大企業の経営者に「コーチング・セッション」を行なう「エグゼクティブ・コーチ」という仕事をしている方が書いた本。
「コーチング・セッション」とは、一言でいえばクライアント(企業の経営者)が目標を達成するために「良い質問」をすることだ。
私たちの日常会話の多くは、質問とそれに対する回答でなりたっている。
それだけでなく、ひとりで考え事をしているときや行動の予定を立てるときなど、人は自分への質問も繰り返している。
いわば質問とその回答によって、その人の行動あるいは人生すら規定される。
自分に毎日同じ質問をしていれば、同じ毎日を過ごすことになる。
一方、新たな質問を投げかければそれが新しい行動へつながり、それが成功へとつながる。
「良い質問」は自分と周囲の関係を良好にすることもできる。
何か問題を抱えた人が、相手から投げかけられた質問によって明るい未来に向かえる可能性がある。
その質問が一生残り続け、人生の原動力となることもある。
「質問」は4種類に整理・分類することができる。
①軽い質問(答えたくなる、気づきがない)
②悪い質問(答えたくない、気づきがない)
③重い質問(答えたくない、気づきがある)
④良い質問(答えたくなる、気づきがある)
「気づき」とは質問によって得られる、目的や目標達成につながる新たな思考・行動を起こすものである。
「良い質問」に決まった形はない。ある人にとっては深い気づきをもたらした質問でも、他の人には効果がないこともある。そのため、質問には「個別対応」が必要である。
まずは「軽い質問」で「良い質問」をするための情報収集をする。
たとえばその人の成功体験を語ってもらい(話していて嬉しい・答えやすい・話し慣れている話題)、相手との関係を良好にするとともに「良い質問」をするための下地をつくる。
相手の成長にとって必要であれば、あえて答えづらい「重い質問」をすることもある。
ただし相手にとっては触れられたくないところに踏み込むことになるので、使い方やタイミングは慎重に考慮する必要がある。
相手に「なぜそんなことを聞くんだ」と思われないためには、質問の目的が共有されていなければならない。
質問の目的が共有されていないと、それは「悪い質問」となる。
「良い質問」を作るために効果的なのは、相手の中で内在化している(その人の中に深く留まっている)質問に近く、かつ盲点のように見逃しているポイントを探すことである。
その発見の切り口となるのがVision(手に入れたいもの)、Value(価値観)、Vocabulary(よく使う言葉)の「3つのV」である。
Visionは、それについて多く語るほど実現する確率が高まる。
そのため「よく使う言葉」とも関連が深い。
人の行動はその人の価値観に大きく左右される。
仕事におけるスキルや知識において優秀であっても、「基本となる考え方」「モノの捉え方」「根本的な価値観」に問題があればパフォーマンスは充分に発揮されない。
こうした「3つのV」に5W1Hを組み合わせることで、質問を作ることができる。
5W1Hの中で普段あまり使わない疑問詞を使ってみたり、「3つのV」を2つ以上使って新しい組み合わせを作るのが有効だ。
作った質問は人に投げかけるだけでなく、自分にも積極的に投げかけていくことで人生をより良い方向へと導いていくことができる。
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ビジネス本が好きな人にとっては、フレームワークの形で整理された内容は分かりやすく読んでいて明解で楽しいかもしれない。
アクティブリスニング(傾聴)についても触れるなど、決して理論だけでは習得できない部分もあると感じた。
大企業を率いるエグゼクティブには、ビジネスの実学的なスキルだけでなく、目に見えない「人間性」やいわゆる「考える力」、「問う力」が必要になってくるのだろう。