『フィクションを書くには、心理的にある一線を飛び越えなきゃいけないんだ。世の中には「嘘をついてはいけない」という倫理があるけど、フィクションってそもそも嘘だからね。(中略)言ってみれば万引きと同じ……というと語弊があるけど(笑)。最初は勇気が要る。でも、だんだん上手になるにつれて、大きなものが盗める
...続きを読むようになる。その一線は越えなきゃいけない。中途半端に事実に近いところだけ書いていても、結局半端なものにしかならない。』
これは小説を書こうか悩んでいるという春菜にした夏樹のアドバイス。だから、僕は池澤夏樹の本が好きなんだと思う。
じめじめとして、他人と自分に、つまり、人間に興味津々な日本の作風からちょっとだけ離れて、ちょっと離れたところから俯瞰するような作風がやっぱりこの今の日本の感じに合う。
この本は池澤夏樹とその娘の池澤春菜の本に関する対談本で、彼の血族、福永武彦→池澤夏樹→池澤春菜の、その特異な文学者の血脈の物語でもあるようにも見えた。彼らは血について、そんなに影響はない、って言っているんだけど、やっぱり何処かにあるように自分からは見えてしまう。
元々、アフター6ジャンクションでの池澤夏樹と池澤春菜の対談が面白かったので、これも読んでみようと手にとってみた。本について語り合ったりする様子は、どことなくパパに懐いている感じで、その懐き方は、娘でありながらも友人で、そして、それ以上の親友のような親密さもあって、それでライバルのような感じがあって、羨ましい。とても幸福な親子関係だと思う。
でも、その代わりと言ってはなんだが、池澤春菜の母親については、あまり語られていなかったように見えたけれども、それは何か意図がありそうな感じもある。まだ、何か池澤家に隠された何かが……