銀河の星々を結ぶ中継ステーションと聞いてイメージするのは、羽田のようなハブ空港。
行きかう人々。
雑踏の中で次々に起きるアクシデント。
などを想像してはいけない。
アメリカの片田舎のそのまた人里離れた一軒の古ぼけた一軒家。
そこに何日かに一回の割で訪れる宇宙人たち。
人型の異星人もいるが、植物型、
...続きを読む液体型・・・さまざまな異星人たちと、イーノックはとれる範囲で最善のコミュニケーション、つまりおもてなしをする。
そんな牧歌的な日々。
近所づきあいはしない。
新聞や雑誌を届けてくれる郵便配達人だけが、唯一の友人と言える。
ライフル銃を小脇に抱えて日に一時間程度の散歩と、自家用のささやかな畑仕事。
ごくごく狭い世界で日を送るイーノックは、地球で唯一、異星人が日常的に地球を訪れていることを知る存在。
圧倒的に高次な文明や科学に触れながら、それでもイーノックは地球と縁を切ることはできない。
それはイーノックが地球人だから。
100年以上も年を取ることなく住んでいる人間がいるらしい。
そんな噂を聞きつけ、2年の調査を行ったCIA。
思わぬところから地球外生命の存在に気づく。
イーノックの家から少し離れたところに暮らすフィッシャー家。
当らず触らずの関係を長年続けていたが、生まれつき耳が聴こえず話すこともできない娘、ルーシーに対する家族の暴力を見て、ついルーシーを匿ってしまったことからイーノックへ悪意を募らせることになる。
銀河の星々の平和と繁栄のために必要な「タリスマン」と、その媒介者がここ数百年現れず、銀河本部も危機を迎えていた。
100年以上変わらぬ日々を送ってきたイーノックの周辺が一転、俄かに慌ただしくなる。
誰にも秘密を打ち明けることができず、大いなる孤独のなかに100年を過ごすことは、どれだけ淋しいことだろうか。
想像の中に造り出した友人を、異星人の進んだ科学が実体化させる。
しかしそれすらも、最終的にはイーノックの孤独を深めることになる。
けれどイーノックの心はいつも静謐だ。
1960年代に書かれたSFは、今の作品に慣れた目で見るとのどかである。
そして冷戦状態に対する絶望と、ひとりひとりの個人としての人間に対する信頼が、シマックらしい。
解説が、SF作家・評論家の肩書の付いた森下一仁、森下一仁、森下一仁なんです!(超大事なので三回書きました)
言われてみればこの作品、解説が森下一仁ってぴったりだ。
選んだ人、センスあるなあ。