今、世の中には無責任なエネルギー未来図を説く本がいっぱい出回っているが、この本はしっかりした知識と洞察に支えられていて、とてもいい本だと思う。
それでも、著者の提唱するエネルギーネットワークのスマート化というのは、経済、ITのバックグラウンドの人が信じるほど容易いものではないし、エネルギー問題を解決
...続きを読むする切り札にはなりえないと考える。
今後、再生可能エネルギーを今よりも増やすことは、著者の言うとおり「非常時・災害時のロバスト性、利便性確保」の点ではうなずけるのだが、結局のところ自然エネルギーは、本来、木々や海や鳥や動物が享受していた太陽エネルギーを「収奪」するものであることは忘れてはならない。屋根に乗せる太陽光パネル程度なら良いが、それだけでエネルギー供給を大きく支えるものとはならない。
また蓄電池は交直変換で結構大きなロスを伴う。継続的にネットワークに接続して用いることがそれほど合理性があるとは思えない。
そこでよく言われるのが、ネットワークを直流にせよ、というものであるが、これは効率的な電圧変換の困難さ、大電流での安全性、そして何よりも多数の電源が接続したネットワークを安定に運転することについて、技術的な課題が大きいため、見込みはないと思う。
かといって、連系先は交流ネットワークを基調にしたとしても、電源がパワーコンディショナーだけで構成される大規模な電力系統は、不安定な振動モードを除去するのに手こずるだろう。確実に安定的に運転される見込みはないといってよいのではないか。
分散型電源は、コンセプトでいえば、とてもよいものに見えるのだが、実際にはすべてをネットワーキングして、はじめてその効用が現れる。しかし、そのネットワーキングの技術的ハードルは、おそらくかなり高いものだということだ。