田中康弘のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレマタギを取材するフリーランスカメラマンが採録した山の怪異。
最近流行りの所謂実話怪談などのように派手な話はほとんどなく、人魂の話、野焼きされる遺体の話、山に呼ばれて行方不明になった話などが飾らない筆致で語られる。怪談というよりは民俗学でいうところの世間話の方が近く、取材先が実名で登場するなど資料として貴重である。読者を怖がらせてやろうというケレン味がないだけにリアリティも高い。
山で見た人魂を、あれはきっと蛍の塊なんだよと説明する話者を前に筆者は考える。山が生活の場になっている人間にとってそこは日常である。そこで起きたことは説明がつくことでなければ生活の足元が崩れてしまうと。
本文中にもそうやって自らが体験した怪異を日常に落とし込もうとする話者はたくさん見られた。
日本人の境界意識の中で山は異界であり、人里とは決定的に異なる。そこに隣接して暮らす人の思いと覚悟に平地人である自分はただ戦慄するしかない。 -
Posted by ブクログ
山の話は面白い。古来から、山は日本人の日常でありながら、その厳しさゆえに人を非日常へと簡単に誘うものであった。本書で紹介されるのは、山にまつわる民話の原石となる「怪しい」話である。
山が開かれ、娯楽が充実した現代では、代々口伝で伝わってきた山の話は絶滅寸前だ。民話にならなかった話の数々をテキストに起こした筆者の功績は非常に大きいだろう。
山でよくある話は「狐に化かされる」というものだ。山に慣れた人が集落の近くの何でもないような道で左右を間違え、遭難する。そういった時に、人は「狐に化かされた」と言う。
もちろん、実際にそんなことはないだろう。低山での遭難記録をいくつか読めば、遭難は何でもないようなところで道を一つ間違えるだけで起こることがよく分かる。山は一つ道を間違えるだけで全く違うところに出てしまう世界なのだ。
航空の世界では空間識失調(ヴァーティゴ)というものがある。雲の中などに長くいることや疲れが原因となり、航空機のパイロットが平衡感覚が喪失するものである。しばしば航空機事故の原因ともなる。ヴァーティゴは、パイロットの経験の長さに関係なく起こる。人間の性質上、仕方のないことなのだ。慣れた山道での遭難メカニズムというのは、おおむねヴァーティゴに近いものだろう。
ヴァーティゴでは計器を信じることで墜落を回避できる場合があるが、コンパスや地形図のない時代の山ではそういうわけにはいかない。ゆえに、経験の長いマタギですら迷うこともある。そこで「狐に化かされた」というのは、経験の量を問わず遭難が誰にでも起こりうるゆえに、捜索の労力を当人の責に帰さないための方便である、という解釈がなされる。生活の知恵である。
そんなわけで、大抵の「怪しい」話は論理的に説明できてしまう。しかし、それでも説明できないことが残る。だから面白いのだ。
たとえば幻覚。遭難記録を読むと、遭難者は極度のストレスからよく幻覚を見ることが知られている。私は遭難したことはなくとも、極度のストレスで幻覚を見たことがあるので「人間はけっこう簡単に幻覚を見る位に追い込まれる」という認識がある。
ところが幻覚を見たことがない人間からしたらそれは想像できない。というより、幻覚を見慣れなければ「それが幻覚である」ことには気付けない。ゆえに、山で人は様々なストレスから幻覚を見るが、それが幻覚であることに気付かない。
大抵の「見た」話は幻覚で片付けられる。だが、複数の人間が同じものを見た話はどうだろう。幻覚は似通うのか? それとも本当に何かあるのか?
「説明できるもの」を省いていった先にある「わからないもの」に惹かれるタイプのオカルト好きには是非とも勧めたい一冊である。 -
Posted by ブクログ
山の怖い話というより、タイトルの通り山の怪しいお話し。
昔聞いた民話のような、遠野物語のような、そんな不思議なお話がいくつも書かれている。語り手や場所によって差はあれど、似たような出来事も多く、1話1話も短いため、間を置いて読み返すと「もしかして前に読んだ?」「もしかしてまだ読んでいない?」が繰り返され、何度も読む内に楽しくなってくる。
また、知っている山の話があるとそれだけで楽しい。
全国というわけではなく、ある特定の地域方から聞いた話が多いが、後書きを読むと納得する。
「この本で探し求めていたのは、決して怖い話や体験の類いではない。言い伝えや昔話、そして民話でもない。はっきりとはしないが、何か妙である、または不思議であるという出来事だ」
そうしてそんな話はすぐに聞けるものではなく、著者はまず自分が語ることで呼び水として、この本に集められたような話たちを聞くことが出来たのだそうな。だからこそ特定の地域の人とかかわることでしか聞くことができない話なのだろう。
すごいなぁ。
続編が出ているようなのでまたそれも楽しみ。 -
購入済み
★★きったん★★
山にまつわる様々な怪異をまとめた本。「遠野物語」の現代版みたいな感じ。昔から語り伝えられ
てきた民話や伝説に近い話もあるが、科学技術の発達した現代でも説明がつかない話もいろいろ出
てくる。やはり山には何かがいる、というのは本当かもしれない。都市部に住んでいると、なかな
か実感がわかないが、実際には日本の国土の7割以上が山地で、殆ど人が住んでいないエリアも多
い。文明の恩恵に胡坐をかき、キツネや火の玉をバカにしていると、とんでもない災厄に見舞われ
そう。自然をおそれ、敬う気持ちを持ち続けたい。