野見山暁治のレビュー一覧

  • 一本の線

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    昔、田中小実昌が野見山暁治の義弟と聞いた時には冗談かと思った。コミマサを夫にもちギョウジを兄にもつなんて、想像できなかったからだ。本書には、その義弟とのファーストエンカウンターの話も出てくる。
    戦後のパリに12年。椎名其二を知り、私淑する。清貧ながら、しかし美食家の椎名。その椎名にきつく叱られ、ベソをかく森有正。野見山のアパートで無茶ぶりをし尽くす小川国夫。街角に寂しくひとりたたずむ藤田嗣治など……野見山の素描のようなエッセイの数々。
    本書は、日本エッセイスト・クラブ賞受賞。書名の「四百字」は原稿用紙のことらしい。

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    2025年05月06日
  • とこしえのお嬢さん

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    想い出に残る人へのレクイエム、21章。
    書名はセンゴク・シズコの章からとっている。女性の章が7つ。なかでも「林芙美子」が強い印象を残す。のちに渡辺淳一の小説のヒロインになった女子高生・純子の章もある。そして最後は「カミさん」武富京子へのレクイエム。
    そのほか、印象的なのは加藤周一とのファースト・エンカウンター。早朝にパリのアパルトマンの階段を駆け上がってドアをノック、すると髯を半分剃った加藤が現われた。中学時代、放課後の図画室でパンの耳をわけてあげた後輩・江頭匡一(のちにロイヤルホストを創業)との再会の話もいい。
    続編は『みんな忘れた―記憶のなかの人』(平凡社)。こちらは22人に捧げられている

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    2025年05月04日
  • みんな忘れた

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    97歳の時に刊行されたエッセイ集。その4年前に出た『とこしえのお嬢さん―記憶のなかの人』の続編、22人との交遊記。彼らへのレクイエムとしても読める。
    40年前に書かれた『四百字のデッサン』からずっと気になっていた金山康喜と小川国夫が再登場、後日談が書かれている。でも、謎多き不思議な金山は謎多く不思議なまま、自分勝手だった小川は最後まで自分勝手なままだった。小川については、野見山にはけっして見せなかった別の顔のことにも触れている。
    加山又造、加島祥造、今泉篤男は粗いクロッキーか。水上勉や秋野不矩のエピソードは淡い水彩のよう。若き脳研究者、萬年甫も登場する。

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    2025年05月04日
  • 一本の線

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    日曜朝のNHK「日曜美術館」でこの画家のことをもっと知りたいと思った。本屋で画集を開くことはあったが、わからない絵ばかりが並んでいた。今回、達意の随筆で、そのわからなさの理由が少しだけわかった。この画家の文章に耽溺する1週間だった。

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    2014年05月29日
  • 一本の線

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    単なる歴史の証言者ではない。読み進むごとにそれぞれの人物像が、風景画が、描き出されていくよう。素敵な文章。

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    2023年11月05日
  • 一本の線

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    平素で素朴な文体なのに、深みが感じられるエッセイ集。
    前半は、友人や先輩などとの交友回想録。フランス在住中に出会ったかなりの奇人たちとのやり取りが、ドラマさながらに語られている。後半は1976年に地方新聞の夕刊で連載したコラム。こちらはユーモアとペーソスを交えた自叙伝と言った風だ。
    読んでいても決して「文才がある」という印象を受けるわけではないのに、深みがあって心に残る。画家ならではの視点で語られる話ももちろんあるのだが、深みの理由はおそらくそれだけはない。
    軽い書きぶりの中、時折り顔を出すハッとさせられるような指摘。それが物事の本質、人間の本質をかなり突いていることがその理由だろう。軽い文体

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    2018年11月18日
  • 一本の線

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     僕は野見山暁治という人物について知らない。

    ただその名を耳にし、1枚の絵を眺める機会があったからこそ、手に取った1冊。

    彼にまつわる人々と出来事が
    野見山暁治という人物をカタチ作っていた。

    戦争、病気、モラリスト、妹の家の居候、絵描きという職……。

    ひとつひとつのエピソードがまるで、筆でなぞる1本の線のように、彼の姿を描き出す。

    臆病な少年で、少し頑固な老人で、自分勝手さとそれと相反するような後ろめたさを秘めた人物。

    もう何枚か絵を観てみたいと思った。

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    2015年12月08日