糖尿病とアルツハイマー病は、膵臓や神経細胞の中の病変に共通点があり、どちらもインスリンの作用が低下したことが原因という。したがって、アルツハイマー病の予防と治療は、運動療法と食事療法が有効であるとの驚きの内容だった。
糖尿病は、インスリンの量が不足したり、作用が低下したインスリン抵抗性になることに
...続きを読むよって、ブドウ糖の代謝異常を起こして血糖値が上昇することで起こる。インスリンは、膵臓にあるランゲルハンス島の中のβ細胞から出される。過食や運動不足によってブドウ糖の余剰状態が続くと膵臓がインスリンを多く出すが、限界に達すると血糖値とインスリン濃度が高い状態の糖尿病予備軍となり、高インスリン血症の状態になって血糖値がさらに上がると糖尿病になる。加齢とともに膵臓のβ細胞は減少し、糖尿病になりやすくなる。インスリンは、血液中のブドウ糖をエネルギーとして利用したり蓄える働きのほか、細胞増殖因子や記憶物質として働く。高インスリンの状態は細胞増殖を促すため、がんになりやすい。糖尿病はアルツハイマー病の発症リスクを2倍にする。糖尿病の人はあらゆる生活習慣病にかかるリスクが高く、生活習慣病の王様。日本人はβ細胞が少なく、インスリン分泌能が低いため、肥満を伴わない糖尿病になりやすい。
アルツハイマー病は、神経細胞の内部に過剰にリン酸化されたタウタンパクが折り畳み構造をつくって凝集し、神経原線維変化を起こしてアミロイドβタンパクが蓄積した結果、毒性を発揮して細胞から細胞へ伝えられ、神経細胞が死んでいくもの。アミロイドβタンパクの蓄積は、脳内のミクログリア細胞を刺激してサイトカインなどの炎症性物質の分泌を高め、インスリン情報伝達を悪化させる。リン酸化は、細胞で情報を伝える機能を持つ。アミロイドβタンパクは、正常な脳ではインスリン分解酵素によって分解されるが、インスリン濃度が高くなってアミロイドβタンパクの分解ができなくなり、溜まる量が分解される量を上回るとアルツハイマー病になる。アミロイドβタンパクの蓄積は、家族や本人が物忘れが出てきたと思うよりも15〜20年前から始まっている。
インスリン受容体は海馬や視床下部を中心として脳に広く分布しており、脳内でもインスリンが合成され、記憶物質として働いている。脳の海馬でもインスリンが作られており、糖尿病患者の膵臓のランゲルハンス島にはアミロイドβタンパクが溜まっており、海馬と膵臓のβ細胞は似たものどうし。糖尿病とアルツハイマー病は根本的原因が同じで、インスリンがカギを握っている。糖尿病の人は、アルツハイマー病に罹るリスクが2.5〜3倍高い。
インスリンは、ブドウ糖が細胞膜を通過させるためのブドウ糖トランスポーターを助ける機能を持つ。したがって、インスリンが海馬に働くと記憶力を高める。血中のインスリン濃度が異常に高くなり、インスリンが作用しにくい状態であるインスリン抵抗性になると、インスリンは血液脳関門を通過して脳に入り込むことが難しくなる。アルツハイマー病の脳では、細胞表面にあるインスリン受容体基質(IRS)を構成するセリンがリン酸に結合してしまい、インスリンによる脳内の情報伝達が阻害されている。神経伝達物質のアセチルコリンはブドウ糖からつくられるが、脳内のインスリン情報伝達に支障が起こると、糖代謝異常を起こしてアセチルコリンがつくられにくくなる。
両親のどちらかがアルツハイマー病の場合は、発症するリスクが10〜30%高い。その親が早期発症の場合は、さらに高くなる。女性は閉経によってエストロゲンを急激に失うため、男性に比べて発症率が2.5倍高い。大豆に含まれるイソフラボンは、エストロゲン様作用がある。
長期記憶には、他者に伝達可能な陳述的記憶と、体で覚えている手続き的記憶がある。陳述的記憶にはエピソード記憶と意味記憶に分けられる。エピソード記憶は、いつ、どこで、何をしたかの類で、加齢とともに少しずつ低下していく。過去の記憶を呼び起こすことによって、未来の予定を立てることができるため、アルツハイマー病になると予定が立てられなくなる。意味記憶は、知識や学習経験に基づく記憶で、結晶性記憶とも呼ばれる。加齢によっても低下しにくく、上昇することもある。
アルツハイマー病の予防と治療は、糖尿病の予防と治療法と同じと考えてよく、運動療法と食事療法が最も有効。糖尿病の自己管理のための7つ道具をそろえる。
・糖尿病検討手帳
・食品交換表
・歩数計
・体重体組成計(肥満度、基礎代謝、骨格筋率、体脂肪率が測定可能なもの)
・上腕型血圧計
・食品用の秤
・自己血糖測定器
朝食はしっかり食べ、卵、チーズ、魚肉などのタンパク質を摂る。血糖値が上がりにくいGI指標が低めの食物を摂る。食後の血糖値が急激に高くなるグルコース・スパイクは、アルツハイマー病だけでなく、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞のリスクが高くなる。食後に眠気をもよおすのは、グルコース・スパイクの症候。間食は控え、摂る場合は果実、牛乳、チーズ、ナッツにする。運動は、早歩き、ラジオ体操、サイクリング、ダンス、水中歩行などの有酸素運動がよい。30分から1時間程度の歩行。1週間に最低2時間、4時間程度が効果的。短距離走などの無酸素運動は適当ではない。アルコールは許容範囲でも毎日飲めば、アルツハイマー病に罹るリスクが4倍になる。インプットするだけの脳トレでは脳は活性化しない。書く、話すなどのアウトプットが必要。
副腎皮質ステロイドホルモン剤は、軟膏として皮膚に塗布した場合でも速やかに全身に吸収され、脳に入ると海馬の神経細胞を傷害する。
喫煙と放射線には許容量はなく、暴露しただけの影響がある。旅客機で東京〜ニューヨーク間を一往復した時の自然被爆量は、胸部エックス線撮影20枚に相当する。機内乗務員は乳がんになりやすいことが実証されている。