クリフォード・D・シマックが贈るヒューゴー賞受賞の本書は、やさしさに溢れた作品です。
アメリカ中西部、ウィスコンシン州の片田舎。農家住まいの元北軍兵士イーノック・ウォレスは齢124にして、外見は30歳にも届かぬ不思議な男。じつは、彼の一軒家は銀河の星々を繋ぐ中継ステーションで、彼はその管理人なのだ
...続きを読む。地球でただひとり異星人と接する男。その存在を怪しむCIAが調査を開始し…
解説でも触れられていますが、銀河を結ぶ中継ステーションが舞台にも関わらず、物語のおおくは、ウィスコンシンの片田舎が誇る緑豊かな自然の描写にあてられます。これは著者自身がウィスコンシン州出身であるように、彼の生まれや育ちが影響しているようです。そんな物語は終盤、銀河本部か地球のどちらに所属するかに迫られたイーノックが、無意識のうちに地球を選択する考えに行き着いたのは、風光明媚なこの大地に魅せられていることも一因といえるでしょう。
自然は決してやさしいものではありませんが、それらを愛しむ人のこころはやさしさで溢れるようで、これは書き手のシマック自身に言えることかと。だからこそ、イーノックに聾唖のルーシー、異星人のユリシーズにヘイザーなど、基本的に本書の登場人物はやさしきこころを持つものばかりなのです。勿論そうでない人物も登場しますが、それらは恐怖心のつよい臆病者として描かれています。恐怖心とはやさしさを覆い隠すもの。シマックは、こんな風にやさしさに対する存在を表したかったのかもしれません。
さて、本書では《タリスマン》とやさしきルーシーの感応によって、地球には平和が、銀河には団結が訪れます。終盤の予定調和的な展開にはすこし疑問が残るものの、この結末には、なんだか著者の思いが感じられるところ。いつ再び大きな戦争が起きないとも限らない世の中、自然への敬意、愛情をもった著者が、やさしさ(ここでは「思いやり」といった方がよいでしょうか)がついに人々の恐怖を掻き消す様を願ったように思えるのです。
(個人的には、それが人の手では作られない《タリスマン》のお陰となるのがう~んって感じです…)
いずれにせよ、本書は、片山若子氏の暖かみのある素敵な装丁も相まって、こころ穏やかになる作品でした。