『人新世の資本論』の資本主義側からの批判書として話題になっていたので、読んでみた。特定の著作に対しての批判は古典ならまだしも、現代の新書でこのような形で出版されるのは珍しいのではないだろうか。
同い年の学者による資本主義vsマルクス主義というバトルでかなり期待したところはあったが、『人新世の〜』に比べると物足りなさを感じた。そもそも『人新世の〜』で語られる脱成長コミュニズムへの批判というより、20世紀的共産主義への批判が大部分を占めており、『人新世〜』の世界観を十分にふまえて批判しているのか怪しい所が多々あった。もちろん脱成長社会のユートピア的な要素、成立条件の甘さなど的を得た批判だと共感した箇所もあるが。『人新世〜』に対する資本主義側からの批判を知りたいのであれば、最終章の第7章のみ読めば十分だろう。
資本主義側には「データ」という強力な武器がある。そのほとんどは資本主義に有利なものではあるのに、それが本書では十分に活かしきれていない。広い視点で見れば、確かに人類は皆豊かになっている。「平均」の指標は良い方向に向かっている。ただ『人新世〜』の世界は「私たち」それぞれが豊かになる社会を目指しており、大多数の「貧しい者」がその主役である。自由貿易により「価値」的に豊かになること、トリクルダウンにより富が分配されること、増加する自然災害を科学で制圧することが、どのように「私たち」を「豊か」にするのか資本主義の立場から論じることで応答になっていくのではないだろうか。物質的な豊かさを得るには資本主義は必要であったし、これからの必要性を示すだけの武器も十分に揃っているような気がするので新たな批判本にも期待したいところである。
内容とは関係ないが所々誤字脱字があるのが個人的には気になった。