アンソニー・トゥーのレビュー一覧

  • サリン事件死刑囚 中川智正との対話

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    ネタバレ

    フォロワーさんがおすすめしていたので読んでみることに。
    著者の方はもう少し若い方だと思っていたので写真を見てびっくり。Wikipediaを見てみたら2024年に亡くなられていて、中川もTu先生もすでにこの世にいないかと思いながら読んだ。

    中川智正の内面についてではなく、あくまでもオウム事件の生物兵器・化学兵器についてを紐解いていく内容なので今まで読んだオウム関連本の中では一番淡々としているかも。ゆえになのか読みやすい。化学については薬品名とかたくさん出てきてちんぷんかんぷんだけど中川や土谷がいかに優秀かがよくわかる。
    オウム真理教がはじめは遠藤中心に生物兵器(炭疽菌とかボツリヌス菌とか)を開発しはじめ、あまりうまくいかなかったので今度は化学兵器(サリンとかVXとか)を開発しはじめて、それが数々の事件に使われる。化学兵器はほぼ土谷が開発し、土谷なくしてはオウムの化学兵器はありえなく、だからこそ土谷は事件に直接関わっていないけれど死刑になった。
    遠藤は元アメリカ海軍のダンジッグ氏からの面会を拒否し、自分が研究した生物兵器については一切語っておらず、その理由を中川やTu先生はうまくいかなかったことを今更語るのが嫌なのではないかと言っている。

    中川は遠藤のことを呼び捨てにし生物兵器が失敗したのは遠藤が無能であるからだと思っており関係は冷えていたと推測されていた。遠藤と土谷も不仲であり遠藤は土谷は自分より下なのだからいうことを聞けといったりしていたとのこと。
    遠藤は著者に「中川や土谷のいっていることは事実ではないから(自分のことを)悪く言わないでくれ」と伝えてきたとあり、他の本でも思ったけれど、幹部たちのお互いへの感情が絡み合って各々の発言や説明にいまいち信用がないのよね。みんなそれぞれが自分の都合のいいように物事を解釈している気がしてならない。中川は林郁夫は真実もたくさん話したがでたらめなこともたくさん話したと述べているし、逃亡犯の裁判の際、井上と中川ではまったく正反対の証言をしており、それは井上が死刑を回避するために、検察に有利なように証言しているからだと中川は言っている。

    また、死刑と無期懲役の差についてもこの本ではよく語られている。死刑になるか無期懲役になるかは裁判官の感情と運に左右されるとあった。豊田は地下鉄サリン事件の実行犯だがそれ以外には事件を起こしていないし、横山がサリンを撒いた列車では死者は出ていない。けれど麻原と同じように死刑となり、そこに差はない。中川は横山は口下手で、林郁夫は口が達者だったから死刑と無期懲役とに差が出たと思っているようで、著者は林郁夫は自供のタイミングが良かったからだと書いている。

    他にも第7サティアン建設の責任者だった人やVX殺人の実行役だった人など地下サリン以外の事件に関係した人の話やオウム裁判を担当した裁判官や被害者の会の方、上九一色村の人など色々な人の話が出てくるしその中身も興味深いものだった。

    あと興味深かったのは、サリンの後遺症で、1年後より5年後10年後の方が報告が多いということ。ということは、村上春樹のアンダーグラウンドでインタビューではなんともないとか比較的軽いと言っていた人たちもひょっとしたらその後後遺症を発症して苦しんでいるのかもしれないと思った。

    著者の人柄なのだろうが、この本は変に感情的でもなく情緒的でもなく、だからこそ読みやすくて、またとても興味深い良い本だった。

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    2026年10月05日
  • サリン事件死刑囚 中川智正との対話

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    まさか、このテーマの本で感動するとは思わなかった。。

    ■ 著者アンソニー・トゥ氏
    台湾生まれ、日本が台湾統治をしていた時代に日本語教育を受けていたため 日本語で死刑囚の中川と直接対話できたことが、事件解明において決定的だった。

    日本の加害の歴史すら、数十年後には人類の命を救うことに転化する可能性がある――という逆説的なつながり。日本がやった歴史はともかく、台湾統治時代からその糸がつながっていたかと思うと、感慨深い。

    科学者としてだけでなく、歴史のなかで事件と事件、人と人を「つなぐ」存在だったことに、圧倒される。

    ■ 中川智正
    マレーシアでのVX暗殺事件を見て「これはVXだ」と即答できた中川の言葉は、オウムで毒物をつくっていたからわかった、という皮肉でもあり、これも加害の歴史が事件解明につながった。

    ■まとめ
    歴史&事件の「良かった・悪かった」だけではなく、過去の出来事が、思いもよらぬ形で次世代に影響を与え、人の命を救ったり、事件解明につながったりする。歴史と事件と人とのつながりに感動。


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    2025年06月15日
  • サリン事件死刑囚 中川智正との対話

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    新しい視点でサリン事件を見ることができた。
    わかりやすく書かれており、この本を読んだ後に当時のニュースや映像などを見ると、また違った印象を受けた。
    風化させないためにも、多くの人の目にとまってほしい本。

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    2024年12月17日
  • サリン事件死刑囚 中川智正との対話

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    サリン事件確定囚にアメリカの毒物研究者である著者が、本人インタビューを通して、事件を掘り下げています。特に化学的な部分は、化学に造形がないと理解しにくいですが、確定囚の人柄がよく分かる著作です。化学者と医師で分野は異なりますが、日本語でのインタビューにより、高い学識者同士の意見交換による事件背景がよくわかる内容でした。何かが狂い、優秀な人物が犯罪に手を染めてしまった事は、とても残念に思います。

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    2022年03月06日
  • サリン事件死刑囚 中川智正との対話

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    高橋シズエさんの「サリン関係の本は大抵読んだが、自分の知っていることが多かった。しかし先生の本には半分ぐらい知らないことがあった」との言葉の通り、中川氏と対話を重ねた化学者でなければ知り得ない、書けない情報が数多い。後世への教訓として残すべき名著。

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    2018年10月07日
  • サリン事件死刑囚 中川智正との対話

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    著者であるアンソニー・トゥー氏と中川智正元死刑囚との面会及びメールでのやり取りの記録と、そこから見えるオウム真理教幹部の役割や、サリンやVXなどの化学兵器、ボツリヌス菌や炭疽菌などの生物兵器開発の過程をまとめたもの。

    死刑囚との対話の過程(手続き的なものを含めて)や確定死刑囚の処遇等々からして初めて知ることが多かった。また、中川氏の人となりについても、初めて触れる部分が多かった。ここまで情報交換をし、その上で一連の事件の考察ができたのは、著者が中川氏を一人の人間、もしくは科学者として敬意を払い、関係を丁寧に構築したこと、その信頼に中川氏が応えてきたことが大きいように思う。

    最終章「中川氏最後のアクティビティ」では、昨年の金正男氏暗殺事件に関する論文執筆や発表について述べられている。25人の殺害に関与した(確定判決による)彼の罪は到底許されるものではないが、最後に論文という形で残したのは、一人の科学者として大きな意味を持つのではないかと思う。中川氏が願ったように、化学の知見を悪用して大きな過ちを犯す人が出ないよう、後世に語り継いでいきたい。

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    2018年08月26日
  • サリン事件死刑囚 中川智正との対話

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    【覚めての告白】サリン事件への関与等により死刑判決を受け,2018年7月に執行がなされた中川智正。執行の直前まで行われた面会や文通を通し,オウム真理教が化学兵器へと手を染める課程やその内情に迫った作品です。著者は,コロラド州立大学名誉教授のアンソニー・トゥー。

    当事者の独白として生々しい肉付けを伴うと,すでに情報としては知っていることでも改めて現実感を伴って感じられるものだなと痛感した作品。日本社会にとっても一連の事件は分水嶺であったと思うのですが,それらを振り返る上で大変貴重な一次資料であることは間違いないと思います。

    〜私は6年間にわたって,彼と文通や面会をしてきた。彼を死刑囚としてでなく一人間として付き合ってきた。彼の今迄の犯罪を私は知っている。これらの罪は許されるものではない。しかし人間には誰にも明暗,または光と影がある。私は彼の「明」や「光」の片側だけと付き合っていたのかもしれない。彼の死刑執行という事実で中川という個体がこの世から消されてしまったことに対し,私は一抹の哀悼を感ずる。〜

    偶然が重なって現実を作り上げることの不可思議さを感じました☆5つ

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    2018年08月22日
  • サリン事件死刑囚 中川智正との対話

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    サリン事件に関わった医師の1人、中川死刑囚。執行されたこともあり、ようやくこの人のことを知ることができた。京都府立医大に入れたのだから秀才なのは間違いない。その人がどうして、というのは、もうひとりの医師林郁夫と並んで興味を持っていた。ただ、林郁夫は積極的な捜査協力もあって、無期懲役に減刑され、手記もまた出ているからある程度は知ることが出来てたが、中川に関しては余り知らなかった。結局麻原に帰依した部分などはよくわからなかったが、言葉の端々からは承認欲求が強かったのかなとは思ったりする。
    著者は幾度も重ねた面会の中で中川の誠実な回答に満足していたようだ。実際彼の証言はサリン製造に関係して大変興味深いし、その中で警察機構が証拠の捏造をしている(オウムがやっていたことは確実だが、証拠として掴むのは難しいためだからだろうが)ことも示唆していて、彼らが死刑になったのは致し方ないにしても、解明されるべきことは残ったままになったなとは思う。著者の最後の一文に気持ち的には救われる。

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    2018年08月11日
  • 毒 サリン、VX、生物兵器

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    著者は台湾出身で米国で毒蛇の研究をした後に軍での兵器研究に転じ、日本での地下鉄サリン事件の捜査に協力したという、毒、兵器のプロフェッショナル

    VXガスやマスタードガスなど、よく聞く兵器がどのようなものかが簡潔に纏まっており、適度な深さで理解できた。

    驚いたのが、執筆時点で著者がアメリカの老人ホームに入っているとのことで、知性は衰えないものだな、と感心した。

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    2023年07月25日
  • サリン事件死刑囚 中川智正との対話

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    ふとオウム真理教のことが気になり読んでみた。化学兵器を作り出す経緯など読めて面白かった。
    優秀な人達が悪の組織で働かされ、こんな結果になり悲しいなぁ。

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    2021年08月13日
  • サリン事件死刑囚 中川智正との対話

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    オウムの本はたくさん読んでいたけど、
    死刑囚の方にターゲットした本は初めてだった。

    反省をしてくださっていてよかった。

    化学兵器はいかにして作られたか、
    という話たちは興味深かった。

    中川さんから見た教団幹部評価も。

    他の死刑囚のかたの本も読んでみようかな

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    2020年08月03日
  • サリン事件死刑囚 中川智正との対話

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    地下鉄サリン事件は何より衝撃的だった。日本人の記憶に共有された事件として、誰もがあのときに自分はどういうことをしていたと語り合うことができるほど、大きく日本現代史に刻まれている。
    そして事件発生後20年以上経った2018年7月、オウム真理教教祖麻原彰晃を含む13人の死刑が執行された。本書の主役である中川智正もその一人であった。ここに書かれている内容の一部は、彼の死刑後であれば公開してもよいとされたものであり、皮肉なことに望まない彼の死刑執行が本書刊行のきっかけとなったのである。

    著者アンソニー・トゥー(杜祖建)は、毒物専門の化学者であり、サリン検出の方法を警察に伝えるなど、オウム事件の捜査に科学知識面で大いに協力した人物である。米国のコロラド州立大学の教授であるが、日本語にも堪能であったことから、それまでどこにも知見がなかった化学兵器を使った未曾有のテロの捜査において非常に重要な役割を果たした。その調査の過程で、著者は、麻原の主治医とも呼ばれた獄中の中川氏と親交を持つこととなった。本書は、著者と中川氏との手紙・メールでのやりとり、面会時の会話を元に、あの事件を振り返ったものである。親族以外でオウムの死刑囚に定期的に面会を行うことができたのは数少なく、本書はその貴重な情報をもとに生まれたものである。

    中川氏は、医者でありながら、化学知識にも造詣が深く、またオウムの組織にも精通していた。中川氏との会話の中には、化学兵器・生物兵器の製造に関する調査のためもあったのだろうが、遠藤、土谷、村井、井上、青山、などの重要な関係者の役割や評価が語られる。その内容はとても興味深く、もう20年以上前のオウムサリン事件の背景で何が起こっていたかがよくわかるのである。

    オウム真理教団は、サリンだけではなく、ボツリヌス菌、炭疽菌、VXガス、ソマン、タブン、マスタードガス、ホスゲン、シアンガス、など使えそうな毒物は何でも作ろうとしていた。しかし、人を殺すための道具である化学兵器を宗教施設内で生産するという行為を悪びれることなく営々と行っていたのは改めて驚く。その判断が宗教組織の中でどのようになされて実行されていたのかが気になる。しかし、本書ではその点については深く掘り下げられることはない。というよりも著者と中川氏との対話の中では、その点については語られることはなかったのかもしれず、それは中川氏自身にもわからないことだったのかもしれない。

    著者が評価するように中川氏は良い人で、聡明である。学生時代の周りの評価も高かった。自分の犯した行為についても反省している。ただ、そこには心の葛藤らしきものがほとんど見られない。それは、彼らが化学兵器を作っていたときもそうだし、それを実際に使うときもそうであった。人は、そして著者も、あんなに良い人がなぜオウム真理教に入信して、あんな事件を起こしてしまったのかと言う。しかし、逆に実直で良い人でなければ、あのような行為には至らなかったであろうと改めて思う。また、著者は高学歴の信者がなぜ高卒の麻原に帰依したのかという疑問を呈しているが、それは高学歴であったからこそ帰依をしたと言うべきなのである。日本の教育システムにおいて高学歴であることは、教師の指示にはその理由を問うことなくまず従うことができる素養があるということを示すものである。そのような思考回路が、いわゆるよい大学に入るために試験でよい点数を取るためには有利に働くのである。もしくは、教育システムがそのような素養をもつ人を育てるのだと言ってもいいかと思う。もちろん、単純化しすぎた論理であり、たとえそれがオウム真理教に多くの高学歴の人物が入信した理由であったとしても一面に過ぎない。しかし、仮に日本人が全体として馴致されやすい集団だとすれば、それは国民的な一様性とともに、教育システムにも一因があると言ってもよいだろう。それは、オウム事件に深い根を下ろした課題にも改めて思える。

    先に書いたように、中川氏にはあるべきであった躊躇いを少なくとも本書の記述の中からは感じ取ることができなかった。そしてオウム真理教が、集団としてサリンを実際に使うにあたってあまりにも躊躇いが見えないことに違和感を覚える。その行為の要請が宗教的な試練であり、結果としての死はその人にとっての救いですらあるという考えに囚われていたのだとは言える。だとしたしても、そのことは理解の範囲を超えてしまっていると言う方が正しい感覚だろう。もし、中川氏をはじめとした信者にその躊躇いと迷いがないことが麻原や教義への心理的依存であったとするならば、麻原には判断における何かの躊躇いがあったはずだ。それは中川氏もそのように感じている。

    「中川氏はたびたび私に言った。
    「麻原氏がちゃんと話してくれたらいいのですが、彼は法廷で十分話す機会がなく、やがては手続きの落ち度で刑が確定してしまった。麻原は今は言動不能で何も言えない状態になってしまった。麻原氏だけが知っていることが多く、彼でなければ真相がわからないことがたくさんあるのです」
    これは事実であろう。麻原の健康状態・心理状態では、真意を聞き出すことは不可能である。多くの謎の答えが麻原の処刑と共に永遠に消滅するであろう」

    この意味で、著者のオウムの裁判に対する評価は、結果についてはよしとするものの、そのプロセスに関して強く批判的である。少なくとも麻原の精神状態が破綻をしていて、裁判に耐えうる状態ではなく、結果としても多くの秘密が彼の死によってわからないままとなってしまった、ということに関しては残念なことだと考えている。その点に関していうと、内部から見たオウム真理教を撮った映画『A』、『A2』の監督であり著述家森達也と同じ考えである。本書の中で森達也の著書に言及している箇所があることから、おそらくはオウム真理教裁判のやり方を強烈に批判した『A3』を含むいくつかの彼の著書を読んでいるものと想像する。一方で、著者は森達也と違い、死刑執行についてはやむを得ないとの立場を取っているように思う。その原因には、被害者や検察への心理的共感もあるだろう。

    「日本の国民は皆麻原は悪い奴だ、早く死刑にしろというが、弁護士達の意見は必ずしもそうではなかった。
    彼らの意見をまとめてみるとこうなる。「政府は早く死刑判決にしたいので一審で技術的な点を利用してさっさと死刑判決にしてしまった。麻原に十分な弁護の機会を与えていない。オウムの被告はみな自分の刑を軽くしてもらいたいので、全ては麻原や村井の命令でしたと言っている。村井は殺されてしまったので、死人に口なしで多くの被告はみな村井の責任にしている」」

    と著者が書くとき、あくまでそういう意見を持つ人がいるとするのみで、そこにおいて自分の意見を表明することを差し控えている。しかし、この文章を置くことで、暗黙に自らの微妙な立場において意見を表現しているとも言える。

    この本を読むと、松本サリン事件の後に警察がもっと積極的に動いていれば、地下鉄サリン事件は防ぐことができた可能性があったことがわかる。一方で、彼らがもっと「うまく」やることができたなら、被害はさらに甚大になっていた可能性もあった。上九一色村の土壌からサリンの分解成分が検出されたことが読売新聞で報道されたことで、オウムはそれまでに製造していたサリンの大部分を廃棄したが、もしそうならずに、より多くのそしてより純度が高く危険なサリンが保存されていたら、死者や被害範囲はあの程度ではすまなかったはずだ。
    可能性はあくまで過去の可能性であり、過去はすでに変えることはできず、そして、中川氏を含めて13人の声を聞くことももうできない。
    著者はおそらくはその死刑判決を妥当であると考えながらも最後にこう書く。

    「彼の死刑執行という事実で中川という個体がこの世から消されてしまったことに対し、私は一抹の哀悼を感ずる」

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    本来はここまでで、書評は終えるべきかもしれない。
    改めて内容はよかった。しかし、あまりにも同じエピソードが複数の場所で重複して使われていることが多く、本としての完成度はひどいものだというしかない。編集者・校正者はいったい何をやってるんだと言いたい。その点は非常に残念。

    例えば、VXガスの製造について、著者が「現代化学」に寄稿した記事を参考にして土谷が製造したこと、さらに中川氏が手紙でその記事がなくても最終的に自分で作ることができたであろうと伝えたこと。

    例えば、中川氏が逃亡する菊池、髙橋、平田に対して、「忠実な信者を殺すようなことをしない」と言ったことに驚いたこと。

    例えば、中川氏にサリン残留物の検出を助言したのが著者だったことを伝えて驚かれたこと。

    こういった重要なエピソードが、二度目以降に出てくるときにも、いずれもあたかもこの本の中で新しい情報として書かれているかのように書かれている。もともと本の構成として、時間軸に沿って書かれているものではないので、そういったエピソードの置き方は前後関係含めて注意をする必要があるはずだ。著者は専門の物書きではないのだから、編集者はプロフェッショナルとして校正を通した完成度の向上に責任を持って自ら自信のある本として世に出していかなくてはならない。この本の編集者からは、この本をできるだけよいものにしようとする熱意、つまりは愛、を感じることができない。ここに書かれている情報はとても貴重で、素材として面白く、広く読まれるべきものなのに。とても残念だ。

    要するに読まれるべき本のひとつ、ということ。文庫本にしたり改版する機会があれば、思い切って大幅に改版してほしい...。

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    2019年06月10日
  • サリン事件死刑囚 中川智正との対話

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    許されるべき罪。恐ろしい兵器。隠されたままの真実。オウム事件に関しては麻原元死刑囚が何も語らなかった今、明らかにされない部分は多すぎる。しかし中川智正がアンソニー・トゥー博士に語った事件の内実は、オウム事件の解明、化学兵器、テロに対する研究の大切な資料にもなりうるだろう。アンソニー博士の中川に対する「人対人」の功績と言わざるをえない。

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    2018年10月27日
  • サリン事件死刑囚 中川智正との対話

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    中川智正はオウム真理教で松本智津夫の主治医を務め、サリンの製造に関わった元死刑囚である。
    アンソニートゥーはサリン事件当時、科学の専門家として捜査に協力し、留置された中川と度々面会した。

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    2018年09月27日
  • サリン事件死刑囚 中川智正との対話

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    これまで読んだ本はオウム事件の話しや
    死刑囚がオウムに入信して事件を起こす
    ドキュメントの本を読んでいたが
    この本は科学者から見たオウムと中川元死刑囚の
    話しでいままでと違った目線だった

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    2025年09月12日
  • サリン事件死刑囚 中川智正との対話

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    地下鉄サリン事件で使われたサリンはどのようにして作られたのか?
    どのような経緯で化学テロを行うことになったのか?
    死刑囚中川智正と何度も面会をしていたアメリカの毒物学者が書いた本。
    今まで読んだオウム関連の本とは切り口が違うので新鮮だった。

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    2025年06月05日
  • 毒 サリン、VX、生物兵器

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    日本統治下の台湾に生まれ、米国で学んだヘビ毒学者で、日本のサリン事件解決に協力した上にオウムの中川智真正死刑囚との対話集まで出版したという奇矯な経歴の著者が化学兵器、生物兵器について概観した一冊。

    米国の炭疽菌テロからオウム事件、日本軍731部隊、金正男殺害事件から、新型コロナウイルスの生物兵機説(著者は否定的)に至るまで幅広く概観した後、民間防衛(Civil Defence)の重要性について語る。全般的に著者の見識は卓越しているのだが、いかんせん表層的に過ぎて薄っぺらいのは角川新書の編集方針がそうだからなのだろうか。あまりこの新書シリーズで面白い本に当たったことがない。

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    2020年11月15日
  • サリン事件死刑囚 中川智正との対話

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    この本を読む前に、井上嘉浩を中心に書かれた「魂の遍歴」を読んでいたのだが、色々なところが食い違っていて興味深く読みました。
    他の当事者から見た事実も千差万別で、まさに「藪の中」という感じです。
    誰かが嘘をついているのか、本人から見たところはそれぞれ事実なのか、記憶が改変されてしまっているのか。

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    2019年03月03日
  • サリン事件死刑囚 中川智正との対話

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    中川智正の視点からの証言として貴重な記録だと思う。

    特に中川からの手紙が原文のまま掲載されている点や、中川の他のオウム関係者の印象を聞き出している点など。

    彼自身は周りに載せられて、皆を喜ばせようとしていたら殺人にまで手を染めてしまったという印象。この本を読めば、そして彼にあった人々の印象としてもいわゆる「良い人」というイメージを持っていしまう。しかし彼の罪はあまりにも大きい。
    殺人罪
    坂本一家
    落田薬剤師
    VXによる大阪での殺人
    松本サリン実行
    地下鉄サリンのサリン製造

    殺人未遂
    滝本弁護士襲撃
    VXによる襲撃2件
    新宿駅青酸ガス
    東京都庁小包爆弾事件

    仮谷氏拉致監禁致死

    こんな事件をなぜこんな人が、という使い古され、しかも答えのない問いを発するしかなく、著者が断っているように面会の趣旨が化学兵器によるテロ対策をそもそもの背景にしているため、中川自身の心情にまでは入り込んだ内容にはなっていないのがもどかしい。



    どのように編集されたのかわからないが、同じ内容が重複して現れる部分があったり、重複した内容で書かれた事実が異なるのは全体の信ぴょう性にも関わるので不満。
    ダンジック氏が中川に差し入れたのは150ドルなのか200ドルなのか?

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    2019年01月07日
  • サリン事件死刑囚 中川智正との対話

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    誰かに肩入れするのではなく、自分の知ったこと感じたことを率直に書いているという点で、貴重な本だと思う。
    オウムに関して、こういうスタンスの本がもっと出てもよいのではないか。

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    2019年01月03日