齋藤可津子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
パリ、女性会館という場所で現代と100年前が行き交う。女性が安心して眠れる場所に生涯を捧げた女性と、100年後のその場所で人生に再び意味を取り戻す女性。
書くこと、報われること、この場所から始まっていくこと。読みやすい文章の中に情熱の灯り、時を越えた女性たちへのエール。
物語の中にパリの貧困の現状、女性を取り巻く窮状が頑とした意志で書かれていたのがよかった。同じ女性であっても境遇が違えば見えないものはこんなにあって、いつ立場がひっくり返るかもわからない。
女性が女性に「気づく」物語でもあり、境遇の差を越えた連帯と友情、人生賛歌でもある。
とても好き。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ映画のノベライズを読んでいるような、独特な描写が続く一冊。そのため感情移入はしずらく、傍観者という感覚になる。
100年前、貧しい女たちの為に立ち上がり戦い続けた貴族の令嬢と、同じように恵まれた階級に生まれながら貧しい女たちの存在を知らずに生きてきた現代の女性。
2人の物語が交互に語られるが、面白いのは過去の志が現代に引き継がれる構造ではないということ。
現在を生きる恵まれた女であるソレーヌが、ふとした運命の悪戯によってそこから転落し、自らが恵まれていたが故に傲慢であったことに気づく。
そして今まで「貧しい女」「苦労している女」と無意識に一段下に見ていた女性たちと自分に何ら変わりはないのだ -
Posted by ブクログ
私自身、生まれてからこれまで何度「どうして女に生まれてしまったんだろう」と考えたか分からない。なのに、もっと苦しい状況に置かれている女たちがいる。そのことに絶望する。
いったい、彼女たちにとって知識は救いなのだろうか。
何も知らず置かれた仕組みの中で淡々と生を終える事と、外の世界がある事だけを知りながら逃れられない檻の中で生きる事。どちらが幸せなのか。いつもいつも考えて、わからないと思う。
何も知らずに一生を終えた沢山の彼女たちが不幸であったと決め付けたくは無い。けれど、一人でも多くの若い彼女たちが自らの選択で人生を歩めるような時代が来て欲しいとも思う。
読んでいて映画のシーンが浮かぶよう -
Posted by ブクログ
物語後半で展開されるのは人生の不条理劇。解明しようとしてたサイバーテロ攻撃も父が残した謎も大統領選もこれ以上進展がのぞめない。なぜならポールは口腔癌によって「滅ぼされる」から。
自分はまだ重い病気に罹ったことがないから、癌の告知、治療の選択、家族へ知らせる過程等をポールと共に追体験した。嘘つくまではいかないが言うべきことを妻に言わなかったりセカンドオピニオン受けて治療法を天秤にかけたりと、細部にリアリティがあってこんな感じなのかーとしみじみ思った。
やっぱり、妻であるプリュダンスとパートナー関係が修復できてるのが今までのウエルベック作品と異質だと思う。
知人とも話したけど、ウエルベック年々作風 -
Posted by ブクログ
ネタバレ映画のシナリオ的な文章で読みやすく、映像も浮かぶ。挫折した主人公がこれまで知らなかった世界・人々とのかかわりを通して変わっていく様に、世界の豊かさを見る。職業人としての自分の価値は相対的なものでもあるが、個人の本当の価値はそうではない。主人公が、手編みのニットを値切ろうとした人に怒りを覚えたシーンが印象的だった。怒りは大事にしたいものを守ろうとする感情であり、あのときソレーヌは編み女の手編み服に、大きな価値を見いだしていた。それは、編み女が編んでいた姿を見ていたからであり、編み女を個人的に知っていたから。
世界ではつねにそれぞれの人がそれぞれの仕事をしている。今は嘆き悲しむことしかできない人 -
Posted by ブクログ
いつものウエルベック節を求めている人にとって期待以上に楽しめる本だと思う。
序盤から断頭台の図解が出てきて笑ってしまう。まだ上巻しか読んでないけど、ポールとプリュダンス夫妻の歩み寄り・関係の修復が見られそうなのがこれまでのウエルベック作品とは違う点かな。
ポールが人間嫌悪とテロリストへのシンパシィを独白するシーンは正直ドキッとさせられた。
一番印象的だったのはポールの妹セシルが得意の料理を武器に働きに出て、ブルジョワの家で作業をする中で社会的階層の違いを痛感するところ。「こんなの知りたくなかった」けど夫と合流する頃には「楽しかったわ」と表面上取り繕う。うーんしんどいな -
Posted by ブクログ
建物すべてがガラス張り透明化? いきすぎた監視社会をテーマにした近未来ディストピアSF #透明都市
■あらすじ
2029年フランスで暴力事件の未解決と民衆の意見によって新たな法律ができた。事件の予防と可視化を目的として、すべての建物をガラス張りにして、市民がお互いに監視し合うという社会を成立させたのだ。
20年後… 犯罪が少なくなった透明都市であったが、ある裕福な家族が行方不明になってしまう。街の治安を守る安全管理人であるエレーヌ・デュベルヌは、一家の捜索を始めることになった…
■きっと読みたくなるレビュー
やりすぎた監視社会をテーマにした近未来ディストピアSF。透明な建物で暮らすなんて -
Posted by ブクログ
ネタバレ滅ぼすとはそういうことだったのかと、読み進めるにつれて、悲しい気持ちになった。オーレリアンは自殺し、ポールが末期の癌になるとは。喉頭や口腔癌になると、舌を切除しなければならないこともあるとは、知らなかった。
プリュダンスと仲良しに戻っていて、本当に良かったと思った。死期を悟った後も冷静で、手術を拒み、点滴の際は読書をして過ごしたポール。自分だったらどうしていただろうか。
所々に散りばめられたウエルベックのユーモアにはクスッとさせられた。デュボンとデュポンは特にお気に入りだ(笑)。
政治や歴史、文学に恋愛、扱う内容をフランスらしいと言って良いかは定かではないけれどそのように感じ、読み応えの