吉村均のレビュー一覧
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本書は、日本人の伝統文化の本質を民俗学、宗教学、倫理学の視点から探り直した力作です。著者は、近代化の過程で見失われがちだった日本人の心のあり方や価値観に焦点を当て、その源流と変容を精力的に掘り起こしています。
まず、柳田国男や折口信夫らの民俗学者の業績を手がかりに、神祭りや年中行事に息づく古代日本人の自然観、死生観を浮き彫りにしています。次に仏教の受容と展開を追うことで、神仏習合によって育まれた中世文化の独自性を析出しています。
さらに、近世から近代への移行期に注目し、西欧の知の流入による伝統的価値観のゆがみや、明治期以降の国家主導による伝統文化の再構築過程を批判的に検証しています。
本書の特徴は、学問領域を越えた総合的なアプローチにあります。民俗学、宗教学、倫理学の成果を有機的に結び付けることで、日本文化の深層に息づく精神性の核心に迫ろうとしているのです。
一方で、そうした精神性の継承と創造的発展の重要性も力強く提起されています。伝統文化を単なる過去の遺物と見なすのではなく、現代に生かすべき生きた智恵として位置づけている点が高く評価できます。 -
Posted by ブクログ
「宗教は、一つの正しい答えを信じるもの」。もしそんなイメージを持っているなら、この本は少し世界の見え方を変えてくれるかもしれません。
弘法大師生誕1250年記念の特別展「空海と真言の名宝」を見る前に読んだ一冊です。昔、司馬遼太郎の『空海の風景』を読んで、天才的で人間臭い空海に惹かれた記憶がありますが、本書では、その空海が仏教をどう理解し、体系化したのかが見えてきます。
特に面白かったのが、仏教は医学に似ているという説明でした。医師が患者の症状に合わせて処方を変えるように、仏教も相手の理解や苦しみに応じて異なる教えを説く。つまり、どれか一つだけが絶対に正しいというより、その人に合った教えがあるという発想です。
だからこそ仏教は複雑です。本来、僧侶はさまざまな教えを長い年月をかけて学び、それぞれがどこに位置づくのかを理解してきました。そこで空海が示したのが「十住心」です。人の心のあり方を十段階に整理することで、膨大な仏教思想の全体像を一つの見取り図として示した。その編集力に驚かされました。
さらに曼荼羅も、単なる宗教画ではなく、言葉だけでは捉えきれない密教の世界を目で理解するための仕組みだと分かると、展覧会を見る楽しみもぐっと増します。
一つの答えを押しつけるのではなく、人に応じて入口を変えながら、最後には全体を見渡そうとする。そこに、仏教のしなやかさと、空海という思想家のすごさを感じました。
空海を知る本でありながら、同時に「仏教とは何か」を俯瞰できる。展覧会の予習にも、仏教入門にも、とても良い一冊です。 -
Posted by ブクログ
空海の主著『秘蔵宝鑰』『十住心論』の内容を引きながら、「十住心」についての説明を展開していきます。
空海という人物の名前は知っていても、実際に空海の仏教がどのようなもので、真言宗がどういう教えを説いているかについては、何も知りませんでした。
本書の「はじめに」で、"空海の十住心を学ぶことは、空海の教えを知るだけでなく、現在、西洋社会で関心を持たれている、心のあり方に苦しみの原因を見、心を変えていくことによって苦しみをなくしていくという仏教の発想法と、そのなかで様々な教えがどのような位置を占め、どのように役割を果たしているのかを学ぶことにもつながります"と書かれてあります。
なので、知らない言葉・概念が多く読み進めるのは大変でしたが、じっくりと読んでいけば仏教(十住心)を基に現実での心の持ちようについても参考になる考えを学ぶことができると思います。
カントの純粋理性批判、ハイデガーの存在と時間、ヘーゲルの弁証法や止揚といった考えとも親和する考えがあるように思います。