郷原信郎のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ日本社会に蔓延る「法令遵守」そのものの自己目的化、絶対化の影響について論じた本。当書では不二家など食品会社の不祥事、耐震偽装、ライブドア事件などの経済司法、裁判員制度、社会保険庁の「宙に浮いた年金記録」、マスメディアの報道問題など多岐に渡ってこの問題を扱っている。
全体的に言えるのは、「法令違反だから」という理由で猛烈にバッシングしておきながら、真相が明らかになる頃には皆無関心を決め込む、バッシングのみに関心が集中して本来の問題が忘れられるという傾向が日本に見られることである。
それはマンションの耐震偽装については、1981年の建築基準法改正前に立てられた物件の中には、偽装物件より耐震性の低い物件が多くあったのに偽装叩きのみが盛り上がったことが例として挙げられる。
また、裁判員制度は官・民(日弁連)の間でろくに議論されないうちに「司法に『市民感覚』を採り入れないより採り入れた方がいい」という理由で導入された。このように著者は思考停止的に事件が国民に受容されている問題点を的確に抉り出す。
最も根深いと思ったのはマスメディアの問題。納豆ダイエット捏造による関西テレビの「あるある大事典」事件、みのもんた氏が不二家の単なる形式的会社基準違反(それでも社会的悪影響は大きいが)を執拗に(TBSでは1か月間、1日平均15分かけてこの事件を取り上げる)バッシングして経営困難に陥らせた「朝ズバッ」事件などが挙げられている。
著者はこうした事件が起こる根底に、単なる放送事業の過剰な営利追求姿勢の他にも、マスメディアが自らの虚偽を認めることが隠蔽するままよりも評価されず、不利益になることを指摘する。特に「あるある」の場合は捏造そのものは追及されたのですが、それだけという感じが以前からしたので、なるほどと思った。
このように「法令遵守」そのものが水戸黄門の印籠の如く扱われる日本の風潮について、著者は日本人にとって法令は「伝家の宝刀」であると説明(アメリカ人にとっての法令は「文化包丁」)しています。日本では法令が非日常的であり、社会の実態と法令の間にズレが生じているにも関わらず、単なる崇拝の対象として扱われる(アメリカでは、法令は日常的であり、社会的要請に答えるための道具、手段)。
この状態から脱却するためには、法令の趣旨、目的、基本的解釈を各々が自分の頭で理解し、「印籠」に頭を上げて直視することが求められる。そのようにして法令を媒介として、上命下服ではなくルールとして互いに尊重する関係を築いていくべきであることを著者は主張する。
単にルールに従うことを有り難がり、はみ出し者を親の仇の如くバッシングし、後は野となれ山となれという態度を決め込む日本社会の側面を炙り出した素晴らしい一冊だと思う。
ルールに従うことでマゾヒズム、はみ出し者を叩くことでサディズムを満たしているということだろうか。マスメディアの報道のやり方や、ネット上でのニュースの反応を見ていると、本書の内容に思い当たる節は枚挙に暇がない。 -
Posted by ブクログ
2009年刊行の本なので取り上げられている事例は伊藤ハム、不二家、耐震強度偽装、村上ファンド、ブルドックソース、秋田連続自動殺害事件、厚生年金記録改ざん問題など、やや古い話題ですが、これらの問題の根底にある状況に対する著者の指摘は昨今の検査不正・認証不正問題などにもそのまま当てはまる気がします。
「法令」は例えるならアメリカ社会では普段使いの「文化包丁」であるのに対して日本社会では「伝家の宝刀」(最終手段)であったところにアメリカ流に何でもかんでも「遵守」という姿勢が持ち込まれたために社会が思考停止状態になってしまっているという著者の例えには首肯せざるを得ません…。 -
Posted by ブクログ
法令と社会的要請との間にズレがあるのに、企業が法令規則の方ばかり見て、その背後にどんな社会的要請があるかということを考えずに対応すると、法令は遵守しているけれども社会的要請には反している、ということが生じる。社会的要請に応えていくことこそがコンプライアンスである。確かにそう思う。
「社会的要請」という言葉は勉強になった。
確かに合法か違法か、ということにばかり注目が集まるが本質はそこではない。事例の中に、合法ではないが社会的要請には応えている、というものが数多くあり、一方で社会的要請に応えていない法律が今だに残っていることは驚きだ。本質よりも形式を重んじる風潮は滅びゆく日本の兆しなのかもしれない。 -
Posted by ブクログ
先日、社内会議の席で「思考停止」というフレーズを
連発するヒトがいて、なかなか面白い表現をするなぁ
と思っていたところ、本書を書店で見つけた。
そこで、すかさず購入。
食品企業の不祥事や、年金記録の改ざん問題、裁判員
制度などを取り上げて、「法令遵守」という「思考停止」
に警笛を鳴らしている一冊。
不二家の信頼回復対策会議の議長を務めた郷原さんの
論理展開は実に明晰で、説得力も十分。
(不二家のところは少し甘い気もするが。)
法曹界の方には必読の書、と言ってもいいほどの内容と
思う。
ただ、マスメディアを斬った章はやや物足りなかった。
本書で取り上げられている「思考停止」はどれも罪は
深いが、中でももっとも罪深いと思うのはマスメディア
だから。 -
Posted by ブクログ
"多くの人に読んでもらいたい本の一つだと感じた。たまたま私は、伊藤ハムの事件について、従業員の声も聞けたし、柏市の保健所の立場の声も聞けた。概ね本書に記載の通りである。中核市になった柏市が保健所を自主運営する最初の仕事が伊藤ハムの水質問題になった。本書に記載の通り、見誤った対応のすえ、何ら食品に問題がない商品の回収をせざるを得なくなった企業の風評被害は甚大であり、従業員たちの苦労も聞いているだけに、正しい報道をすることのないマスコミには憤りを感じる。
同様に、本書のTBSと日テレの対応の違いとその後の処分の違いに、また怒りすら感じてきてしまう。
いずれにしろ、風説に惑わされずにしっかり実態を把握できる教養なり、感覚を持ちたいものである。"