時々、必要にな -
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ネタバレ障害、病、公害、育児、ジェンダー、差別、社会、言葉。正直なところ大学生の自分には、この本で綴られた言葉を真に理解することはできなかった。それも当然なのかもしれないと思う。この本にある言葉はどれも、社会の中で我が身を燃して戦い、全身全霊を生きて、生きて、生き抜いた人々の言葉だ。
まさに、要約しようもない人生が詰まっていた。自分はこの社会で生きながら、こうした人たちを見ずに生きてきたのだと痛感する。ただ、遠くから眺めているだけの人間にすぎない。このままでは、いけない。もっと声を聞きたい、言葉を知りたい。
文中で紹介された、脳性マヒの男性が読んだ詩が心に残っている。
『母よ 不具の息子を背負い
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【目次】
まえがき:「言葉の壊れ」を悔しがる
第一話 正常に「狂う」こと
第二話 励ますことを諦めない
第三話 「希待」という態度
第四話 「負の感情」の処理費用
第五話 「地域」で生きたいわけじゃない
第六話 「相模原事件」が壊したもの
第七話 「お国の役」に立たなかった人
第八話 責任には「層」がある
第九話 「ムード」に消される声
第一〇話 一線を守る言葉
第一一話 「心の病」の「そもそも論」
第一二話 「生きた心地」が削られる
第一三話 「生きるに遠慮が要るものか」
第一四話 「黙らせ合い」の連鎖を断つ
第一五話 「評価されようと思うなよ」
第一六話 「川の字に寝るって言うんだね」 -
Posted by ブクログ
ネタバレ”「言葉が壊されてきた」と思う。
(中略)日々の生活の場でも、その生活を作る政治の場でも、負の力に満ちた言葉というか、人の心を削る言葉というか、とにかく「生きる」ということを楽にも楽しくもさせてくれないような言葉が増えて、言葉の役割や存在感が変わってしまったように思うのだ。”
”「言葉が壊される」というのは、ひとつには、人の尊厳を傷つけるような言葉が発せられること、そうした言葉が生活圏にまぎれ込んでいることへの怖れやためらいの感覚が薄くなってきた、ということだ。
(中略)
対話を一方的に打ち切ったり、説明を拒絶したり、責任をうやむやにしたり、対立をあおったりする言葉が、なんのためらいもなく発 -
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いい本だった、心に響いた、深い、
どれも薄っぺらくてこの本の感想を書くのには
相応しくないと思う。
(自分で書いていて)
それだけ言葉の力は大きい、
そして言葉を発することは生きることに繋がっている。
どんな言葉を選んで使うのか、
自分の感情や思考にピッタリの言葉。
それだけでなく、世の中の思想についても。
「人権の尊重」尊重を、別の言葉にする
もっと適切で思想まで想像できるもの。
また、障害者や被害にあった人たちへの言葉。
心ない言葉が人を傷つける、言っている側に
自覚はない、だから怖い。
いつ私が人を傷つけてしまうとも限らない。
「刻まれたおでんはおでんじゃないよな」
その言葉の中に含ま -
Posted by ブクログ
ネタバレ※このレビューでは「障害」を「社会構造の側にある問題」と捉える考え方に沿い、「障害者」という表記をしています。
昨今の社会的なトピックを目にするうちに個人的に学ぶ必要性を感じたことがあり手に取った本。
障害者差別を問い直す、というタイトルだけれど、この本では「日本脳性マヒ者協会 青い芝の会」の活動が中心となっている。
どれだけ差別問題に関心がある「つもり」で、自分は差別に加担しないように心がけている「つもり」でいても、彼らの語る「健全者」としてこれまでの人生を過ごしてきた私は、これまで無自覚に彼らに向けていた眼差しを彼ら自身の言葉によって自覚させられ突き返される。彼らの眼差しによって自分