大連小景集は大学の頃に読んだ。函入りの美しい装丁の本だった。
この文庫は「朝の悲しみ」「アカシアの大連」の二つの小説と大連小景集の4つの連作がまとまられている。
「朝の悲しみ」妻と死別した後の生活が実感のある文章で綴られる。毎朝、思い出せない悲しみの夢で目覚める。休学中の大学生であった主人公が終戦前
...続きを読むに里帰りした大連で、妻となる女性と出会ったことも語られる。
「アカシアの大連」憂鬱を抱えた青年が、家族と大連に取り残され、同じ境遇の女性を知り、転機を覚える。若い頃の心情を映し出す、生硬な文章。
「朝の悲しみ」を読んでいるとき、六文銭で小室等さんが歌っていた「思い出してはいけない」がずっと頭の中で鳴っていた。勿論、詩の作者は筆者。抽象的で生々しい詩だった。読書中は愛の始まりと別れの二つのテーマの重なりに浸っているようだった。
大連小景集は、ロシア人によってパリを模して作られ、日本人へ主人を変え、そして中国人の手に戻った美しい都市が、初老を迎えた旅行者としての著書の目から、時として過去の記憶に戻りながら語られる。この部分は再読であるが、美しい紀行文。失われた故郷を語ることは哀しいことではあるけれど。
大連に関連した作品であるのは確かだし、良く判るところもあるのだが、書かれた時期がかなり違い、著者の過去への距離のとり方が違うので、一冊に纏まるのが良いのかチョッと判らない。ボーナストラックの所為で、統一感が無くなったCDのようと云ったら、云い過ぎだろうか。
このあとは、清岡さんの詩作も探して読んでみようと思う。