ケイト・クインのレビュー一覧
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“エニグマ”
第二次大戦以降の世界を左右する“情報戦”の象徴て、数々の映画やドラマで取り上げられたドイツの暗号。
その解読に成功したイギリスにある暗号解読施設(BP)は秘密厳守を絶対とした。
これはそこで働くひとたち(多くが実在の人物をモデルとしている)の物語
最も多感で華やぐべき時期を、戦争という環境下で過ごさなければならなかった三人の娘たち。
ケイト・クインの跳ねるような文章で描かれた三人の青春の行方は、逞しく、美しく、悲しい。
特に、フランシスからマブへの手紙の数々は圧巻
そんななか、戦時中と並行して時折描かれた1947年のベスは、なんだか怪しい状況にある。
いったい何があったのか……
最後のキーは“ローズ・コード”
前二作同様に歴史ミステリーではあるが、時代の中で精一杯生きる女性たちの姿がかっこいい。 -
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第一次世界大戦中に対ドイツのスパイ網「アリスネットワーク」を築き上げた女性スパイがいた…という史実を下敷きにした話。
第二次世界大戦後、行方不明の従姉妹を探すアメリカ人女性のシャーリーが、元アリスネットワーク所属の老女イヴとともにフランス中を探し回るという探索行。
イヴが現役のスパイだった過去のパートと、シャーリーが従姉妹を探している現在のパートとが、交互に語られる。
本は厚いが、過去パートはハラハラしっぱなしで、現在パートも尻上がり的にドキドキハラハラ感が上がってくる(おまけにロマンス成分もあり)という良質エンタメ作品でした。
ハッピーエンドなのも良い。 -
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毎年一冊邦訳されるペースで、しかも間違いなく傑作で力作と言われて恥じない作品を供給し続けている女流作家ケイト・クイン第五作の本書は、何と台湾生まれの歴史小説家ジェイニー・チャンとの共作である。毎作、歴史に材を取りながら、驚くべき着眼点に驚愕させられっ放しのケイト・クインだが、本書では1906年サンフランシスコで実際に起こった壊滅的大地震を背景に、許しがたき権力の刃を振るう実業家の許し難き犯罪と、震災後パリに舞台を移した四人の女性たちによる復讐劇を描き切った、いつもながら骨太の歴史冒険大作である。
着目すべきは、本書がケイト・クインとしては初の二人の女性作家による共作であること。オペラ歌手になるという壮大な夢を抱えてサンフランシスコにやって来るジェマ・ガーランドと、チャイナタウンに暮らし身売り同然の結婚を強いられ打開を図ろうとする洗濯屋の娘フェン・スーリン。この全く出自も性格も異なるダブル主人公を二人の作家が交互に描くことで、大地震を契機に結びつく四人の女性たちの友情と、震災後、パリに舞台を移した復讐劇の壮大な流れを見せる、いつもながらの骨太な国際冒険小説なのである。
着目すべきは、ジェマを描くケイト・クインと、フェンを描くジェイニー・チャンという本邦初披露の作家による二大実力派女流作家による共演であろう。全体はこれまでケイト・クインが書いてきた4つの戦争大作を引き継ぐ歴史小説のネジをさらに巻き戻した大戦前夜の物語でありながら、戦火の代わりに歴史的大火によって壊滅的打撃を受けるサンフランシスコの様子を、リアルな筆致で、しかも四人の女性の運命を決定づける劇的要素を加えつつ描き切る二大作家のストーリーテリングが何とも魅力的であることだ。
要するにこれまでケイト・クインを読んできた読者を全く裏切ることのない同レベルか、またはその上をゆきそうな勢いを持った作品であることは間違いない。つまり、ジェイニー・チャンもこれまで邦訳作品は未紹介ながら、ケイト・クインと同レベルの凄腕作家であるということである。そうでなければこのような共作はそもそも存在しなかっただろうけれども。
震災前のサンフランシスコのチャイナタウンの活気とそこに息づく移民たちの生活ぶりは本作品の魅力的なところである。主人公少女は洗濯屋の娘でありながら、男の子のような姿で活気あふれるチャイナタウンを駆けまわる彼女は叔父の命により勝手な結婚を迫られている。地震を契機にそれまでの生活から脱け出すべく奔走する彼女もまた大地震を目の当たりにして、オペラ歌手を夢見るジェマと出会い、女性たちを食い物にする大悪党のヘンリー・ソーントンとの対決構図を築いてゆく。二人の主人公に女性脇役二人がさらに加わり、個性的な女性四人チームによる復讐劇は、対決の州着地であるパリへと舞台を移してゆく。
いつもながらのスケールの大きさと、女性作家らしく繊細な小道具と、熱い友情や復讐心。それらのケイト・クインらしい作品の骨太ぶりが、共同作業となってもいささかも変わらない。そんなことからコラボレーションの片翼となったジェイニー・チャンという作家への信頼と興味が嫌でも疼いてくる。共作という新鮮な試みを経て二人の作家活動が今後どのようにぼくらの下に次なる新作となって届けられるようになるのか、期待とともに楽しみにしてゆきたい。 -
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ネタバレケイト・クインの本邦初訳、歴史ミステリ。現在まで本作を含め4作品出版されている(全てハーパーBOOKS)。
二人の女性が主人公。
第二次世界大戦後、ある目的のために母親とスイスに向かう途中、密かに行方不明のいとこを探す決意をするシャーリー。
第一次世界大戦中、アリスネットワークと呼ばれるスパイ組織に配属となったイヴ。
戦後と戦中の二人の人生が交わった時、意外な敵が見えてきて。。。
名作。600ページ以上で非常に分厚いが、苦にならないほど引き込まれる作品だった。
イブ視点の戦中の場面は重苦しくハラハラさせられる一方、中盤以降のシャーリーとイブ、イブに雇われているフィンのロードノベル感も良く。
文句なしのラストで、大満足の作品。
あえて言うなら、邦題の「戦場のアリス」はかっこいいんだが、作中に出てくる「アリス」にそこまでスポットライトが当たることはなく(凄く大事なポジションではあるが。。。)。アリスネットワークのスパイたちってことなんだろうけど、若干伝わり辛かったかなぁ。
なんとなく最近ご無沙汰のケイト・モートンの作風に近くて、大歓喜でした。
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大学生のシャーリーは母親に連れられて墮胎手術を受ける旅行を抜け出し、戦時中に行方不明となったいとこのローズを探すたびに出た。彼女の働き口の報告書にあったイヴリンという名前を手がかりに彼女の家へと訪ねる。彼女は最初はシャーリーを追い払おうとしたがローズの働き口のレストランの名前を聞くと一緒に旅に出ることにした。
終盤の抜粋を読むまで実際の人物をもとにしているとは知らずに読んでいた。物語はシャーリーと戦時中の若かりし頃のイヴリンを回顧を交互に進める。2時代をつなげるのがローズが働いていたレストランのオーナー、ルネだ。悪役だが魅力的な小物で最後のカタルシスをより強くしてくれる。そして何よりもアリスの存在だ。史実とは思えないほどフィクションじみている。タフでユーモラスだ。他の登場人物もみな魅力的で、彼らの旅の友情や恋愛も楽しめる読み応えのある一冊でした -
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現在、現時点で、数少ない正統派冒険小説の担い手のトップ・ランナーは、間違いなくケイト・クインという女性作家である。印象的なヒロインと、緻密な考証に基づいて描かれるスケールの大きな戦争時代の冒険とロマン。かつての冒険小説のほとんどが男性作家であったことを思うと、今、この時代だからこそ、戦争の物語の渦中を駆け抜ける女性たちの存在が際立って見えてくる。
現在の女性であったかもしれない過酷な戦争の時代を生きた女性たちの日々を、この作家はいつも活き活きと力強く描き切ってくれる。そして、ぼくのような男性読者であれ、戦争という最も過酷な状況を背景に、この作家が作品毎にこれでもか、これでもかと言わんばかりに叩きつけてくるストロングな女性の生き様にその都度、感動を覚えざるを得ない。
本書では戦争中にソ連側の狙撃兵として300人以上のナチの兵士を射止めたと記録される実在の女性を描く。単独主人公としては本書が初だそうだが、やはりこの作家は主人公の周りに男女を問わず魅力的な個性を複数名配置して、ヒロインの人生に大きな影響を与えるというとても人間的な物語の進め方を得手とするらしく、本書でもぼくは印象的な数名のキャラクターの運命についてもヒロイン同様に動悸や興奮を抑えることができぬまま、物語世界にどっぷり浸かり込んでしまった。
中でも舞台に加わった山の老猟師ヴァルタノフは印象的な存在であった。ナチによって全滅させられる猟師の経験と知恵とをヒロインが敬意とともに学び取ってゆく姿は、年齢の近い同僚や胞輩たちとの恋愛に近い友情とは別の何か生命力に繋がる糸であるようにも思われる。
物語は1942年、第二次世界大戦の終戦が近づく時期、ワシントンDCに招かれたソ連軍の女性狙撃兵ミラことリュドミラ・パブリチェンコの登場に始まる。しかも彼女をつけ狙う謎の狙撃者の視線を通して。そしてその時代を遡ること5年、1937年にスタートするミラの過去とが交互に語られ展開してゆく。女性としての恋愛と結婚、そして十代での出産と夫との離別と軍隊での憎むべき再会。
運命に翻弄される女性でありながら、誰よりも強く正確なスナイパーとして育ちつつ、惜しむべき同胞たちの死を体験させられる。残酷な死に囲まれながら自らも砲弾を浴び、さらに復活する志を持つまでの試練の時代。
多くの世界、多くの時代が人間を消耗させ、そして別の人間を創出してゆく。そんな物語をこれまでの作品でも書き上げ、それでいて主人公の女性たちに高らかな賛歌を捧げてきたのがケイト・クインという著者である。物語力は秀逸だし、創り出される個性たちの魅力もまた、どの物語でも強烈である。毎年、一作、あまりに強烈で印象的な時代とそこに生きた女たち、男たちを描いて、今年も改めて愉しませて頂いた。
知られざる狙撃者でありながら実在の人間であったことをここで物語られたミラという一女性の過酷な人生に、読者として少しでも近づき、寄り添うことができたことを心から幸せに思う。暴力を憎みながら銃を取らざるを得なかった時代の不幸を激しく憎悪しながら、だけれども。 -
Posted by ブクログ
この作品にはどこにもブレーキが付いていない。読み出したら止まることができない。約750ページに渡る長大な本なのに、どこにも。それだけでも凄いのだけど、この作家の歴史に材を取った取材能力も努力も凄い。あらゆる歴史的事実の上に重ねてゆく個の物語は、途轍もないエネルギーを持つ。それを抱えた主人公たちは、実在の人であれ、架空の人であれ存在感が半端じゃない。そこがケイト・クインという作家の最大の強みなんだ、と三作目でも改めて再認識。
そもそも複数主人公を並行させ、それぞれの物語を疾走感たっぷりに交錯させたスケールの大きい物語を作るのが上手い作家なのだが、本作では、大戦中の英国を舞台に、個性豊かな三人の女性、オスラ、マブ、ベスの物語を交錯させつつ、それぞれのラブストーリーと運命とを描き分けてゆく。
壮大なスケールの作品である。第二次大戦において英・独の戦略を分けた、知られざる暗号解読戦争。そこに携わった人々の運命。綴られるのはそうした確たる事実の上に載せられた物語と個の人間たちの魅力。
実際にあった暗号解読の秘密施設は<ブレッチリー・パーク>ことBP。この場所は、戦中はトップ・シークレット下に置かれた極秘の施設であり、暗号解読戦争の勝利を英国にもたらした基地なのだが、用済みとなった戦後は、多くの職員ともども用済みとされ、放置され、廃墟化したようである。現在は、マル秘事項が多分に解除され、丁寧な復元の上公開されている大変美しい場所となっているので、是非訪れて欲しいと作者があとがきで保証している。
物語はもちろん史実を題材にして個々のストーリー時は作者の創り出したフィクションである。しかし現実の記録や歴史に基づいたところが多く、実名で語られている関係者も多い。驚くのは現エリザベス女王が幼少の頃から登場すること。夫であるフィリップ殿下の、婚姻前に実際に交際していたのがヒロインの一人オスラであること。フィリップ殿下の若かりし頃がとても活き活きと描写されてとても庶民的で親しみやすい存在に描かれていること、なお戦地となった大西洋で従軍していること。オスラは実在の人物を作者が慮って、苗字こそ架空とされたが、実在の人物をモデルにしていること。
ケイト・クインという稀有な作家の、史実に材を取った小説の面目躍如たる豊穣な想像力が多分に活かされた作品なのである。
またトリッキーでミステリアスな作品構造も魅力である。1939年12月にメイン・ストーリーは始まるのだが、1947年11月「ロイヤルウェディングまで11日」というような謎めいた章が挿入される。そこでは短いページ数の間で、三人の女性のそれぞれの運命が暗示されているかに見える。中でも暗号解読の中核にいるベスは<時計の中>という別立ての章を用意され、彼女だけは奇怪な場所で拘束され、ロボトミー手術まで暗示されている、という異様で危機的な状況にあることが、初期時点で描かれてる。いつもながらの意味深な凝った構成である。1939年のメインストーリーが1947年の現在に追い着くまでの壮大な物語を読者は辿ってゆくことになるだろう。
暗号解読という困難な仕事を引き受ける特殊だが実在したという機関ブレッチリー・パークは、それにしても魅力だ。読んでいるうちに愛着さえ覚える。ここに集まる職員たちの強い個性とそれぞれの能力。それ以上に、きつい労働条件と秘密保持の制約の中で結束する仲間、師弟の絆の強さ。ラスト近くでこのことが確認される。涙腺を刺激される感動的なシーン。
職場では、章が変わる毎に登場する<ブレッチリー空談>という数行のユーモラスで謎めいたコラム。<いかれ帽子屋お茶の会>という名の仲良し職員たちによる青空読書会では世界の古典が取り上げられ、一部人気や書評が聴かれるので、この辺りも読書子にとっては電気的刺激もの。何と多面的に楽しむことのできる物語だろうか。 -
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ネタバレめちゃくちゃ良かった。
ところで第二次大戦を舞台にした女性同性愛者の物語を2冊続けて読むことになったんだけど、偶然?今の流行?2冊とも想定していなかったからびっくりした。いい意味で。同性愛者の方は嬉しかったと思う。恋愛の一つとして、普通に描かれるのは素晴らしい。これまではなかったことにされてきたわけだから。
視点がコロコロ変わる。そこがいい。
ハントレスが誰かはすぐにわかる。隠しきれないものがある、という描写なのだろう。
イアンたちがナチ戦犯を見つけると、みんな怯え、命令されただけ、知らなかった…と言う。本気なのだろう。そう自分で信じ込んでいるのだろう。
イアンが言っている通り、戦争で起きたことは明確にしておかないと、また繰り返す。
ニーナの恋人が生きていたのはびっくり。てっきりハントレスに殺されたのかと。それで復讐したかったのかと。
ニーナが女性兵士たちに迎えられる場面、友情のシーン、すごく良かった。チーム。
ニーナとイアンはそのうち離婚するだろうけれど、「同志」として友情が続くのか、くっついたり離れたりを繰り返すのか。ニーナは空を求めて、足を止めないだろう。ニーナについていけるのがイアンだったらいいな。
ハントレスも時代に翻弄されたのだろうか。平和な時代だったら、彼女の残虐さは目覚めなかったのだろうか。彼女が残虐な殺戮を行ったのは、20代の頃。考えさせられる。
アンネローゼは自分も被害者だと思ってる。十分に罰を受けていると思ってる。その罰の内容があまりに自分勝手で、こいつ本当にどうかしてる!て思った。
でも、日本にもいる。昨日、ツイッターで、情報開示を求められた対象の人が、「裁判を起こされると心配で病みそうだからやめてくれ」とか「私が自殺したらどうするつもり?」とか言っているのを見たばかりだったので、ハントレスの論法が本気だと思った。本当に自分が被害者だと思ってる。こういう人たちにどう伝えれば、自分が加害者側だとわかってくれるのだろうか。共感性の問題なのか。
アンネローゼが子育てできたことも怖い。身を守るためのカモフラージュのため、幼い子供を育て守ることは大変だったはず。ひょっとすると愛情があったのかもしれない。その母親を殺しておきながら。その辺りの矛盾も恐ろしい。
一箇所、「心を割って話し合おう」と書かれていたシーンがあって、ん?て思った。 -
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今年の後半は、第一次・第二次世界大戦の時代に展開した作品を、いつになく多く読んだ気がしている。しかも現在を描くものより、むしろ戦争を描く作品に良作が多いようにも思う。P・ルメートル、S・ハンターと続き、このケイト・クインがダメ押しであった。
ケイト・クインは、前作も『戦場のアリス』で印象的な世界大戦の裏話を繰り広げてくれたが、本書はそれを上回るスケールで描かれている。簡単に言うといわゆるナチ・ハンターものである。実在のナチ・ハンターに材を取り、そこから派生した作者造形による三人の主人公の三種の異なる時代の物語が、章毎に綴られる。一瞬、躊躇われるほど分厚い、重量級の国際ミステリー。大丈夫。作品は読者の努力にしっかり応えてくれるから。
惜しむらくは、ベストミステリーの締切にぎりぎり過ぎて、宣伝広告的には不遇をかこってしまったのではないだろうか。ぼく自身、この作品に一票を投じることができなかった悔しさに後から歯噛みする想いなのだ。
ハンターは狩人。しかし女性名詞のハントレスとなると、日本では少し馴染みが薄い。ましてや本書でのハントレスは、戦後現在にまで及ぶというナチ・ハンターの側ではなく、戦時中ポーランドで子どもたちを殺すという残忍な行為を行ったナチ側の女殺人者を指している。
本書の主人公の一人である英国人ナチハンター・イアン・グレアムは、相棒のアントン・ロドモフスキーとともに、一般社会に紛れ込んでのうのうと生きているハントレスに弟を殺されたことから、彼女への復讐に執念を燃やしている。
最初は、関係がわかりにくい三つの物語で、三人の主人公がそれぞれの異なる時代を生きてゆく。女流写真家としての独立を夢見るジョーダン・マクブライドは、父と再婚したアンネリーゼとの間にある種の緊張が生まれる中、ナチハンターと知らずイアンやアントンと出会い、そして義母との愛憎や緊張を高めてゆく。物語の主人くというより、最も謎めいた揺らぎを与える役割と言うべきだろうか。
一方で、父の暴力から逃れ、夜間攻撃のパイロットとして成長したニーナ・ボリソヴナ・マルコワという少女の存在が、本書では何よりも際立つ。このキャラクターの個性的、かつワイルドで強靭な性質が、本書に強い緊張をもたらし、何よりもバイタリティを与えてくれる。
三人の主人公たちの物語は、時代を異としつつ展開するのだが、最後には一つの時間に収束してゆく。異なる磁極が出くわすときにはじける火花の如きクライマックスは、激しい緊張と暴力を誘発する。本書自体は並々ならぬ大作でありながら、常に張りつめた緊張感によってページを繰る手が止まらない優れもののエンターテインメント小説であると言えよう。
人物の配置、構成、マルチな関係が、徐々に一点に収束して、最後に溜め込んだエネルギーの爆発を喚起するラストに至る。そのストーリーテリングは、『戦場のアリス』のスケールをさらに上回る出色の作品と言えよう。
キャラクターたちの個性はいずれも素晴らしいし、読後胸に残るのは、何といってもニーナの成長の物語だ。夜間女子飛行隊の面々、個性、英雄的女性パイロットの存在感などなど、やはりニーナの章に窺われるのが過酷な戦場世界の地獄絵図であるからこそ、そこを生き抜く彼女の生命力は本書最強の魅力である。この作品によって、作家は稀に見るヒロイン像を作り出したと思う。ニーナに逢うためだけでも十分に読むべき価値のある一作と言うべきであろう。 -
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第一次世界大戦1914〜1918、
死者1000万人以上
第二次世界大戦1939〜1945、
死者6000万人以上
この二つの戦争が二十世紀前半に、
嵐のように吹き荒れた。
自暴自棄となりながらも、戦時中に行方不明になった従姉妹のローズを探すシャーリー。
戦時中スパイだった、アル中の中年女性イヴ。
復員後犯罪者になり、その後定職につかずイヴの世話をするフィン。
三人は、ローズを探すと同時に、それぞれの心の底にある過去に向き合っていく。
ボソボソと車の後部座席から繰り出される、第一次大戦でのイヴのスパイ活動の様子は、息をするのも忘れるほどの緊迫感を持つ。
派手な戦闘シーンは無い。
アジトや検問所でのイヴとリリーのスリリングなやりとり
廃墟の村で生き残った中年女性の絞り出すように語るジェノサイド
収容所の開放直後に足元で力尽きたロマの少女の顔
そして最後に三人が行き着く場所は……。
エンディングが良い物語は、満足感いっぱいでした。 -
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こちら「おすすめ文庫王国2020」の第1位。
それを見た時からずっと読もうと思っていたのだけれど、650余頁の厚さに躊躇したまま1年以上経ってしまった。
買った後も暫く積読していたが、この前に読んだ「革命前夜」に触発されて、引続きヨーロッパの話にしてみる。
1915年に始まるイブの話と1947年のシャーリーにイブとフィンが絡む話が交互に語られるが、かつてのイブと現在のシャーリーに共通した意志の強い女性像を見る一方、かつてのイブと現在のイブの繋がりと落差が鮮やかで、過去と現在が絡まり合うように進む物語は分厚い頁を飽きさせない。
前半は、スパイになってドイツ占領下のフランスに入るイブと、いとこのローズを追ってこれまたフランスに渡るシャーリーの、それぞれの顛末を描くが、一難去ってまた一難が冒険譚が楽しめる。
中盤は、この筋を追いながら、2つの大戦における苦難の歴史がしっかりと描かれて、リリーの最後の場面には深い悲しみが湧き起る。
終盤は、イブとシャーリーによる因縁の男の追跡劇。男を探す過程、思いがけず男と遭遇する場面、遂に決着をつける場面、いずれの描写も息詰まる。
苦難の末のエピローグの、あるべき普通の生活に、しみじみと浸った。
それにしても、アメリカ映画で観たような2つの大戦でのヨーロッパ戦線における連合国軍の華々しい戦いのことは知ってはいても、そこで起こった悲惨な出来事については全くスルーだったな。
「オラドゥール=シュル=グラヌ」や「ベルゼン強制収容所」についても初めて知り、ヨーロッパの歴史の深さにはまだまだ知らないことばかりと思い知った。 -
Posted by ブクログ
好きなセリフ「飢えは思考を研ぎ澄ます」
スパイの心意気がカッコいい。
心を隠し演じて騙し、相手の表情の揺らぎを読む。スリル感はスパイ小説ならでは醍醐味。
第一次世界大戦下フランスへ、ドイツ軍の情報を得るためにスパイとして派遣されたイヴ。イヴは、ドイツに協力する暴利商人ルネ・ボルデロンの元でウェイトレス兼愛人として振る舞い、最高級の情報を引き出す優秀なスパイだった。戦後のイヴと出会った現役大学生シャーリーのいとこ探しは、イヴの過去が明らかになるにつれ真実に近づいていく。
イヴに降りかかる危機は、身の毛もよだつほど凄まじい気迫がありハラハラドキドキする。
謎解きミステリーのようなすべての駒がつながっていく要素もあり、一気読みできるおもしろさ。