積極的な海外展開を行っている韓国の、教育と人材育成についての本。
著者の体験と、報道や研究書の紹介、インタビューなど、多様な情報源から1冊の本になっている。
韓国はもともと教育熱心な国で、小学生から深夜11時くらいまで勉強し(クラブ活動のようなものはあまりないらしい)、現在の大学進学率は8割を超え
...続きを読む、大卒のTOEICスコアは900点を越えるのが普通なようだ。
「箔付け」のための海外留学も盛んで、中高生からの早期留学では、母親が子供と一緒に渡航して父親は韓国から仕送り、そのまま家庭崩壊するのが社会問題になっているらしい。
韓国が教育に熱心なのには、儒教の影響があるという。これは日本にも当てはまるが、日本は陽明学の影響により実学が重視され明治から昭和にかけて産業が盛んだったのに対し、韓国は理学が長い間重視されてきたという。これは科挙の名残もあるらしく、そういった「知性」を携えた人間像を韓国では「ソンビ」というそうだ。
そういった背景もあり、韓国では企業の採用でも大学の成績(GPAに相当する「学点」)や、履歴書に記載される学力が重視されるという。
特に履歴書は、「スペック」と呼ばれるTOEIC・ボランティア活動などの「記載できる能力や体験」が重視され、スペックを「積み上げ」るために大学在学中に課外活動・ボランティア活動を行うらしい(これは日本でも見られるが)。また、企業が大学2年次以降のカリキュラムを奨学金付で提供し、事業のための教育を施した上で入社させるというルートもあるそうだ。
韓国企業の躍進の理由としては、共同体を重視する韓国文化を挙げている。それによって国と国民が一丸となって戦略的に展開することが可能になっているという。
これは高度成長時代の日本にも言えたことで、日本はそれで一定の成功を得たわけだけれど、日本はその後に個人主義化し、その一方で当時の日本から学んだ韓国が、特定の分野で日本を追い抜きつつある、という構図が語られている。
本書は主に韓国の躍進について紹介されているが、第6章では課題・問題も紹介されている。僕は、それぞれかなり深刻だと思う。
超競争社会、格差拡大(ソウル大の学生の63%は所得者層の上位2割で占められている)、低い就業率(63%。日本70%、アメリカ66%)、1000人あたりの自殺者数(世界2位)。
子供の「主観的幸福度」の調査においては調査対象の23か国中で4年連続最下位だそうだ。高校生への調査でも「幸せ」は12%で、日本の32%、中国の39%を大きく下回るという。また、日本がノーベル賞受賞者を多数輩出しているのに対し、韓国はいまだ受賞者がいない。
しかし、本書では、そういった問題に対して韓国が行おうとしていることも紹介されていて、大学進学率の「低減」と高卒就職率の向上のための施策であるマイスター高校制度や、創造力を高めるための新たな取り組みなどが紹介されている。
また、EUが一体となって交流をしているように、日本・韓国・中国も、産学官連携で、より高度な発達を目指すべきだ、という主張がされていて興味深い。