青木千鶴のレビュー一覧
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新鋭ゴードン、2018年発表の最新作。やや自分の色を出し過ぎて無骨さも目立った前作「ミステリガール」に比べて、構成が引き締まり、全体的にシャープになった印象。変化球を投げ込むオフビートな手法も熟れてきている。テンポ良く勢いのままに読ませる好編に仕上がっており、筆致には自信と余裕さえ感じる。
ニューヨークのストリップクラブで働く用心棒ジョー・ブロディーは、FBIと市警察による一斉手入れの煽りを受けて職を失った。街に潜伏するテロリスト捕獲を狙ったものだったが、その界隈で〝営業〟する闇組織にとってはいい迷惑だった。店のオーナーでマフィアの親玉ジオ・カプリッジは、捜査を主管するFBIのドナ・ザモーラを訪ねて、テロリスト摘発に進んで協力することを申し出た。ジオは、一帯のギャング組織を束ねた上で、旧友でもあるジョーを役立てるつもりだった。一方、ジョーは、留置所で出会った旧知の小悪党から誘われ、武器強奪の仕事を請け負う。だが、事は容易には進まなかった。情報はFBIに洩れており、銃撃戦となって死人を出す。現場には捜査官ドナもおり、ジョーは口封じの機会があったにも関わらず、彼女を見逃した。犯罪者らは、何とか逃走する。襲撃時、武装強盗のプロであるクラレンスの命を助けたことから、ジョーは計画中の犯罪に加わるよう声を掛けられる。莫大なカネを手に出来る大仕事。武器の略奪は前哨戦に過ぎなかった。しかし、次こそ甘くはなかった。
「用心棒」というタイトルだが、主人公は犯罪グループの一員として行動することの方が多い。導入部では一種のヒーロー小説かと思わせ、一転してリチャード・スターク張りのクライムノベルへと移行する。終盤でさらに変転し、序盤での伏線となる対テロリストの闘いへと流れていく。
「悪党パーカーシリーズを手本にした」とゴードンが述べている通り、簡潔でリズミカルな文体によって臨場感溢れる活劇シーンを展開。犯罪者らの造形もB級テイストを貫いている。ただ、ハーバード大中退、ドストエフスキーを愛読する頭脳明晰な元特殊部隊員という主人公の設定は、存分に生かされているとはいえない。シリーズ化を意識していたらしく、レギュラーとなりそうな個性的人物を多数配置。FBI捜査官ドナとの関係など、次作に繋がるエピソードを散りばめている。気を衒うような〝遊び〟を盛り込んだデビュー時のインパクトがやや弱まったことは惜しいが、この先どこまで洗練されていくか楽しみではある。
どうやら、2021年4月に「続・用心棒」が翻訳出版されるらしい。 -
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地元米国よりも日本で評判になったという「二流小説家」でデビューを果たしたゴードン、第2作目となる2013年発表作。タイトルから洒脱なハードボイルドを想像していたが、過剰なデフォルメを施した〝くせ者〟らが繰り広げる物語は、どこまでもオフビートな展開で、読み手を煙に巻く。
小説家を目指す若者サム・コーンバーグは、店番を勤めていた古書店が潰れて失職、悶々とした日々を送っていた。メキシコ出身の美しい妻ララは、夢を追い続ける甲斐性なしの男を支えてきたが、突然別れを切り出す。家を出たララとの関係を修復すべく、サムは職探しに奔走。運良く助手として採用された私立探偵の自宅兼事務所に赴く。探偵ロンスキーは、歩行がままならないほどの巨漢だったが、前途多難なサムの境遇をホームズ張りの観察力で言い当てた。頭脳明晰であることは間違いないものの、明らかに変人だった。早速、ラモーナという若い女の監視を任されたサムは意気込むが、所詮は素人に過ぎず失敗を繰り返す。ついには海岸に面したホテルで、意図せず接触したラモーナと〝成り行き〟で体の関係を持ってしまう。翌朝、部屋のベランダから女が飛び降り自殺した。ラモーナは精神を病んでいた。ロンスキーは「女は殺された」と主張。続けて「わたしの愛する女を殺した犯人を探せ」と激昂し、サムを唖然とさせる。この探偵も狂気に取り憑かれていたのだった。
この奇抜な序盤を経て、死んだ女の正体がロンスキーの独白(調査記録)によって明かされる。本作は基本的に主人公サムの一人称語り(ぼく)だが、物語の進行に応じて主要な事件関係者自身が語る章を挿入し、それまでの流れを断片的に補完、整理していく構成をとる。
ラモーナの本名は、モナ・ノート。ヨーロッパを拠点にカルト映画の監督として名を馳せたゼッド・ノートの妻だった。米国に移り住んだゼッドはスランプに陥り、B級ホラーを数本撮ったのちに、自らの頭を撃ち抜き死んだ。その場面は、最後の作品に収録されていたが、フィルムの所在は不明となっていた。女優として出演したモナはゼッドの自殺を目撃、精神的打撃により入院した。そこで出会ったのが〝患者〟のロンスキーだった。
サムは、またしても入院したロンスキーに代わり、モナに関わる謎を探り始めた。貸しビデオ屋に勤める悪友の手を借りつつ、ゼッドの映画に関わった俳優やスタッフを訪ねて回る。新たな事実を掘り起こすたびに、〝ミステリガール〟モナは変幻し、実像に迫るサムを翻弄し遠ざけた。
プロットには捻りを加えているものの、やや空回りしている部分も目立つ。処女作「二流小説家」でも顕著だったが、実験的手法を大胆に組み込み、破綻するぎりぎりで抑えている。第一作目に比べて評価は今ひとつのようだが、創作に懸ける作者の思いが分厚い文章から溢れ出ており、新鋭ならではのバイタリティを感じた。〝メジャーではない〟小説や映画作品に関する大量の蘊蓄、強烈な個性を持つ登場人物らのやりとり、退廃的で乾いたユーモア、終盤ではメキシコを舞台に「マカロニ・ウエスタン」へのオマージュと思しき躍動感溢れる場景で楽しませてくれる。実際、本筋よりも生彩に富んでいると言っていい。
主人公は「実験小説」を標榜する作家志望の青年だが、これにはゴードン自身の経験を反映させているのだろう。ジェイムズ・ジョイス「ユリシーズ」などの難解な書物を読みこなし、淀みなく一家言を披露するが、いざ実作となると才能の限界に打ち当たる。小説家としても探偵としても〝二流以前〟の男が、曲がりなりにも事件を解決するというコンセプトは、いわば「二流小説家」の焼き直しともいえるのだが、読者に楽しんでもらおうという気概が伝わってくる。残念ながら、インパクトと完成度では前作には及ばないものの、本作でもミステリへの愛は横溢している。ゴードンには、まだまだ注目していきたい。 -
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ネタバレ何者かに射殺された兄の復讐を主人公がするために、銃を持ち、自宅を出てエレベーターに乗る、というのが簡単なあらすじです。どんな理由があろうと人を殺したら犯罪になりますが、兄弟、親など、愛する人達から受け継いだ掟の存在により、して当然だという気持ちで主人公はエレベーターに乗り、ロビーを目指して降下するわけです。しかし、ひとつ降りるたびに必ず誰かがエレベーターに乗り込んできて、主人公に介入してきます。その度に主人公は復讐について、改めて考えたり見つめ直したりします。こう見てみると、愛する人を殺した犯人を絶対に許さない気持ちを、何とかして抑えようとしているようにも見えてきます。作者が過去に友人を射殺された経験があった事が、これを書く契機になったことを著者紹介で知り、作者自身がこれを書くことで少しでも癒しにしたかったのかもなどと勝手に思ってしまいました。文章が、詩を読んでいるような構成になっているのが新鮮で、実際、詩的な表現で印象に残る箇所が、いくつかありました。
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ネタバレ愛する兄を殺された弟は、兄を殺した奴を殺すために、兄の銃を持って家を出てエレベーターに乗る。エレベーターが1階に着くまでの少年を詩で綴った物語。
アメリカの銃社会が限界に来ていることは、しょっちゅう起こる(コロンバインの頃は一つ一つを覚えていたが、この頃は起こりすぎて覚えていられないほどだ。)乱射事件でもわかっていたことだが、これを読むと、子どもですら簡単に銃が手に入るせいで、本来なら殴り合い位で済んだことが殺し合いになってしまう恐ろしさを実感した。
この本の登場人物達、といっても主人公がエレベーターで出会う人物は皆死んでいるのだが、全員社会の犠牲者といっていい。どうしてこれくらいのことで殺したり殺されたりするのか。主人公の父も伯父も兄も友達も、簡単に命を落としている。
きっとエレベーターを降りるまでに主人公は復讐(少なくとも殺人)を止める決断をするのだろうと思いながら読んだのだが、いい意味で裏切られた。あくまで決断は読者に委ねられている。
主人公の少年の家族への愛、戸惑い、悲しみを受け止め、主人公のようなたくさんの若者達に、エールを送る。殺す前に立ち止まれ、君たちは愛されている、未来がある、と。
カッとなったとき、将来に希望が見えないとき、銃がすぐ手元にあれば、こうなってしまうのだということを訴える物語でもある。アメリカは銃規制を真剣に考えているのだろうか?経済のみを優先すれば、貧しい人、弱い人から犠牲になることを忘れてはいけない。 -
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ウィルの兄、ショーンが殺された。
街中で、誰かに拳銃で撃たれて。
ショーンはアトピー性皮膚炎の母親のために特別な石けんを売っている店に行かなければいけない。でも、その店のある地域を縄張りにしているリッグスといさかいがあって、リッグスはショーンをよく思っていない。ショーンはリッグスに撃たれたに違いないとウィルは考えた。
ウィルには守らなければならない掟があった。兄も、仲間もその掟を守っていた。
愛する者を奪われたなら、復讐をしなければならない、という掟だ。
ショーンの机の引き出しに入っていた拳銃を見つけたウィルはそれをズボンの後ろに刺して、自宅のある8階からエレベーターに乗った。
1階に着いて街に出ればリッグスを待ち伏せして、拳銃で復讐すればいい。
エレベーターは7階で停止した。誰かが乗ってくるのだ。
果たしてウィルの運命は?
作者はアメリカ人の詩人で、この小説も長い詩のような形で進む。
作者自身も昔友人が拳銃で撃たれて亡くなったという。
そうやって意味もない暴力で命を落としてしまう若者へのメッセージとしてこの詩のような小説を書いたと思われる。
日本はこういう世界にないから、中々リアルにこういうものを捉えることは難しい。果たして、このメッセージはアメリカの少年少女には届くのだろうか。 -
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ネタバレ本名を出さずに仮名で色々なジャンルの小説を書いている小説家が主人公。
主人公のハリーがある日、収監されている死刑囚の連続殺人鬼からの依頼である条件と引き換えに告白することを出版してもいいという依頼があり、死刑囚のダリアンに会うこととなる。
ハリーの仕事を手伝う女子高校生、双子の姉妹を殺されたダニエラ、ハリーの弁護士のキャロル、その助手のテレサ、刑事のタウンズ等が登場し物語が進んでいく。
出筆作業中にダリアンの手口と同じ殺人事件が起こり、その第一発見者がハリーであったことから、容疑者扱いされたりする。
その殺人事件を解決する為にハリーが活躍していくのが、中盤からの流れになる。
本書の戸途中でハリーの著作が出てくるので、それが謎解きと何か関係があるのかと考えながら読んだが、結局何も関係なかった。
全体的に読みやすく、ユーモアもあり登場人物にも個性があり面白かった。
が、焦点が分かりにくいのと、余分な文章が多いためページ数が増えた感があるのでマイナス面も多く、評価を低めにした。
このミス等では、1位に輝くだけあり面白いのは面白い。 -
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このミス海外編2012年版1位。この年の海外ミステリーの年間ベスト1位を独占したもよう。主人公である様々なジャンルで異なるペンネームで小説を出版している二流小説家が、死刑目前の連続殺人魔から刑務所に届いたファンレターの相手への取材を依頼されるところから始まるお話。主人公を取り巻く女性が魅力的なのは現実的にはあまりないとは思うけど小説的には好き。他の登場人物もきっちりかけてる。新たな殺人事件が発生するとこはビックリしたし、他にも意外な展開がときどきあって面白い。たんたんとした文体は論理的で好感が持てるしユーモアもあって緊迫したとこ多いけどあまりドキドキしすぎないのも良い。ただ、なぜか地の文が突然理屈っぽくなったり筆者の主張めいたものが長くなったりしてところどころ退屈なところあって残念。そのせいで寝落ちしそうになってなかなか一気読みまではいたらなかった。
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ジョー・ブロディーは異色の用心棒―ハーバード中退、元陸軍特殊部隊、愛読書はドストエフスキー。心優しいジョーだが、凄腕のその評判に偽りはない。ある晩、彼が勤務するストリップ・クラブをFBIが急襲する。理由も告げられずに逮捕されたジョーは、NYの名だたるならず者で溢れかえる留置場へ。一斉手入れがあったのだ。捜査機関はいったい誰を捜していたのか?ジョーはそこで再会した中国系マフィアから、あるヤマに誘われるが…。ミステリ・ランキング三冠『二流小説家』著者の新境地。
二作目と短編集はあいにく未読。軽いタッチのアクション小説。シリーズ化されるだろうな。