田中康弘のレビュー一覧
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ネタバレマタギを取材するフリーランスカメラマンが採録した山の怪異。
最近流行りの所謂実話怪談などのように派手な話はほとんどなく、人魂の話、野焼きされる遺体の話、山に呼ばれて行方不明になった話などが飾らない筆致で語られる。怪談というよりは民俗学でいうところの世間話の方が近く、取材先が実名で登場するなど資料として貴重である。読者を怖がらせてやろうというケレン味がないだけにリアリティも高い。
山で見た人魂を、あれはきっと蛍の塊なんだよと説明する話者を前に筆者は考える。山が生活の場になっている人間にとってそこは日常である。そこで起きたことは説明がつくことでなければ生活の足元が崩れてしまうと。
本文中にもそうやって自らが体験した怪異を日常に落とし込もうとする話者はたくさん見られた。
日本人の境界意識の中で山は異界であり、人里とは決定的に異なる。そこに隣接して暮らす人の思いと覚悟に平地人である自分はただ戦慄するしかない。 -
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田中康弘『完全版 日本人は、どんな肉を喰ってきたのか?』ヤマケイ文庫。
日本列島を南から北に移動し、各地の狩猟現場を巡りながら、実際に狩猟で得た肉を食べながら、日本人が何を食べてきたかを明らかにするノンフィクション。
肉でも野菜でも米でも、何かを食べるということは命を頂くという行為だ。それを念頭に、それぞれの土地に根付いて来た特色のある食肉文化は将来に残すべき大切なものであろう。
元々、マタギ文化に興味を持っていたので、なかなか面白い内容だった。
沖縄県西表島島に生息するカマイと呼ばれるリュウキュウイノシシ。本州のイノシシと比べると小型のようだ。イノシシが生息する北限が秋田県の栗駒山系ならば、南限が西表島らしい。
さらには、宮崎県椎葉村のイノシシ猟、大分県のシカ肉レストラン、タヌキ、アナグマ猟、高知県安芸市のハクビシン、石川県のカモ猟、秋田県のツキノワグマ、ウサギ、最後には北海道礼文島のトド猟が紹介される。
イノシシ肉は何度か食べたことがあるが、あの脂身の美味さ、赤身の濃厚な味わいは忘れられない。シカ肉は一度だけ焼肉で食べたが、ラム肉と牛肉の中間のような淡白な感じで、美味いなと思った。ツキノワグマの肉は秋田でクマ汁を食べたことがあるが、脂がしつこく余り好みではなかった。トド肉は北海道旅行のお土産で缶詰を購入し、食べたことがあるが、クジラ肉の缶詰のようだった。カモ肉はジビエ料理で食べたことがあるが、地鶏や軍鶏などよりも味わい深く、美味いと思った。
ちなみに今、住んでいる福島県の中通りの田舎町にはイノシシが棲息しているが、福島第一原発事故の影響で放射能が高く、未だに食べることが出来ない。それでも、イノシシが畑や田んぼを荒らすため、害獣駆除が行われているが、行政が買い取る価格は僅か2万円ほどと言う。
定価1,155円
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田中康弘『山怪 参 山人が語る不思議な話』ヤマケイ文庫。
シリーズ第3弾。今回も山と山里で暮らす人びとから収集した話が多数描かれる。火の玉に狐火、幽霊、ツチノコ、座敷わらしに大蛇、人を化かす狸や狐、神隠し、祟り、虫の知らせなどなど、山と山里には不可思議が存在する。
作中にも書かれていたが、確かに田舎の家は外と変わらずオープンで家の中をオニヤンマが通り抜けたり、視線を感じてふと目をやればニホンカモシカが裏山に佇んでいたりと、家の中と山との境界線が無いように思う。
不可思議と言えば。昔、隣とはかなり離れた田舎の祖母の家を尋ねた時に納屋の2階で遊んでいたら、裏山にもんぺ姿の女性が佇んでいるのを見たことがある。一瞬のことであったが、あれは誰だったのか今でも謎である。
また、友人と2人で深山の森に入った時、何処からともなく軟式野球のボールが足元に転がって来て周りを見渡すと、いきなり周囲に漂う強い獣臭に驚き、一目散に友人と共に森から走り出たことがある。近くに熊が潜んでいて、それを知らせる何者かが居たのかも知れない。
まだまだ山には不可思議が一杯あるのだと思う。
定価880円
★★★★ -
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山の話は面白い。古来から、山は日本人の日常でありながら、その厳しさゆえに人を非日常へと簡単に誘うものであった。本書で紹介されるのは、山にまつわる民話の原石となる「怪しい」話である。
山が開かれ、娯楽が充実した現代では、代々口伝で伝わってきた山の話は絶滅寸前だ。民話にならなかった話の数々をテキストに起こした筆者の功績は非常に大きいだろう。
山でよくある話は「狐に化かされる」というものだ。山に慣れた人が集落の近くの何でもないような道で左右を間違え、遭難する。そういった時に、人は「狐に化かされた」と言う。
もちろん、実際にそんなことはないだろう。低山での遭難記録をいくつか読めば、遭難は何でもないようなところで道を一つ間違えるだけで起こることがよく分かる。山は一つ道を間違えるだけで全く違うところに出てしまう世界なのだ。
航空の世界では空間識失調(ヴァーティゴ)というものがある。雲の中などに長くいることや疲れが原因となり、航空機のパイロットが平衡感覚が喪失するものである。しばしば航空機事故の原因ともなる。ヴァーティゴは、パイロットの経験の長さに関係なく起こる。人間の性質上、仕方のないことなのだ。慣れた山道での遭難メカニズムというのは、おおむねヴァーティゴに近いものだろう。
ヴァーティゴでは計器を信じることで墜落を回避できる場合があるが、コンパスや地形図のない時代の山ではそういうわけにはいかない。ゆえに、経験の長いマタギですら迷うこともある。そこで「狐に化かされた」というのは、経験の量を問わず遭難が誰にでも起こりうるゆえに、捜索の労力を当人の責に帰さないための方便である、という解釈がなされる。生活の知恵である。
そんなわけで、大抵の「怪しい」話は論理的に説明できてしまう。しかし、それでも説明できないことが残る。だから面白いのだ。
たとえば幻覚。遭難記録を読むと、遭難者は極度のストレスからよく幻覚を見ることが知られている。私は遭難したことはなくとも、極度のストレスで幻覚を見たことがあるので「人間はけっこう簡単に幻覚を見る位に追い込まれる」という認識がある。
ところが幻覚を見たことがない人間からしたらそれは想像できない。というより、幻覚を見慣れなければ「それが幻覚である」ことには気付けない。ゆえに、山で人は様々なストレスから幻覚を見るが、それが幻覚であることに気付かない。
大抵の「見た」話は幻覚で片付けられる。だが、複数の人間が同じものを見た話はどうだろう。幻覚は似通うのか? それとも本当に何かあるのか?
「説明できるもの」を省いていった先にある「わからないもの」に惹かれるタイプのオカルト好きには是非とも勧めたい一冊である。 -
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山の怖い話というより、タイトルの通り山の怪しいお話し。
昔聞いた民話のような、遠野物語のような、そんな不思議なお話がいくつも書かれている。語り手や場所によって差はあれど、似たような出来事も多く、1話1話も短いため、間を置いて読み返すと「もしかして前に読んだ?」「もしかしてまだ読んでいない?」が繰り返され、何度も読む内に楽しくなってくる。
また、知っている山の話があるとそれだけで楽しい。
全国というわけではなく、ある特定の地域方から聞いた話が多いが、後書きを読むと納得する。
「この本で探し求めていたのは、決して怖い話や体験の類いではない。言い伝えや昔話、そして民話でもない。はっきりとはしないが、何か妙である、または不思議であるという出来事だ」
そうしてそんな話はすぐに聞けるものではなく、著者はまず自分が語ることで呼び水として、この本に集められたような話たちを聞くことが出来たのだそうな。だからこそ特定の地域の人とかかわることでしか聞くことができない話なのだろう。
すごいなぁ。
続編が出ているようなのでまたそれも楽しみ。 -
購入済み
★★きったん★★
山にまつわる様々な怪異をまとめた本。「遠野物語」の現代版みたいな感じ。昔から語り伝えられ
てきた民話や伝説に近い話もあるが、科学技術の発達した現代でも説明がつかない話もいろいろ出
てくる。やはり山には何かがいる、というのは本当かもしれない。都市部に住んでいると、なかな
か実感がわかないが、実際には日本の国土の7割以上が山地で、殆ど人が住んでいないエリアも多
い。文明の恩恵に胡坐をかき、キツネや火の玉をバカにしていると、とんでもない災厄に見舞われ
そう。自然をおそれ、敬う気持ちを持ち続けたい。 -
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田中康弘『山怪 弐 山人が語る不思議な話』ヤマケイ文庫。
今月のヤマケイ文庫は、山の不思議を集めた作品が3冊も同時刊行と何とも贅沢。
『山怪』の第2弾。今回も数ページの山と山里の怪異掌編が多数収録されている。事件の現場となった山に見る幽霊、火の玉に狐火に、山中で聞こえる謎の声、狸や狐に化かされた人、大蛇に座敷わらしにヒバゴン。山と山里は怪異や不思議の宝庫なのだ。
似たような話が多数並ぶ。多くの怪異は田舎の噂話が人から人へと伝聞されて、地理的範囲も次第に拡がっているのではなかろうか。例えば本作に収録されている『ミミズ素麺』。岩手県南でも似たような話を聞いたことがある。ある日、山里の集落で酒を伴う寄り合いがあった。寄り合いも終わり、御開きになるが、一人の呑兵衛爺さんがなかなか家に帰って来ない。心配した家人が探しに行くと、爺さんは田んぼの中に座り込み、何やら話ながら泥団子を食べていたという。狸か狐に化かされたのだろう。おっと、この逸話は前作のレビューにも書いていた。
座敷わらしなどは、岩手県遠野市や二戸市の金田一温泉が有名だし、エクソシストや祈祷師の話なども、同じ岩手県南の一部の地域には、今でも悪魔祓いという風習が残っているし、よくぞ似たような話が全国各地にあるものだと思う。
本体価格800円
★★★★