水島治郎のレビュー一覧
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現代政治における、「アウトサイダー」について様々な研究者が語る本。
著者の水島治郎さん曰く、「アウトサイダー」とは、従来の政治秩序の周縁部に出自を持ち、「外部」の立場から既成政党や既成の政治家を批判し、既存の政治の「変革」を訴える政治主体のこと。
この著者はポピュリズム研究でも有名なので、この本を構成する論文の中でも、議論の主体が「アウトサイダー」なのか「ポピュリズム」なのか分からなくなることがあった。その意味でも、「アウトサイダー」という用語が、この混沌とした現代政治を表すためにしっくりくる言葉だとは思うのだが、人口に膾炙するにはもう少し時間がかかるような気がする。
「アウトサイダー」と -
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本書『ポピュリズムとは何か』は、政治の世界で頻繁に語られる「ポピュリズム」という言葉を、感情や印象ではなく冷静に、そして多面的に読み解いていく一冊です。著者・水島治郎氏は、政治思想史や比較政治学の視点から、ポピュリズムが現代民主主義といかに緊張関係を持っているのかを明らかにしていきます。
本書でまず印象的なのは、ポピュリズムのリーダーが「歯に衣を着せぬ発言」で人々の感情を揺さぶり、「民衆の声」を既成政治にぶつけることで喝采を浴びるという指摘です。これは日本の橋下徹による文楽批判など、身近な例を通じて読者に強いリアリティをもって伝わってきます。
著者はまた、現代のポピュリズムが単なる「大衆迎 -
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2024年11月、トランプ再選。日本においても衆議院選挙での国民民主党の躍進等、昨今の国政選挙におけるポピュリズム的雰囲気が伸長しているように思える。そんな中で、ポピュリズムとは何なのか、気になって本書を手に取った。
本書では、ラテンアメリカ、ヨーロッパにおけるポピュリズム政党の事例を参照しつつ、副題の通りポピュリズムは「民主主義の敵なのか、改革の希望なのか」という点が考察されている。
総論としてはP20以降のまとめが非常にわかりやすく、メモとして以下に記しておく。論じられているのはポピュリズムの功罪である。
まず、デモクラシーに対しての寄与であるが、4点あげられている。主には、人々の参加と包 -
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とても面白かった。
本書では、ポピュリズムを『既存のエリート層を批判することで人々の支持を集める手法』と定義付けしており、当たり前だけどポピュリズムだからといって必ずしも抑圧的であったり問題があるとは限らない。
ポピュリズムというのは民主主義の部分集合であって、問題が発生する時というのは、全体の一部あるいは多数派が結集することで、彼ら自身も含めた共同体全体の利益を結果的に損ねてしまう場合である。
近ごろだとEU離脱やトランプ政権、もっと言えば先月31日の衆院選での維新の会の大阪での大躍進がそれにあたる。
本来の民主主義の崇高な()理念というのは、多数派によって、少数派も含めた多様性を尊重す -
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各国で猛威を振るっているポピュリズムに関する概説書。ベネズエラのチャベス政権といった南米のポピュリズム政権も取り上げられているが、筆者の専門はヨーロッパ政治史、比較政治なので、ヨーロッパのポピュリズム政党に関する記述がほとんどを占める。本書では、ポピュリズムの定義として、①固定的な支持基盤を超え、幅広く国民に直接訴える政治スタイル、②「人民」の立場から既成政治やエリートを批判する政治運動といった二つの定義があるが、後者の定義が採用されている。
ヨーロッパのポピュリズム政党において、大きく分けて、極右に起源を持つ政党と「リベラル」に起源を持つ政党の2種類がある。前者はフランスの国民戦線、オース -
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ポピュリズムに対し、歴史的・政治学的な観点から切り込む。成立の経緯(左右の既成政党から蔑ろにされてきた低所得者のニーズを掴んだことなど)や肯定的な側面(改革促進、安全弁機能、脱反ユ・脱民族主義、リベラルな価値・民主主義的手法の尊重)がよく分かる。欧州のポピュリズムでは、基本的に反イスラム(自由民主主義にそぐわないとされる)、反移民、反EUという形を取る。その意味では従来の極右(ネオナチ、反ユ、民族主義)とは異なる。
なお、ポピュリズムの否定的な側面や、自由・民主主義と排外主義の結合により生じる内在的矛盾に対する叙述は少な目。メディアでしばしば紹介されるから、その部分は重視しなかったということか -
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筆者の主張:
21世紀の欧州のポピュリズムは、リベラルな価値の守り手として、男女平等や政教分離に基づきイスラム移民を批判する。またデモクラシーの立場から、EU離脱の国民投票を提起する。彼らは沈滞化した既成政治に改革を促し、活性化させてもいる。これは言わば、デモクラシーの内なる敵だ。
となれば、ポピュリズムとはデモクラシーに内在する矛盾を端的に示すものではないか?デモクラシーの論理を突き詰めれば突き詰めるほど、「真のデモクラシー」を訴えて、住民投票でEU離脱を決しようとするポピュリズムの主張を、正当化するからだ。
ポピュリズムは、かつて多様な層の「解放の論理」として現れ、今では排外主義と結びつ -
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近年世界を席捲するポピュリズム。アメリカ合衆国のトランプ大統領や、期限が間近に迫るイギリスの「ブレグジット」が代表的だが、日本とて例外ではなく、7月に行われた参院選においては、現職1名で臨み「泡沫政党」扱いされながらも2議席を獲得する躍進を遂げたれいわ新選組は「左派ポピュリズム」と評されている。とにかく右も左もポピュリズムに覆われており、現代社会を理解するうえで欠かせないキイワードということができるだろう。そこで、第38回石橋湛山賞を受賞するなど、もとより評価が高い本作を手に取ってみた。本作では各国の実例を通して、ポピュリズムが抱える問題や、あるいはその逆のメリットなどを浮き彫りにしている。日
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本書は、ポピュリズムの定義や各国における状況、そして今後の展望について、わかりやすくまとめられている。特に興味深かったのは、ラテンアメリカのポピュリズムとヨーロッパのポピュリズムが、それぞれ異なる背景で盛り上がりを見せてきたという点である。 また本書では、ポピュリズムのデメリットとして「立憲主義の原則を軽視する傾向がある」ことが指摘されていた。この点については、今一度「法とは何か」という根本的な問いを全国民が考える必要があると感じた。私の好きな漫画『キングダム』に登場する李斯が「法とは願い──国家がその国民に望む人間の在り方の理想を形にしたものだ」と語る場面があるが、現代における「法」は果たし