矢野久美子のレビュー一覧
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アーレントの生い立ちから始まる生涯と代表作の内容の平易な説明を通して彼女の難解な思想を読み解く入門となる素晴らしい本だった。さらに深く知る上でアーレントの著作をこれから読む必要はもちろんあるが、友人との交流を大切にし、多くの影響を受けた彼女の思想を知るには著作のみでは限界があるのでそういう意味でも伝記色の強い本書はそこまでカバーできているので読む意義があったと思う。
彼女の政治哲学には難しい部分ももちろん多いが、根底にあるのは''現実を理解し事実を語ること''ということだった。また彼女の人柄としては友人思いで、とても誠実な人物なのだと感じた。そんな彼女が -
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ネタバレ自分の身にふりかかる不合理な現実を必死で理解し、思想という形で昇華させて世界に還元するとハンナ・アーレントの、恐るべき知的自力再生産能力、とでもいうべきものに感嘆してしまう。少しでも吸収したく、付箋をはりまくる、メモをとりまくる。
こんなに分かりやすく本をまとめてくれた著者にも感謝したい。
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〇子供の頃の経験(学校で教師に侮辱されたら即帰って良い、という母の教え)
・相互の尊敬
・無条件の信頼
・社会的・人種的差別に対する純粋でほとんど素朴と言ってよいほどの軽蔑の念
〇人は、攻撃されるものとしてのみ自分を守ることができる
(ユダヤ人として攻撃されるなら -
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ごくごく最近になって名を見聞きするようになった「ハンナ・アーレント」。どんな人だろうとこの本を読んでみた。アーレントの人生をたどりながら著者や論稿の要旨、アーレントの思想がまとまっていて入門書としてとてもいい。
ユダヤの血が流れているとか、『全体主義の起源』(アーレント自身は「全体主義の諸要素」とすべきだったと後悔しており、確かにそうだと思う)という著書があるという程度の前知識から、ナチ批判やユダヤ人に寄った思想の人だと思っていたけど、実はアイヒマン裁判をめぐる論ではユダヤ系はじめリベラル派から大いに非難されたりもしている。でもその考え方は、そういった自分のバックボーンを差し置いてとても公正な -
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ハンナ・アーレントに興味を持ったのは映画を見たからかもしれないけれど、この間100分de名著の仲正昌樹先生の本も一気に読み終わって、原本に行く前にこの本を読んでみた。めちゃくちゃ面白い。
考えたのはワタシが人間であることと日本人であることは同義なのか違うのかってこと。あと、人種を最近やたらと感じることが多くてそういうことについても考えた。複数性の大切さ。全体主義に向かう恐ろしさ。
例えば、もしも地球上では人種間での争い事があったとしても月に行ってまで国家にこだわる必要性はあるのかどうかとか考えてしまった。何かを誰かを排除して出来上がる正義は本当の正義なんかじゃなくてまやかしなのではと思う。
複 -
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気になる著者、著書があると、入門書とか、ガイドブックみたいなのに頼らず、まずは原著(もちろん翻訳のね)を読む。分かろうが、分かるまいが、とりあえず1〜2冊読んで、自分なりに理解した感じをもって、ちょっと「入門」を読んでみる、というのが、自分の読書スタイルかな?
本はそれ自体が一つの世界で、「人とその思想」みたいに読むのではなくて、テクストとして何が書かれているのか、ということにフォーカスすべし、みたいな考えも結構染み付いている。
ということで、アーレントも、そのパターンで、原著と悪戦苦闘中。
一応、最後までたどり着いたのは、「暴力について」「イェルサレムのアイヒマン」で、主著(?)の「活 -
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ネタバレ2013年に日本で公開された映画『ハンナ・アーレント』は、戦後にアメリカでも名声を確立していたアーレントがアイヒマン裁判に挑むという時代設定であったが、これを読むとそれまでの彼女にどういう経歴があってあの裁判にたどり着いたかのかということが理解できるだろう。
映画を観てアーレントに興味を持った人が『全体主義の起源』や『人間の条件』などの原典を紐解く前に、取っ掛かりとして読むのにちょうどいい入門書。
この本ではアーレントの生い立ちから、ハイデガーやフッサール、ベンヤミンとの出会い、ドイツを追われた後のフランスの収容所生活、そこからアメリカへ亡命、無国籍なユダヤ人という賤民の認識(←ここ注目)、ハ -
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本書は20世紀の哲学者アーレントの生涯と彼女の思想についてまとめたものになります。アーレントといえば「全体主義の起源」「人間の条件」などの著作が有名ですが、本書を通じて、彼女の原体験的なものの理解が深まり、思想の背景にあるものが何なのかなどとても考えさせられました。新書なのであっという間に読めるかと思っていましたが思いのほか時間がかかりました。その理由は2つあります。1つ目はアーレントの思想が独特に感じる箇所があって、理解に時間がかかる点。2つ目は、理解できた後に、「なんて深い洞察なんだろう」と感銘を受けて、自分自身の「思考」プロセスが開始されてしまうことです。この2つ目がすごく重要だと思うの
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20世紀を代表する政治哲学者でハンナ・アーレント(1906-1975)の生涯と思索をコンパクトにまとめた入門書。
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アーレントの生涯の主だった出来事をごく簡単にまとめてみる。
1906年、ドイツで誕生。知的で裕福なユダヤ人家庭で育ったケーニヒスベルクでの少女時代。マールブルクのハイデガー、ハイデルベルクのヤスパースに師事した学生時代。反ユダヤ主義を掲げるナチスが権力を握ったためパリへ亡命。シオニストの社会活動家として働きながらベンヤミンをはじめとする知識人と交流したパリ時代。第2次大戦勃発によりフランス政府から「ドイツ人=敵性外国人」とみなされ収容所へ監禁、翌年ドイツによるパリ占領の混 -
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人間の行動や価値観は環境によって定義される、ということを強く感じたきっかけが、アイヒマン裁判、そしてハンナ・アーレントという人の存在だった。
何となく知ってはいたものの、彼女自身の人生や、思想そのものについてきちんと触れたことが無かったので、この本を読んでみた。
哲学的、抽象的な表現も多く、また哲学者や思想家の知識に乏しいので、理解しきれていない部分もあるけど、自分の頭で考えることの大切さと、考えずに思考停止してしまうことの恐ろしさを改めて学ばせてもらった。
「『物の周りに集まった人々が、自分達は同一のものをまったく多様に見ているということを知っている場合にのみ』世界のリアリティは現れる