児玉聡のレビュー一覧
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かなり面白い。が、考え得るケースが膨大にあり、思考を放棄したくなる。
功利主義では全ての人は一人としてカウントされる。首相だろうと身内だろうと一人であり重み付けされない。社会全体という俯瞰的な視点から個人を観測する、さながら最大利得を目指すマルチエージェントシミュレーションのようなもの。
功利主義の3つの特徴。1.帰結主義。こう行為するとこういうことが結果として起こるだろう、という事前の予測に基づいて行為の正しさを評価する。2.幸福主義。何かの役に立つという理由からではなく、それ自体に価値があることを内在的価値と呼ぶ。幸福主義によれば、この世界で内在的価値を持つものは幸福だけであり、それ以 -
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明快な解説、豊富な事例くわえて洗練された文体を備えたすぐれた倫理学の入門書である。
著者の前作『功利と直観』を読んだ時には功利主義の論敵であるロールズの描写があまりにもヒロイックでそちらに目を奪われてしまったが、この新書ではあくまで功利主義の魅力が十二分に描かれている。これを読むと功利主義は、功利計算によって既存の道徳規範を批判的に検討する基盤を与えてくれるし、まさしく同じ手法のゆえに著しく常識的な道徳感情から逸脱したものを安易によしとすることもない、非常にすぐれた理論に思われる。
特に印象に残ったのは第5章の公衆衛生に関する箇所である。人間はそれほど合理的ではなく、最善の行動をとれるとは -
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ネタバレ中学の時、生徒会に入り、当時の生徒会会長のK君の提案によって「語る」という企画をやった。追試制度など、生徒にとって嫌な学校のルールについて先生と討論するというものだ。私もパネリストとして参加したが、言いたい放題の参加者を眺めながら終始沈黙し、最後になって結論めいたことをぼそっとつぶやいていいところを持っていくという、おいしい役回りをやっていた。
その時にはたと気がついたのが、ルールや統治というものは、社会の原理として存在しているのではなく、それがあるとみんなが信じているから成立しているだけで、個人的なルール違反そのものは倫理上問題ないということだった。全裸で逆立ちして学校に通おうとも、それ -
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とあるところで紹介されていたので読んでみました。
功利主義というと、「最大多数の最大幸福」の実現を目指す考え方と思えばよいのですが、「最大多数」が誰を指すのか、そこから漏れた人はどう扱うのか、「幸福」とは何か、「最大幸福」にあたって「幸福」は数値化できるのか、など、いろいろと実現にあたって定義すべき問題があります。
また、「最大多数の最大幸福」の考え方が広く知られるようになってから200年ほど経ちますが、この200年の間で科学(とくに生命科学で中でも脳科学、あるいは心理学)が大きく進歩した結果、倫理学や哲学(道徳哲学)においても、科学の知見を取り入れざるを得なくなってきており、功利主義は、 -
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ネタバレ人々が動物性食品を止めるべき主な理由は動物への配慮、気候変動対策、自分の健康への問題、生鮮市場における感染症の4点が挙げられる。
動物に苦しみをもたらす慣行を支持したくないからベジタリアンになるのであれば、中枢神経系がないハマグリやホタテ、良い生の鶏の卵を食べるフレキシブルなヴィーがんは問題にならない。
動物の解放運動は他の解放運動と異なり、搾取される側である動物が組織的な抗議をしないこと、抑圧する側に属する集団の構成員のほぼ全てが抑圧に直接加担している受益者であることなどから、不利である。
畜産を止めれば、浮いた飼料生産により、地球から飢餓と栄養失調はなくなる。すなわち、動物の解放は人間の解 -
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読みやすくて、倫理学の知識を体系的に学ぶ事が出来た。引用してくる倫理学者の古典文章を、わかりやすい所を分かりやすく引っ張ってきてくれてるのが助かります。今まで麻薬で出す快楽と、知的活動で得られる快楽の違いをずっと考えていたけど、本文の「それが客観的な快楽かどうか」という文書で何となく腑に落ちた。
相対主義批判の矛盾 根本的ルールは同じ
自然は正しいの?
ジレンマに対して備えておく より洗練された倫理
共感 反感の原理 自分の好きなことだけ
ベンサム 道徳と"立法"の諸原理序説
帰結主義 行為の帰結を評価 幸福主義 幸福だけが内在的価値を持つ
ゴドウィン 政治的正義 婚 -
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世間の功利主義者への風当たりは強い。「最大多数の最大幸福」をスローガンに掲げる功利主義者は、みんな(つまり多数派)の幸福を大事にするから少数派を置き去りにするし、権威主義的で非道徳的だと。いやいや、まあ急進的な原理主義的功利主義者はそうかもしれないけれど、功利主義ってそんな悪魔の経典みたいなんじゃなくてね、という話。直感的には、目の前の困っている人を助けてあげたいけれど、国を統治する人がそれをしていたらキリがないですね。むしろ、統治者の目に見えていない人たちが犠牲になっている。そのための指針として「最大多数の最大幸福」という基準で測ってみるのはどうですか?ほとんど無視されていた労働者、奴隷、女
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倫理とは何か、について、功利主義という主義に入門してざっと全体を眺めてみようじゃないか、という本。
最近、自動運転で流行りのトロリー問題から始まり、豊富な例題と読みやすい文体で一気に読んでしまった。
功利主義とは、簡単に言ってしまえば快楽の総和を最大化することが目的であり、純粋に言えばトロリー問題で言えば迷わず5人の命を救うのだろうけど、実際に功利主義の原理主義みたいな、最大幸福の実現のために少数を犠牲にするような考え方は古く、その起りもむしろ少数のないがしろにされている人間も平等に扱うべきだというところがあることが理解できた。また、それに対する批判もあった上で、どう変遷していったかがわか -
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ネタバレ思想が誤解されがちな功利主義を改めて入門する本であると同時に倫理学の入門書として本書は位置付けられています。結婚制度に絶対反対の立場であったゴドウィンがウォルストンクラフトと結婚することで転向し、結婚制度に積極的な態度をとるようになったエピソードはとても面白かったです笑
2人から生まれた子供がフランケンシュタインの著者で有名なメアリー・シェリーで近代フェミニズムの先駆けとなった母親の意志を受け継ぎ(当初母国の英国では全く受け入れられなかったけれど)、フランケンシュタインの中で家庭の天使とされた女性を批判し、フェミニズムを見事に描き出しています。
本書中では、倫理学の分野ではもはや忘れ去られ -
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功利主義の概要とそれにまつわる諸問題を、わかりやすくていねいに解説している入門書です。
著者はすでに『功利と直観―英米倫理思想史入門』(2010年、勁草書房)を刊行しており、そちらではかなりていねいに功利主義と直観主義の対立を軸に倫理学の思想史を紹介していますが、これに対して本書では「体系性はあまり重視せず、むしろ倫理学に対する読者の関心を高めることに意を注いだ」と「あとがき」に書かれているように、より親しみやすい内容の入門書となっています。
倫理学は、いったいどのような立場から、どのような方法にもとづいて、倫理についての考察をおこなっているのかという基本的なところから説きはじめています。