児玉聡のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
倫理ってなに?
私の当初のイメージは常に感情の起伏を表情に出さず、物事を冷静に分析し淡々と処理をする態度。
なんか的外れな気がしてくるが、本書で紹介されるピーター・シンガーの一節はこうである。
「倫理的に生きるとは、自分がどう生きているかを一定の仕方で反省することであり、反省して得られた結論に従って行動しようと努めることである。──ピーター・シンガー」
なるほど、反省と行動が大切なのだと学べただけでも本書を読み始めてよかった。しかし本書のタイトルは「功利主義入門」。功利主義って利己的で自分勝手な振舞っていうマイナスな印象だけど、反省と行動を指針とする倫理に該当するのかい?
もし私と同じような浅はかさをお持ちの方がいたら、本書はその誤解を懇切丁寧に取り払ってくれる。ぜひ、手に取ってみてほしい。
個人的に一昔前に流行った行動心理学用語の「ナッジ」も、功利主義の文脈で説明できるんだとは意外であった。合理的な判断ではなく感情に流される愚かさを人間にはあると認めた条件下で、さて最大多数の最大幸福へと導くにはどうすればよいか。頭ごなしの規制を嫌う功利主義と最低限の規範を融合させる理論は、功利主義への理解をさらに深めてくれる。
難しい思想を扱いながらも、著者のユーモアを交えた語り口のおかげで最後まで楽しく読めた。功利主義礼賛で一貫することはなく、常に各理論の良い点と問題点を挙げ最後に著者自身の立場も率直に示されている。功利主義の概観を知るには、今もなお最良の一冊だと思う。 -
Posted by ブクログ
哲学史入門シリーズの最新刊。
各シリーズ同様、倫理学の主要な理論の第一人者へのインタビューによるライブ感のある哲学史入門講座となっている。同時に、倫理学を学ぶことの意義を探究する構成だ。今回は倫理学がテーマであり、隣接する分野も含め功利主義、正義論、徳倫理学、ケアの倫理を扱う。
特に徳倫理学が興味深かった。
正直倫理学の中でも馴染みのない分野で、実際に比較的新しい学問分野であるという。
要するに、功利主義や義務論などのように最大多数の最大幸福や規範への遵守という倫理の評価を外部へ依拠するのではなく、「徳」を備えた人格そのものに照準を当てる理論である。理想を追求する姿勢を感じられ、さわやかな印象を受ける。
しかしながら、この理論を達成することの困難さは日々私たちは痛感している。
立法国家で暮らす日本国民としては、大前提として規範がありその下で個人的な暮らしを営んでいるという感覚がある。「徳」が個人の行動原理として影響を及ぼせる範囲には、一定の限界があるのではないか。そもそも「徳ある人」とはどのような人物を指すのだろうか。
本書には「徳」に基準を設ける方針も紹介されており、例として日本における道徳教育の内容項目が紹介されている。そこに挙がっている項目に「公正」や「国にへの愛する態度」が含まれていることに、違和感を感じる。
朱 喜哲「〈公正(フェアネス)〉を乗りこなす」で指摘していたように「公正」という資質を個人に過剰に依拠する姿勢は問題含みである。この観点から見ると、日本教育における「徳」項目には、個人の内面的資質として育まれるもの(これが本書の定義における「徳」)と、本来は社会的規範として共有されるべきものが混在しているように思われる。これは、誤った個人非難に繋がりかねないと危惧する。
その他理論についても、各研究者の視点と理論における問題点を詳らかに説明してくれている。決して自分の研究分野を単に称揚するのでなく、批判的な指摘も含まれていることに本書の信頼性の高さを感じた。
過去シリーズとあわせて、最前線の研究動向に触れたい人や、用語の暗記中心の学習に物足りなさを感じている哲学初学者におすすめである。 -
Posted by ブクログ
かなり面白い。が、考え得るケースが膨大にあり、思考を放棄したくなる。
功利主義では全ての人は一人としてカウントされる。首相だろうと身内だろうと一人であり重み付けされない。社会全体という俯瞰的な視点から個人を観測する、さながら最大利得を目指すマルチエージェントシミュレーションのようなもの。
功利主義の3つの特徴。1.帰結主義。こう行為するとこういうことが結果として起こるだろう、という事前の予測に基づいて行為の正しさを評価する。2.幸福主義。何かの役に立つという理由からではなく、それ自体に価値があることを内在的価値と呼ぶ。幸福主義によれば、この世界で内在的価値を持つものは幸福だけであり、それ以外は手段としての道具的価値を持つに過ぎない。3.総和最大化。各人を一人として数え、誰もそれ以上には数えない。
ーメモー
倫理学とは「倫理について批判的に考える」学問である。よりよく生きるために社会の常識やルールを考えなおすための技術である。ある党派的な諸原則を押し付けられるのではなく、批判的な思考能力を高め、自分で思考できるようにすることが、本書の狙い。
ー倫理の学び方ー
1つ目は守るべきルールを学び実践できるようになること。2つ目はルールについて疑問を発し、自分なりの答えを出せるようになること。
批判的に考えることの主目的は、ルールの根拠を確認することにある。みんなが従っているルールだから従うのではなく、確信をもって従うのだ。
倫理的相対主義・・・俺の中ではOK、あなたの中ではNG。人それぞれ規範が異なる。他人の倫理観についてとやかく批判すべきではないとの考え。
→倫理は相対的か?元をたどると共通のルールがあることがわかる。
→倫理的相対主義への批判。他人の倫理観についてとやかく批判すべきではないというのなら、その倫理観を他人に主張すべきでない。
動機は倫理における一番大切な事柄ではない。なぜなら人は善い動機から非倫理的な行為をすることもあるし、利己的な動機から倫理的な行為をすることもある。動機の善し悪しではなく、倫理的な行為がなされるかどうか。動機の問題ではなく、その行動に主眼がある。
人間は利己的だから倫理は無駄。
これに対する反論は2つある。1つは倫理は動機(利己/利他)によらないとの見方。利己的であっても倫理的/非倫理的な行動をとりうる。もう1つは人間は常に利己的ではないとの見方。利己と利他は対義的ではない。倫理/非倫理と利己/利他で見るといい。
ジェレミーベンタム・・・政治においても道徳においても、何をなすべきかを考える際に指針となるのは、功利性の原理において他にない。最大多数の最大幸福を指針として行為せよ。自然は人間を苦痛と快楽という2人の王の支配下に置いた。
なぜ最大多数の最大幸福を追求したければならないか。
→社会全体の幸福の実現のため。実現に向けて:功利主義に従う人はそれでいい。それ以外の人は?→サンクションによって拘束する。
功利主義の3つの特徴。帰結主義:結果ではなく、事前に予想される結果に基づいて評価される。幸福主義:行為が人々に与える影響こそが倫理的に重要な帰結。総和最大化:各人を1人として数え、誰もそれ以上には数えない。
メタ倫理学:「〜は正しい」と言うときの正しいとはどういうことか、「〜は善い」と言うときの善いはどう言う意味か -
Posted by ブクログ
哲学史入門シリーズの4巻目で、「倫理学」を取り上げた巻。「功利主義」「正義論」「徳倫理学」「ケアの倫理」を解説している。これまでの各巻同様、各章で編者の斎藤哲也氏が基礎知識と読みどころを紹介して、指南役の研究者にインタビューするという形式。個人的に興味を持って読んだのは、「功利主義」」と「正義論」。近年テック長者」などが語る「効果的功利主義」への流れも理解しやすい。また「ケアの倫理」は耳慣れない言葉だったが、倫理学を実践に移すにはこういう考え方のほうが有効かもしれないと思わせられた。入門書として、わかりやすく、全体像が把握できる。
【目次】
序章 倫理学に入門するとは何をすることなのか(古田徹也)
第1章 現代に生きる功利主義―誰もが幸福な社会を目指して(児玉聡)
第2章 義務論から正義論へ―カントからロールズ、ヌスバウムまで(神島裕子)
第3章 徳倫理学の復興―善い生き方をいかに実現するか(立花幸司)
第4章 なぜケアの倫理が必要なのか―「土台」を問い直すダイナミックな思想(岡野八代)
特別章 「地べた」から倫理を考える(ブレイディみかこ)