木本正次のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
小説仕立てではあるが、著者は当時新聞社の編集委員で、登場人物たちもすべて実名であるというから、脚色されたノンフィクション、といった趣か。
派手な演出や凝った技巧などはまったく見られないが、それ故に素朴な事実の記録に近いものとして感じられる。
タイトルにもある"黒部"の名がついた黒部ダムが一般的には有名だが、本書で描かれているのはダムそのものの建設ではなく、それに先立つトンネル掘削工事の顛末。
今の時代に読むと、私などは「かけがえのない自然に挑み、それを歪めてまでしてこのようなものを造らなくても…」と思ってしまうが、黒部ダムと黒部川第四発電所の建設が計画された当時にとっては -
Posted by ブクログ
高熱隧道の後で読んだのだが、読む順番を間違えたかもしれない。
黒部の自然の過酷さや、技術者と労働者の見えない隔たり、そういった緊張感がほとんど感じ取れなかった。ダム建設への情熱、知恵と技術、困難、家族愛が衒いなく描かれている。良心的で善意的な人間賛歌としての黒部開発。
勿論、作者がそこを焦点にしているのだから、これはこれで良いのだと思う。
だが、高熱隧道の後だと、どうしてもぼやけた現実感のない印象になってしまう。
水温摂氏4度水量毎秒500リットルの湧水、トンネルを押しつぶそうとする地球の力、黒部の自然……恐ろしい難工事だと思う。なのに少しもその恐ろしさ・過酷さが伝わってこない。
それは多分、 -
Posted by ブクログ
黒部ダム建設は、昭和31年に始まり7年余りの歳月と、当時のお金で513億円という巨費と
延べ990万人の労働力をかけて行われた偉業である。
そしてその間に171人の尊い命も失っている。
本作品は、黒部ダム建設最大の難関である「大町トンネル貫通」について、大湧水と戦う苦労を描いたものだ。
1968年、石原裕次郎と三船敏郎主演で発表された同タイトルの映画は、
ビデオ・DVD化されていないので幻の作品となっているが、
来年、香取慎吾と小林薫主演でドラマとしてリメイクされるらしい。
スケールの大きい大工事をテレビでどのように表現するのか楽しみだ。
昭和30年当時、電力は大飢饉時代で日に何度も停電し