スコット・パタースンのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
タイトルからは、コロナ禍での金融マーケットの混乱から大きな利益をもたらしたファンドについてのドキュメンタリー、ちょうど「マネー・ショート」のような、をイメージしていたのだが、いい意味でこの予想は裏切られた。
本作は金融マーケットだけではなく、世の中の様々なところに存在している「発生タイミングが予測不可能だが、一度発生すると破壊的な影響をもたらす」ことに焦点を当てたノンフィクションだ。この考え方は、今ではブラックスワンと呼ばれるのが一般的だが、クラッシュスワンの考え方を提唱したニコラス・タレブの本作で取り上げる主要な人物の一人である。
こういったブラックスワンは、金融マーケットにおいて有名になった考え方だが、本書によれば、ブラックスワンが発生するのは、金融マーケットだけではなく、地球温暖化やコロナのようなパンデミック、あるいは遺伝子組み換え作物などにも考え方が当てはまると言う。
一度発生すると、破壊的な影響をもたらすようなこのような事態に対して、本書が予防原則と言う考え方を提示して、危機に備える人たちを取り上げる。
といっても、本書は非常にバランスが取れており、例えば地球温暖化のような極めて政治的に取り扱いが難しいテーマであったとしても、スタンスを取るような事はしない。本書が伝えたいこと。、そしておそらく著者のスコット・パタースンが伝えたい事は、そういったブラックスワンが発生する可能性があるのであれば、予防原則と言う考え方を取り得ることが有効な対策方法の1つであると言うことだ。
本書が、いかにもアメリカ的だと思うのは、この社会的な分析に対して、金融商品を開発し、そして大儲けをする人間が主役の1人になってると言うことだ。法律的にリスクとリターンをバランスを取る金融取引においては、破壊的なリスクが存在するのであれば、破壊的なリターンにより相殺することができると言うのが、本書の強いメッセージの1つだと思う。
とは言え、この2025年の夏のように信じられない暑さが続く現実を見ると、本書が言うような予防原則の考え方が、適応できる時期は既に終わってしまったのではないかと言う不安を持たざるを得ない。 -
Posted by ブクログ
CHAOS KINGS: How Wall Streat Traders Make Billions in the New Age of Crisis
ナシーム・タレブ、マーク・スピッツナーゲルの「ユニバーサ・インベストメンツ」がブラック・スワン・プロテクション・として、アウト・オブ・ザ・マネーのプットを買い続ける戦略の話と歴史がメインで、それはそれで面白いが、終盤の金融以外の話のほうが有意義な話。
GMOや気候変動、ジオエンジニアリングなどについて「予防原則」はその通りと思う。
予防原則(Precautionary Principle):もしある行動や政策が公共領域に重大な害をもたらすリスクが疑われる場合、科学的に安全性がほぼ確実視できなければ、その行動は実行すべきではない。
【目次】
プロローグ:地獄がやってくる
【第1部:スワンとドラゴン】
第1章:瞬時の崩壊
第2章:破産問題
第3章:さらに暗い未来が待ち受けている
第4章:シズラー
第5章:ナシーム・タレブの世界
第6章:七面鳥問題
第7章:ドラゴンハンター
第8章:その先にある狂気
第9章:真っ暗なトンネル
【第2部:ファットテールの世界】
第10章:夢と悪夢
第11章:フラッシュ・クラッシュ
第12章:無秩序のクラスター
第13章:ボルマゲドン
第14章:これが私たちの生きている世界
第15章:宝くじ
【第3部:厄介な問題】
第16章:この文明は終わった
第17章:絶滅への移行
第18章:破産は永続する
第19章:タイミングはとっくに過ぎている
第20章:ギャンブル
第21章:ティッピングポイントを越えた先に
第22章:目隠し飛行
第23章:リスクの大いなるジレンマ
第24章:破滅の入り口 -
Posted by ブクログ
タレブが自著でも紹介していなかった彼の生い立ちやキャリア、ヘッジファンド引退後の活動など、いろいろ知ることができて満足。
タレブファンにおすすめ。
地球規模のリスクに関する動向を論ずる最後の方は正直ついていけなかった。
この本と直接関係ないが、「卵は一つのカゴに盛るな」といった
資産運用のプラクティスはこの本で述べられているような年金基金といった大規模な資産運用を生業とする状況で成り立つ原理原則であって多少の金の増減が生死に関わらない弱小個人投資家が見習っていても絶対大成することはないんだなと再認識。
———————————————————————————
タレブの戦略を実現したヘッジファンド
→ダウンサイドプロテクションとして、プットオプションを購入
平時の少額の損失は受け入れ
タレブの愛読書
ベルリン日記
1960年、レバノンのアミオウン市
タレブの生い立ち
ポパーの反証可能性
正しさではなく間違いや証明することで進歩する
ブラックスワンという言葉ももとはポパーの著書から
"過去10年で巨富が築かれたのはほんの数日、破産もわずか数日"
アダムスミス→ダニエルカーネマン
エコノミックアニマル→バイアスというパラダイムシフト
アンカリング
映画の残余財産配分
ドラゴンキング
暴落予兆の予想
"雷を伴う暴風雨の中で傘を持っている会社はユニバーサだけだった。この暴風雨が、実質的に傘の値段を決めていた。"
破産問題
→いずれは破綻するものにポジションを取ってはいけない。オプションの売り
シンプリファイUSエクイティPLUSダウンサイドコンベクシティ
Simplify US Equity PLUS Downside Convexity ETF
SPD
→個人投資家にとってのミニ・ユニバーサ -
Posted by ブクログ
小さな事象が大きなカオスを巻き起こす、「予測できない極端な現象」=ブラック・スワンにまつわる物語。
『ブラック・スワン』の著者ナシーム・タレブ氏と本作の実質的主役であるマーク・スピッツナーゲル氏のテールエッジ・ファンド「ユニバ―サ」が話題の中心だが、環境問題やパンデミックなど破産問題全般を取り上げているので、題名の「ウォール街の覇者」を念頭において読み進めるとやや面食らう。一方で、ソネット氏やリード氏、リッカーマン氏など多種多様な面々との闘争や共創が刺激的。
ファットテールをロジックにして実装し、S&Pを97%とヘッジを3%とし、来るべき日に向けてプット・オプションを購入し続けるという戦略は非常に参考になる(調べたところ日本の個人投資家だと購入ができない模様)。予防原則を提唱し、「早い段階でパニックを起こせ」の実践的な話は、VUCA時代のいまにフィットしていて興味深い。 -
Posted by ブクログ
ネタバレタレブらのファンドはFar out of the moneyのプットオプションをひたすら買い続けてブラックスワンが来るのを待つ、というだけ。
市場は正規分布よりもファットテールになっているので理論的にはこの戦略は正しいのだろうけど、買っても買ってもExpireし続けるのは精神的にキツイ。実際、タレブ自身もこれに耐えられずに文化人への道を選んだようだし。
本書はタレブの著作の実践編という感じで面白かった。
アメリカには文化人のサークルのようなものがあり、大富豪たちがノーベル賞級の科学者を呼んで話を聞くような場も多いそうで、こういうのはいいなぁと思う。
指数関数的な爆発をし、人類滅亡の可能性があるものはいわゆる「破産問題」として扱うべきで、気候問題なども間違っているかもしれないが、ブラックスワンとして発現したときのリスクを考えると丁寧に対処すべきだとのこと。なるほど。
・不安定さを増す世界は、人類がテクノロジーと数量モデルと至るところにあるジャスト・イン・タイム方式の最適化によって世界をコントロールしようとした逆説的な結果である、とタレブは主張してきた。そのせいで社会はますます複雑化し、人為的になり、衝撃の影響を受けやすい脆弱なものになった。「現代では、複雑性、部品同士の相互依存性、グローバル化、そして人々に綱渡りを強いる、くだらない『効率性』のせいで、必然的にブラック・スワンの影響は増していっている」
・「今パニックを起こせ──早い段階でパニックを起こせ」、これはタレブと小論の共著者たちが新型コロナ危機の間ずっと使い続け、カオスの帝王の戦略を代表する言葉になった。 -
Posted by ブクログ
「運とリスク」選択の日々
投資に人生を賭けた若者(ユニバーサ創設者:マーク・スピッナーゲルとナシーム・ニコラス・タレブ)の生き方、それは「ギャンブル」だ。投資は時に莫大な収益をもたらす一方、大暴落し破産、地獄を見ることもある。その予兆を如何に誰よりも早く知り先手を打つことが出来るか。必ずやその「賭け」には失敗への保険をかけておくこと、と言う教訓もある。世界情勢の多くの情報は一部の人・メディアからでありコンピューター、生成AIでの分析、予測は過去のデーターが源になっているだけなのだ。人の発信ほど不明確で不信なものはない。その一つ一つの情報に安心して眠る間もなく焦り、迷い、苦悩する日々が投資家の人生なのだ。人は一度大儲けすると欲が出てしまう「まだ、また儲かるはず」、それが失敗への奈落の道となり、大損失、または破産寸前で漸くその坩堝から脱出できる、と思うくらい現代人はのめり込む。現代人は肉体労働より頭脳労働を選ぶ、運で『楽して徳を得る』思考に進んでいるのが恐ろしい。 -
Posted by ブクログ
アメリカ証券市場のIT化の裏で起きていたアルゴリズム戦争、と言っても「電子せどり」的なかすめ取り系の取引だった訳ですが、そんな取引形態が誕生し、市場を席巻し、証券取引所のありようまで変えていってしまう、その経緯や背景を描いた本。
金儲けをたくらむ悪い金融屋さんが仕掛けたのかと思いきや、従来のトレーダーがズルして儲けていることに憤りを感じたプログラマーがIT化を仕掛け、取引手数料を安くして、流動性を高めて…という中でこんな流れになってしまった、というのが何とも皮肉です。
「電子せどり」的な取引は、いいとこ数分でポジションを手放して、その日毎に手仕舞いをするのですが、本の終盤にはそこから一歩進んでファンダメンタルズを踏まえたアルゴリズム取引の姿が示されたり、市場の是正に向けた動きがあったり、というのが希望として示されています。
「フラッシュ・ボーイズ」を読んだ後だったので、まだしもとっつき易く感じたのですが、素で読むにはちょっと辛いかも。少し難しく、読みやすくもなく、また誤植が結構あって、特に第4部はそれが目に付きました。残念。
末尾に解説を書かれている東証の方が「うちはアメリカとは違うんです!」とおっしゃっておられました。