齋藤可津子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ストーリー冒頭のブリュノ大臣偽殺害動画は何の目的で誰によって作られたのかも分からないまま、主人公ポールと妹弟たちとの関わりが描かれていくので、ミステリ的な展開を期待して読んでいたら動きがなくて肩透かしをくらった感じになった。
本作は主要人物たちが著者によって意識的に描かれてると思うからその辺を注意して読むと面白い。
ポールは現代社会の「勝ち組」で今のところ現代フランスのハイクラス男性の典型みたいな描かれ方にとどまっているように思う。
妹のセシルは田舎で暮らす敬虔なキリスト教信者で経済的な成功者のポールと差があるように見えるけど、関係は良好に見える。
一方、男性的な成功基準から外れた弱い男として描かれている弟のオーレリアンはポールから見ても頼りない存在。
まともな政治家ブリュノや権力欲の強いジャーナリストとして描かれているオーレリアンの妻インディーも注目すべき人物。
上巻だけでは評価が難しいけと、下巻でストーリー的にも大きく動きがあると思うのでラストに向かって主要人物たちがどうなるかで本作の真価が見えてくると思う。 -
Posted by ブクログ
ミシェル・ウエルベックの二巻本の最新長編小説、ということでずいぶんと期待をもって読んだ。以下、おおいにネタバレがあるのでまだ読んでいない人は注意してほしい。
小説の途中までは、経済・財務大臣の腹心の高級官僚である主人公ポールを中心に、フランス大統領選を控えた選挙戦略、政府へのサイバー攻撃、父親の脳卒中とケアの問題、妹弟とくに弟夫婦との関係とそれを発端としたスキャンダルと実弟の自死、妹のキリスト教と妻の新興宗教、年を経た夫婦の関係、と何本もの糸を張って物語を紡いでいった。小説の終盤にかけてこれらの仕掛けをどうやって回収していくのか、と楽しみにしていた矢先に、ポールの悪性の口腔癌が発覚する。その後はほぼ仕掛けはそのままに、ポールの予後は思わしくなくなり、もうすぐ死を迎えるところで小説は終わる。数々の設定は宙吊りにされたままだ。思うに、それらは宙吊りにされるために書かれたのだと合点した。どうしたところで、死がこのようにすべてを無に帰すように終わらせるのだ、と示すために。おそらくは、小説の最後に置かれたのは妻との絆と妻の信仰だが、それが最後に置かれた意味はあるだろう。そのとき何を思うことが可能なのかと。
ウエルベックは小説世界の中で積み上げてきたものを壊してしまうことで、死の暴力を書こうとしたのだろう。『滅ぼす』というタイトルに込めた意味もおそらくはそこにある。もちろん、それはひとつの読み方でしかないのだけれど、剥き出しの「死」こそがこの小説のテーマなのだ。読者としてはせっかくの物語のかたを付けてもらいたかったという思いは残るが、それも含めてウエルベックの狙いだと思うこととしよう。
死に方に関して言えば、小説の中で出てきた数々の死 ― 実父の脳卒中(植物状態で生きているが)、ポールと実弟のオーレリアン、ポールの妻プリュダンスの母の交通事故死 ― を比べると、やはりポールのように癌で死にたいと思うのだ。自分が死にゆきものであり、およそいつごろ死ぬのかを知りつつ最後を迎えたいと強く思う。老衰の前に病によって強制的に死にゆくポールをウエルベックはひとつの理想とみているのかもしれない。そうでないかもしれないけど。 -
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ネタバレ映画のノベライズを読んでいるような、独特な描写が続く一冊。そのため感情移入はしずらく、傍観者という感覚になる。
100年前、貧しい女たちの為に立ち上がり戦い続けた貴族の令嬢と、同じように恵まれた階級に生まれながら貧しい女たちの存在を知らずに生きてきた現代の女性。
2人の物語が交互に語られるが、面白いのは過去の志が現代に引き継がれる構造ではないということ。
現在を生きる恵まれた女であるソレーヌが、ふとした運命の悪戯によってそこから転落し、自らが恵まれていたが故に傲慢であったことに気づく。
そして今まで「貧しい女」「苦労している女」と無意識に一段下に見ていた女性たちと自分に何ら変わりはないのだと気づいて、共に歩むことを決意したその先に、100年前のブランシュの戦いが立ち現れてくる構造なのだ。
私たちの裡にも、過去の誰かの祈りが息づいている。そんな連帯の物語でもあるのだろう。
100年以上前の人の言葉、
「聖女のように育て上げ、繁殖牝馬のように譲り渡す」
「女性の唯一真性で尊い使命は、自分の内面と家族に全てを捧げること」
これらが決して過去のものになっていないこの現実に、忸怩たる思いが募る。 -
Posted by ブクログ
私自身、生まれてからこれまで何度「どうして女に生まれてしまったんだろう」と考えたか分からない。なのに、もっと苦しい状況に置かれている女たちがいる。そのことに絶望する。
いったい、彼女たちにとって知識は救いなのだろうか。
何も知らず置かれた仕組みの中で淡々と生を終える事と、外の世界がある事だけを知りながら逃れられない檻の中で生きる事。どちらが幸せなのか。いつもいつも考えて、わからないと思う。
何も知らずに一生を終えた沢山の彼女たちが不幸であったと決め付けたくは無い。けれど、一人でも多くの若い彼女たちが自らの選択で人生を歩めるような時代が来て欲しいとも思う。
読んでいて映画のシーンが浮かぶような、鮮明で苦い一冊だった。 -
Posted by ブクログ
物語後半で展開されるのは人生の不条理劇。解明しようとしてたサイバーテロ攻撃も父が残した謎も大統領選もこれ以上進展がのぞめない。なぜならポールは口腔癌によって「滅ぼされる」から。
自分はまだ重い病気に罹ったことがないから、癌の告知、治療の選択、家族へ知らせる過程等をポールと共に追体験した。嘘つくまではいかないが言うべきことを妻に言わなかったりセカンドオピニオン受けて治療法を天秤にかけたりと、細部にリアリティがあってこんな感じなのかーとしみじみ思った。
やっぱり、妻であるプリュダンスとパートナー関係が修復できてるのが今までのウエルベック作品と異質だと思う。
知人とも話したけど、ウエルベック年々作風丸くなっていってるよね????昔はもっと露悪的だったよ -
Posted by ブクログ
ネタバレ映画のシナリオ的な文章で読みやすく、映像も浮かぶ。挫折した主人公がこれまで知らなかった世界・人々とのかかわりを通して変わっていく様に、世界の豊かさを見る。職業人としての自分の価値は相対的なものでもあるが、個人の本当の価値はそうではない。主人公が、手編みのニットを値切ろうとした人に怒りを覚えたシーンが印象的だった。怒りは大事にしたいものを守ろうとする感情であり、あのときソレーヌは編み女の手編み服に、大きな価値を見いだしていた。それは、編み女が編んでいた姿を見ていたからであり、編み女を個人的に知っていたから。
世界ではつねにそれぞれの人がそれぞれの仕事をしている。今は嘆き悲しむことしかできない人でさえも。 -
Posted by ブクログ
いつものウエルベック節を求めている人にとって期待以上に楽しめる本だと思う。
序盤から断頭台の図解が出てきて笑ってしまう。まだ上巻しか読んでないけど、ポールとプリュダンス夫妻の歩み寄り・関係の修復が見られそうなのがこれまでのウエルベック作品とは違う点かな。
ポールが人間嫌悪とテロリストへのシンパシィを独白するシーンは正直ドキッとさせられた。
一番印象的だったのはポールの妹セシルが得意の料理を武器に働きに出て、ブルジョワの家で作業をする中で社会的階層の違いを痛感するところ。「こんなの知りたくなかった」けど夫と合流する頃には「楽しかったわ」と表面上取り繕う。うーんしんどいな