成功要因1:ライフタイムバリューの最大化
カスタマーサクセス原則その1:成功を届けられるカスタマーとの末永い関係に責任をもて
1-1:カスタマーの「成功」を正しく理解する
1-2:成功を届けられない相手に売らない覚悟と仕組みを持つ
1-3:成功を届けるまで責任をもって行動する
成功要因2:買ってもらってからが勝負
カスタマーサクセス原則その2:素早く・負荷なく・漏れなく成功を届けよ
2-1:オンボーディングで「ワオ!」を素早く届ける
2-2:カスタマーがイライラする負荷をなくす
エフォートレスはロイヤルティと強く相関するが、感動や満足とロイヤルティの相関はとても弱い
・問題を抱えた顧客の心は「感動させるサービスは要らないから、とにかく早く問題を解決し、再び今まで通りに使えるようにしてほしい」という感情で満ちている
・ロイヤルティが消滅する主要な要因五つのうち四つは、不必要なエフォートを要したことに起因する
・ひどいカスタマーサービスを体験した人が否定的な口コミをする可能性は非常に高い(65%)
・「満足している」と「その後のロイヤルティ」の間に統計的な相関関係は全くない
・チャーンする顧客の6~8割は、直前の調査で非常に満足・満足と回答している
2-3:漏れなく確実に成功を届ける
成功要因3:手放せない・外せないプロダクト
カスタマーサクセス原則その3:プロダクトチームとサクセスチームがベタベタに連携せよ
3-1:プロダクトチームがカスタマーの声に触れる時間をサクセスチーム主導でつくる
プロダクトチームにとってVoCは全ての起点だ。プロダクトの開発中は市場調査を行って意思決定や優先順位づけの根拠とする。プロダクトの上市後も、実際にプロダクトを使うカスタマーの意見や要望をどんどん反映し最高のプロダクトに磨き上げていく。この磨き上げプロセスはとても重要だが、そこに落とし穴がある。あらゆるカスタマーの課題や要望を理解しようとしてより多くの人の声を聞き、届いたニーズすべてをプロダクトに盛り込んでしまうことだ。米国ではこれを「プロダクトの死のサイクル」と呼ぶ。真に強いプロダクトは本当に必要なものだけがシンプルに揃う研ぎ澄まされたものでなければならない。それには「削る・止める」判断が非常に重要だ。正しい判断をする上でカスタマーサクセスチームは大いに貢献する。彼らが「カスタマーの目利き」をすることで、プロダクトチームが耳を傾けるべき「この人の声が重要」を明確にするのだ。
3-2:カスタマーデータからサクセスチームが洞察を抽出しプロダクトチームへ渡す
3-3:理想的なカスタマーの「人物像」と「成功への道のり」を一緒につくる
3-4:共有するゴール指標を最低一つ設定して進捗を定期的に確認しあう
成功要因4:データからカスタマーの未来を創る
カスタマーサクセス原則その4:データの統合・分析に投資し組織全体でデータをフル活用せよ
4-1:データの統合・分析に投資する
4-2:組織全体でデータをフル活用する
成功要因5:スケーラビリティ構築力
カスタマーサクセス原則その5:カスタマーの手と知恵を活かせ(そのための基礎を育め)
5-1:自助・互助が促進される基盤を丁寧に育む
5-2:マーケティング機能をバージョンアップする
■カスタマーセントリックな企業(定義)
1「私がカスタマーなら」を常に考える。何かを判断する時は「私がカスタマーなら賛成か?」を必ず問い、カスタマーの成功につながることが常に最優先で意思決定される
2カスタマー体験の良し悪しと彼らが手にした成功を数字で測定している。それが企業の経営目標とリンクしていて、各組織はその経営目標の一翼を担うことで組織が一枚岩になっている
3カスタマーの声を収集しプロダクトや業務に反映するフィードバックループの仕組みがある。結果として企業のあらゆる活動が首尾一貫して素晴らしいカスタマー体験に直結している
■カスタマーサクセス人材
1共感性(Empathy)が強い
2感情よりも論理(ロジック)やデータを優先して意思決定する
3関係性(リレーションシップ)を重視し長期・全体へ目配りできる
4自分と違うタイプの人と知り合うのが好きで影響力を活かした協業が上手い
5未知のことに挑戦し未踏のフロンティアを歩くのが好き
2026/4/18
リテンションモデルとは(定義)
リテンションモデルを定義しよう。本書では、以下4要素すべてを満たすプロダクトをリテンションモデルと定義する。
1 利用者が、日常的・継続的にそのプロダクトを利用し、モノの所有に対してではなく成果に対して対価を払う
2 利用者が、いつでも利用を止める選択権を持ち、かつ初期費用が非常に少なくてすむ
3 利用者が、それ無しでは生活や仕事ができない・使い続けたいと断言できるほど明らかにプロダクトが常に最新状態に更新・最適化され続ける
4 利用者が、自分にとって嬉しい成果を得られるならば、自分の個人データをプロバイダーが取得することを許す
興味深い例は、米ドラッグストアチェーンのウォルグリーン (Walgreen) のポイント制度だ。約1億人のアクティブユーザーをもつ同社のポイント制度「バランス・リワード・プログラム」は、もとは購入金額に応じてポイントがたまる一般的なものだった。数年前から、医師が開発した理論に基づく行動変容トレーニング手法に基づき、運動や禁煙行動に対してポイントを付与する「ヘルシーチョイス」が追加された。運動したり、血圧や血糖値を自宅で測定したり、体重を記録する毎にポイントがつくのだ。フィットビット(Fitbit)など10種類以上の健康管理デバイスとデータを連携できて使い勝手もよい。
この事例で注目すべきは、ウォルグリーンがカスタマーの店舗外の日常的な行動データを継続的に入手している点だ。ドラッグストアに毎日行く人はいないが、散歩や体重測定を毎日続ける人は多い。カスタマー個々人のプライベート情報である身体データ・行動データを、リワードに紐づけることでウォルグリーンは自然に取得している。それらのデータに基づき、来店を促す個別化された働きかけがなされるだろう。ユーザーにとっては、運動を継続する動機づけになるし、ウォルグリーンを使い続ける動機づけにもなる。
この「データ入手/継続的働きかけの日常化」トレンドを必然性から加速させる要因が実はもう一つある。それは⑨「利用ギャップの増幅(手間の必須化)」だ。
図1-10で説明しよう。デジタル技術が進化すると、プロダクトでできることが加速的に増大し複雑化する。一方、人間が技術を利用する能力の向上には限界ができる。園田
デジタル時代は、「商いは買っていただいた後が大切」の精神で「カスタマーに成功を届ける」ことが必須だ。それがカスタマーサクセスの本質である。それは同時に、リテンションモデルで成功するための秘訣そのものだ。
カスタマーサクセス原則
リテンションモデル定義/リテンションモデル成功要因/モノ売り切りモデル成功要因
【その1】成功を届けられるカスタマーとの末永い関係に責任をもて
利用者が、日常的・継続的にそのプロダクトを利用し、 モノの所有に対してではなく成果に対して対価を払う
/ライフタイムバリューの最大化≫関係の長さ×深さ
/ワンタイムバリューの最大化≫販売規模の大きさ
【その2】素早く・負荷なく・漏れなく成功を届けよ
利用者が、いつでも利用を止める選択権を持ち、かつ初期費用が非常に少なくてすむ
/買ってもらってからが勝負≫育成・支援の有効性
/買ってもらうまでが勝負≫認知と配荷の効率性
【その3】プロダクトチームとサクセスチームがベタベタに連携せよ
利用者が、それ無しでは生活や仕事ができない・使い続けたいと断言できるほどプロダクトが常に最新状態に更新・最適化され続ける
/手放せない・外せないプロダクト≫(テクノロジー+成功ブリッジ) ×体験
/買いたい所有したいプロダクト≫品質×コスト
【その4】データの統合・分析に投資し組織全体でデータをフル活用せよ
利用者が、自分にとって嬉しい成果を得られるならば、 自分の個人データをプロバイダーが取得することを許す
/データからカスタマーの未来を創る≫前方/予測重視
プロダクト(モノ)の実績を見える化≫後方/結果重視
予測的な対応
受け身の(リアクティブ: reactive) 対応
・カスタマーからの働きかけ(例:問い合わせ、チャーンの連絡、追加契約の申し出など)を受けて対処する行動
・働きかけにつながった要因を特定する原因解明分析をする
先回りの(プロアクティブ: proactive) 対応
・カスタマーからの働きかけはないが、将来起きそうな働きかけの「兆し」を見つけ、働きかけられる前に先回りする行動(例:バグ修正、社長訪問、アップセル提案など)
・結果につながる兆候と結果を変えるのに必要な行動を特定する因果関係分析をする
予測して仕向ける(プレディクティブ: predictive) 対応
・働きかけもその兆しもないが、ビックデータから統計解析等をすることで「こういう人は・こういう時・こうしたらこうなる」という法則を見出し、その法則に則って、 対象となるカスタマーを望ましい結果へ仕向ける行動
・望ましい結果は究極的にはオンボーディング率・アダプション率の改善、ないしアッブセル・クロスセルの増加。仕向ける打ち手はUX改善、トレーニング、提案営業など奇策ではないが、成功確率の高い相手に最適なタイミングで仕向けるため、効果は非常に大きい
・「こういう人は・こういう時・こうしたら・こうなる」法則を特定する認知行動分析をする
【その5】カスタマーの手と知恵を活かせ (そのための基盤を育め)
リテンションモデル成功要因1~4
スケーラビリティ構築力≫セルフサービス ×ピアツーピア
ヒット商品創出力≫企画開発×マーケティング×営業
「カスタマーは誰か?」そして「自分たちの提供価値は何か?」を明確に定義した
一般高校生・受験生向けで始まったスタディサプリだが、学校教育改革の機運をうけ、現在は高校でも採用されている。高校向け(toB)サービスは、従来の生徒向け(toC)サービスに先生向けサービスが付加される。先生は、オンラインで宿題を配信して生徒に学習を促したり、到達度テストの結果を踏まえて学習進捗を管理したり、オンラインのコミュニケーションも活かして一人ひとりをきめ細かく指導したりなど、生徒の学習・進学の手助けを効率的・効果的に行える。一方、生徒は自分のペースで学べ、学校の先生や同級生、先輩から助言をもらって動機付けられながら勉強できる。
とても分かりやすい価値あるサービスだ。しかし、高校向けサービスを始めた当初の数年間に同社は痛手を負う経験をした。それは、高校向けサービスを生徒向けサービスの延長で始めてしまい、そもそもカスタマーは誰なのか? 生徒なのか、先生なのか、保護者なのか? カスタマーへ届ける価値は何なのか? という議論が十分ではないままマーケットの拡大を図ろうとしてしまったのだ。「営業のリクルート」と言えば、誰もがその凄さを否定しない。立ち上げて数年で導入校は千校を優に超え、売上も急成長した。問題は、 その後に継続利用につながらない高校が多数でてきたことだ。日本全国で数千校という限られた市場で、本質的な「誰に何を届けるのか」が定まっていない荒い営業をすれば、成長が止まるどころか営業先がなくなってしまうことを意味する。明らかに死活問題だった。
そこで同社は基本に立ち戻り、社内でも人によって定義がバラバラだった「カスタマーは誰か?」を徹底的に議論し、「カスタマーは先生である」と定めた。同時に先生へ提供する価値も明確にした。即ち同サービスの提供価値は、スタディサプリというツール自体でも、それが生徒に利用されることでもなく、スタディサプリを通じて先生が抱える課題を解決する、要は先生に成功を届けることが価値だという点を明確にした。成功の内容は「生徒の成績が上がり希望の大学に進学する」、「成績がふるわない生徒に学習習慣がつく」 「指導によい評判がたち入学希望者が増える」など先生によってさまざまだ。しかし共通するのは「利用される」こと自体が目的ではないということだ。どれほど多く利用されても、先生が成功を手にできなければ価値を提供したことにならない。
教育はそもそも時間がかかる世界だ。教育を使命とする先生へ成功を届けるのは一筋縄いことも決め、 ではいかない。そこで、成功を届けることを短期で一足飛びにしようとしないことも決め、 段階的に価値を提供していく道筋を明確にした。こうして、「スタディサプリというツールを入れて終わり」ではなく、必要なら導入先のシステムガバナンスを一緒に考えたり、 悩んでいる先生の相談相手になったりなど、「買っていただいた後が大切」の精神を大事にした行動を広げていった。
重要なポイントは、テクノロジー「以外」の部分、特に「手間要らずで安心・安全に配送できる」ことは、「誰かには価値があるのに「捨てる」をなくす」が目的のメルカリというプロダクトの重要な価値だという点だ。
こうした配送価値を提供するためのパートナー企業、具体的にはヤマト運輸、セブン-イレブン、JCBは、実は当初「CtoCとは提携しない」という姿勢だった。その壁をのり超えてメルカリが提携できた秘訣はカスタマーサポート(同社では「カスタマーサービス」と呼ぶ)にある。同社はカスタマーサポート機能が充実していることを数字も用いて時間をかけて丁寧に説明し理解してもらうことで、大手企業であるパートナーの不安要素を一つ一つ解消していった。一般的に、カスタマーサポートはコストセンターと位置付ける企業が多い。しかしメルカリのカスタマーサービスは、お客さまがプロダクトを使い続けることに直結するためプロフィットセンターの位置付けだ。