飯倉章のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
第一次世界大戦は欧州舞台の戦争なので日本人にはどうしても関心が薄く、私もほとんど教科書的知識しかありませんでした。
しかし「ロシア革命」を研究していると、第一次世界大戦をしっかり押さえておかねば、とんでもない誤認識をしてしまうことに再三でくわしました。
そこで本線をいったん置いて、第一次世界大戦をざっと発端(それ以前もある程度含めて)から終結(それ以後も同様に)までを押さえてみようと想い、何冊かの新書を購入しました。ロシア革命も100周年がありましたので新しい切り込み・解釈の著作が増えましたし、それほどではありませんが第一次世界大戦もけっこう新しい著作が出ています。
購入した新書版の中には大戦の発端を「ボスニアへの宣戦布告で始まった」なんてトンデモナイことを書いているものもありましが、これは著者の凡ミスでしょう。
他は役に立ちました。中でもこの『1918年最強ドイツ軍・・・・』はドイツ・軍事面・人物の三要素に力点を置いて書かれています。そのため流れがすっきりし、論理的な破綻もほとんどありません。
最初のリファレンスには最適かと思います。おかげで長らく好戦的戦争マニアでこの大戦の元凶だと思いこんでいたヴィルヘルム2世が、そうではないことがよくわかりました。これは合わせて新書板『ヴィルヘルム2世』も読んでいたこともあります。
ただ、肝心なロシア革命との関わりは、当然ながら筆が及んでいないので、もの足りませんが、それを求めるのは求める方が悪いので他を当たります。
とにかく文章が簡潔でスラスラと読めるのは、こういう人物や地名が満載の歴史書には不可欠なものだと考えます。 -
Posted by ブクログ
第1次世界大戦を敗戦国ドイツ視点でながめ、その敗因を分析する。
戦前の19世紀、ドイツは皇帝ヴィルヘルム1世、首相ビスマルク、軍参謀モルトケによる緊張感のあるトライアングルが機能し、ヨーロッパ最強の軍事力を持っていた。が、ドイツ軍は強すぎた。その強さを過信し、戦線を拡大しすぎてしまった。東でロシア、西でフランスと戦い、さらにはイギリス、アメリカと次々と敵を増やす。適当なところで戦争を手仕舞いすることができなかった。
本来なら政治力、交渉力を発揮すべき、ヴィルヘルム2世や軍参謀ルーデンドルフらは徹底的に勝利することだけにこだわりすぎ、ドイツは自滅する。
日本が積極的に関わっておらず、戦場も遠くヨーロッパだったことで、日本人には馴染みの薄い第1次世界大戦だが、本書はドイツ国内の政治情勢だけに焦点を当てることで、非常にわかりやすい戦争記になっている。 -
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第一次大戦のドイツは結局敗北したが、実際には緒戦ではドイツ軍の被害よりも英仏軍の死傷者のほうが多かった。なぜドイツ軍はそれにもかかわらず敗北したのか? ドイツ(軍)の強みはどこかについてまとめている一冊。
読んだ感想としては、戦術的勝利こそ多いものの、戦略的視野に欠ける勝利が多く、また戦略立案では希望的観測に基づいていることがわかる。
特にルーデンドルフが無能すぎた。ルーデンドルフは政治的視野に欠ける人物だが、政敵を追い落とすことにだけは熱心だった。ルーデンドルフの立案で戦術的勝利が得られているのは間違いないが、彼が外交に過剰に口を出して和平交渉を邪魔した。いかんせん彼の立案で勝っている(勝つ意味がある戦いではないというのは置いておいて)ため、彼を更迭することは難しかったのだろう。
そして、敗北の際にルーデンドルフは銃後の裏切りで敗北したと責任を転嫁する。これが後のヒトラーへと繋がったと考えると彼の罪は大きい。 -
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ネタバレ第一次世界大戦は、勃発の経緯や戦中における参戦国の動向、終戦経緯と戦間期の状況(第二次大戦の蠢動)など一貫して示唆に富んだ出来事だと思います。
飯倉さんの著作は淡々した文体ではありますが、史実だけでなく、様々な説や推察が紹介されており、奥深いです。
個人的に第一次世界大戦のドイツについて腑に落ちない点がありました。それは1918年に「急速に崩壊した」感があること。3月に大規模な攻勢(ミヒャエル作戦)を実行して連合軍の前線を崩壊させ、その後も数度の攻勢作戦を経て支配地域を拡大させた一方で、終盤に連合国の反撃を受けて雪崩のように内部崩壊を起こし、最後は息も絶え絶えでコンピエーニュの森で敗北の署名を行う。
旺盛な軍事攻勢を繰り出す一方で、なぜドイツはかくも急速に内部崩壊をきたしたのか?本書はその疑問に答えてくれます。
個人的に本書の構成で面白いと感じた点は2つあります。
1つは、ドイツの意思決定における「カイザー(皇帝)」、「宰相」、「参謀総長」の3つのトライアングルのバランスに注目している点です。
第一次世界大戦直前の大きな会戦は普仏戦争でした。この時の上記キャストは「ヴィルヘルム1世」、「ビスマルク」、「大モルトケ」でした。これらのキャストは非常に個性が強いものの、各々が良い意味で制限を掛け合い、最終的にセダンにてフランス軍を壊滅させ、ドイツ帝国建国に結び付けることができました。
一方で第一次世界大戦でのキャストは「ヴィルヘルム2世」、「(主に)ベートマン」、「(主に)ファルケンハイン および ルーデンドルフ(とヒンデンブルク)」となります。
普仏戦争の際は(結果的に)バランスの取れていた三者の関係は、第一次世界大戦では大きく崩れます。言ってしまうと三者の力量が「参謀総長」に寄ってしまうことで、政治的選択肢は極端に狭められてしまい、国家のリソースの過半が軍事作戦遂行に費やされてしまうことになります。その三者の均衡の失われる様を、本書は詳細に描き出しています。
個人的に印象深かったのは、宰相のベートマンが力の及ぶ範囲で最大限の努力を行っていたと感じられる点です。例えば別宮さんの著作での彼の評価は「無能な試験秀才」という手厳しいものです。
大戦の勃発を許してしまい、無制限潜水艦作戦の実施を許したという結果だけ見ればそう言えなくもない。しかしその過程において彼は煩悶し、なしうる限りを尽くし、最終的にはカイザーの窮地を救うために宰相を辞したことが描かれています。
面白いと感じるもう1つの点は、ルーデンドルフの遂行した作戦計画の戦術面が事細かく描かれていること(実際のところルーデンドルフの行動は戦略性に乏しく、戦術面での特徴が大半なのですが)。
作戦計画の内容だけでなく、その投入兵力の規模や損害に及ぶ詳細な数字には目を見張るものがあります(飯倉さんの著作は、他の戦史本に比べて戦闘の戦術的言及がとても豊富です。これも本書の売りの1つといえるでしょう)。
またこれらが期待した結果を収めることができなかった原因を分析し、「もしもこのように実行していれば・・・」の推察を交えている点も面白い。ミヒャエル作戦において、もし(連合国、とくにイギリスにとって戦略的に最重要な)アミアンを最初から戦略目標としていたら・・・。など興味深い推察が記載されています。
終章の「ドイツの敗因」でも、敗因と考えられる主の要因が分析されています(その一つ、「もしイタリアを主敵にしていれば・・・」は私も激しく同意するところ)。
戦時におけるドイツの主要人物たちの駆け引きや、大戦終盤において実施された攻勢作戦の詳細を知ることのできる面白い一冊だと思います。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ本書は、大戦の勃発から終戦に至る一連の歴史経緯を、基本的に時系列の中で主要な出来事をおさえている網羅的な歴史解説本です。
飯倉さんの歴史(戦史)本は、その文体には劇的な点が少ないので読んでいてスリリングな経験はあまり望めないかもしれません。しかしその著作の素晴らしさは、経過を淡々と記している一方で重要な局面での内幕や、歴史家たちの様々な意見にもしっかり触れられている点だと思います。
例えば、開戦の要因としてよく言われるのは同盟・協商間対立ですが、
「しかし、各国は同盟・協商に完全に拘束されてはおらず、独自の外交の余地もあったので、この関係性がそのまま第一次世界大戦を引き起こしたとみるのは早計だ。」
と指摘しています。実際に、三国干渉ではドイツ、フランス、ロシアが協力して日本の中国利権に対する介入を行っており、これを裏付けているように思います。
また、凶弾に倒れたオーストリアのフェルディナンド大公について、
「むしろ、彼はセルビア人を含むスラヴ民族に融和的で、帝国内のスラヴ人地域により多くの自治権を与えようとしていた。(これまでオーストリアで対セルビア強硬策が取りざたされた時、常に「待った」をかけてきたのはフェルディナンド大公であった。)
しかし、そのような考えこそ、民族の支配地域を拡大したうえで統一を図ろうと考える人々にとっては脅威であった。
・・・
歴史家クリストファー・クラークはこう指摘している。テロ活動の論理からすると、明白な敵や強硬派よりも、このような改革派や穏健派のほうが恐れられるのである、と。」
これはとても示唆に富んだ指摘だと思います。実際にフェルディナンド大公はオーストリア=ハンガリー二重帝国において、ドイツ人、ハンガリー人に加えてスラヴ人も加えた三頭政治を模索していたという説あります。これが実現した場合、スラヴ人に「それなりに大きな飴」が与えられるわけで、これによって民族活動が萎えてしまう可能性がある。過激派がこれを危惧するのは当然でしょう。
(ただ一方で帝国内の責任閣僚たちにとって、この案は受け入れがたいものだったでしょう。その意味で大公の暗殺で安堵した人間は多かったのではないでしょうか。)
また1916年のヴェルダンの戦いでは、これを主唱した時のドイツ参謀総長 ファルケンハインはフランス軍兵力の消耗を期してこれを実行したというのが一般的に言われる説ですが、一方で、
「軍事史家のストローンによれば、ファルケンハインは、三月半ばまではヴェルダン戦の目的を述べる際に消耗戦という言葉を繰り返し用いてはいない、という。つまり、彼はヴェルダン戦で突破に失敗したことを正当化するため、消耗戦が目的であるとした可能性もあるのだ。」
と別の視点も紹介してくれています。実際にドイツにとってフランス軍の消耗を正確に把握するのは不可能である一方、自軍の損害は正確に把握しえます。ドイツの損害は三月末でも8万人以上に達しており、自軍の損害だけ見ても動揺を禁じ得ない数字です。そうなると目に見える戦果は要塞の陥落ということになります。作戦を指示する将領がこれを求めないというのは心理的に難しいでしょう。
それ以外にも、大戦勃発の重要な契機となったロシアによる総動員についても、フランスが暗にこれを後押ししたのではないかという推察が述べられています。
「露仏両国の駐在大使が、ともに反ドイツのタカ派であったことも災いした。駐露フランス大使は、フランス首脳が帰途にある間、ロシア政府にロシアの動員をフランスは支持すると伝えていたと推察される。」
これも鋭い指摘だと思います。個人的にも当時の駐露大使であったパレオログがロシアに白地小切手を渡したことで、ロシアが総動員という過激な前軍事行動に舵を切った可能性が高いと思います(そうなると、一般的に大戦の一方的被害者と考えられていたフランスが、大戦の契機に重要な役割を演じたことになります)。
その他にも「当初部分動員のみを想定していたロシアがなぜ、総動員へと舵を切ったのか」、「非力な宰相とイメージされやすいベートマンの努力」など、一般的には知られていない歴史事実や、著者の鋭い指摘が本書にはふんだんに盛り込まれています。
一般的な大戦史を読んだ上で本書を参考にすると、一気に視野が広がることでしょう。
おすすめの一冊です。 -
Posted by ブクログ
日本とよく比較されるドイツの知られていない第一次世界大戦の敗戦までのノンフィクション。
第一次世界大戦のドイツにおける敗戦原因が、軍人、皇帝、政治家の三権分立による双方のバランスが崩れにより、敗北に歩んでいく過程が理解出来た。
軍人ルーデンドルフが、専門外の政治に踏み込み過ぎたために、悪い意味で歴史に名を刻んだ。
日本では、独裁者は幸運にも生まれなかったが、本来の機能や立場を忘れたために、敗戦に至ったという点は、日本にとって他人事ではないはずである。
初見であるのが、ドイツが善戦していたのには意外であり、日露戦争を勝利した日本にも当てはまるのか。
中途半端に、善戦していたが故に、第二次世界大戦に続いたのか。
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Posted by ブクログ
第一次世界大戦、それは世界規模の歴史の始まり。
「世界植民地化」を押し進める“列強”は、次第に狭くなる世界に思惑が過熱し、ヨーロッパで遂に発火した。
受験勉強でお馴染み「サラエボ事件」からだ。
各国の首脳達が「すぐ終わる」と思っていたのに、なぜか長引く……「戦いを仲裁する力と意志を持つ強力な第三国も存在しなかった」……結局、始めたら自分たちではやめられない。
新兵器が繰り出され戦死者が増加するなか、首脳陣は同時に複数の相手(時には自国内)とチェスを繰り広げるように対戦する。
そして、これまでの貴族政治によるヨーロッパでの覇権争いから、アメリカ、日本、オーストラリアなど大陸を超えた争いが加わった「ごった煮」戦争となった。
後半になるにつれ、各国の思惑と各前線の勝敗とそれに伴う死傷者数が、淡々とつづられていく。
数字になることで見えなくなっていく“人の死”には、大切な人を失った更に大勢の人がいることも、やがて薄れていく。
時系列に出来事や戦闘、政変などがまとめられ、同時に当時の風刺画が差し込まれており、歴史書物としては読みやすい。
ただ、この時代に馴染みのない身にとっては、人名の整理に苦労した。
第二次大戦の影に隠れ、馴染みが少ないが、技術の進歩とともに増大する危機が、いつのまにか初の世界大戦として現実化したことを、今、まさに知っておくべき。 -
Posted by ブクログ
サラエボ事件100周年となる2014年以降様々な第一次大戦本が発刊されたが、それらにやや遅れて世に出た本書の特色は何と言ってもその豊富な風刺画の数々。個人的に印象深かったのは大戦の帰結を描く第5章の扉絵。連合国側の勝利を告げる乙女の周囲に描かれる各連合国の紋章の中に、日本の十六八重表菊が見て取れる。日本と縁遠いとの印象を持たれがちだが、この大戦において日本は一応戦勝国なのだ。
前書きには主に主要人物の人物像と意思決定に焦点を当てたとあるが、新書という制限の多いメディアではそれが成功したとは言い難いと思う。何せ人物そのものの数が多すぎて、個々の内面にまで光が当たる頻度が少ない。文章も硬いため他の類似本との差別化に乏しく、何より人間臭さが伝わりにくい。風刺画と組み合わせるなら、比較的描写されることの多い人物に絞ってそのバイオグラフィーを追う形にした方が、本書の目的をより達せられたと思う。