田中康弘のレビュー一覧
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田中康弘『山怪 山人が語る不思議な話』ヤマケイ文庫。
山や里山で暮らし、山を仕事場にするマタギや猟師などの山人が語る摩訶不思議な体験を集めたノンフィクション。既に続巻が刊行されているが、本作は第1弾の文庫化である。文庫化にあたり、書き下ろしの『山怪後日談』を収録。
こうした山や里山で起きる不可思議は先人たちの戒めだったり、自然への畏怖によるものかと思われる。また、所謂田舎ではこうした不可思議が口伝により伝達されるうちにデフォルメされて、物語が形成されるのだと思う。しかし、山や里山には全く理由が解らない不可思議が存在することは事実なのである。
田舎に行くと、①近所の家でしこたま酒を飲んだおんちゃんが帰り道にタヌキに化かされて、田んぼの中で泥まんじゅうを食べていたとか、②気のふれた農家の嫁が我が子を殺害し、カレーにして近所に振舞ったとか、③長らく入院していた親戚が亡くなる間際にお知らせに来たとか、④狐の憑いたかのように、おかしな振る舞いを始めたばあ様を家族が煙で燻し、木の枝で叩いたなど、未だにそういう類いの話を耳にするのだ。
本体価格800円
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ネタバレオチのない怖い話、起承転結や因果のはっきりしない怪異譚が大好物なので、楽しくモリモリ読みました。
脳の異常とかで説明できそうな話もあって、そういうのを考えながら読むのも楽しい。
あと現地の語り部たちの雑な解釈がたまらない。「狐の仕業」で一括りにするのも良いし、考えた結果「ヤマドリに夜光虫がついたのが火の玉」となっているのも味がある。
「狐火?ああ、あれは俺なんだよ」というパワーのある発言に出会えたのも最高です。
いいわあ。
再読追記
このシリーズ、「別にオバケを信じていない人にしつこく聞いたら出てきたオチっぽいオチもない不思議な話」感があってすごくすごく大好き。
漁師とかサラリーマンとか警備員とかのバージョンもあったらなあ。
やっぱり山だから良いのかな。
再読追記
やはり良い…狐火の正体がどぶろくの密造に行く人だった話とか特に良い。こういうのが混ざることで全体のリアリティが上がる。
「狐火の噂は知っていたが密造は違法なので言い出せなかった」っていう話。デスヨネー。 -
Posted by ブクログ
ついに「山怪」シリーズも大団円、これで終わりか。
ちょっとした短編ホラーの題材にでもなりそうなシリアスな恐怖から、思わずくすりと笑みがこぼれてしまうような小ネタまで、5巻に渡り様々なヴァリエーションを楽しませていただいた。
ほんの数十年前、私の祖父母あたりの時代までは少なくとも、里山と異界は背中合わせであった。
人が生活の中で山を使わなくなった今、その境界は曖昧を極め、熊が住宅街に頻出して闊歩するようでは、"山怪"の出る幕はもはやあるわけがない。
まったく寂しいことだ。
今度、夜の山に登ってみようと思う、もちろん独りじゃなく誰かを誘って…。
それにしても、「京都府豊岡市」は酷いな、しっかりしてくれい…。
「山怪は文化と認識されず、誰かが守るような存在でもない。成り行き任せで消えていくのが山怪なのだ。」 -
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田中康弘『山怪 朱 山人が語る不思議な話』ヤマケイ文庫。
『山怪』シリーズ第4弾。今回も山で働く人びとや山で暮らす人びとから収集した様々な不可思議な体験談が紹介される。
新型コロナウイルス感染禍により取材の中断を余儀なくされたが、取材の再開により何とか第4弾が刊行されたようだ。
『山怪』シリーズは単なる山岳ホラーではなく、人間の自然との関わり方や自然への畏怖や感謝の心を呼び起こしてくれる。
近年は人間の生活圏にクマの出没が相次いでいる。自然破壊が続き、クマが暮らしていた山の環境が壊されれば自ずとそうなるのだろう。そのうち、『山怪』も人間の生活圏で起こり得るようになるのかも知れない。
キツネ憑きの話が幾つか収録されている。小学生頃、担任の先生から聞いた話がある。先生が学生時代、下宿先の娘の様子がおかしくなり、娘の両親と祖母がキツネが憑いたと騒ぎ出し、娘を煙で燻りながら木の枝で叩こうとしたのを先生が何とか制止し、娘をリヤカーに乗せ、長い長い橋を抜けて病院まで運んだことがあったと話していた。娘には何らかの精神疾患があったのだろう。
『守られる人』と似たような体験をしたことがある。入社して間もなく、同期3人で同期の1人が就職祝いに親から買ってもらったホンダのプレリュードで山の方にドライブに行った。同期は車を自慢する気持ちもあったのか、いい気になってスピードを出していたのだろう。細い登り坂のカーブに差し掛かった時、左側に停まっている車が目に入った同期はパニックブレーキを踏んだ。その瞬間、左側前輪が側溝にハマり、何とか側溝から脱出しようと右にハンドルを切ったところ車は横滑りし、右側の崖へと向かった。目前にガードレールが迫り、もう駄目だと思ったら、車はガードレールの切れ目を抜けて崖を物凄いスピードで下って行った。目前には次々と木々が迫り、ドアミラーが木にぶつかって吹っ飛ぶのがスローモーションのように見えた。そこから車が停まるまでは全てがスローモーション映像のようだった。最後は蔦の絡まった大木にぶつかり、蔦がクッションになったのか余り衝撃も無く停車し、3人とも全く怪我が無かった。あの時は何かに守られているような気がした。
今暮らしている家は県道に面しているが、ポツンと一軒家で、目の前は小高い丘の竹林でその向こうがダム湖で脇にはやはり竹林の小さな山があり、裏手は草木が生い茂る原野になっている。昼夜問わず、鳥や蛙、得体の知れない動物の鳴き声や歩く気配を感じる。ある朝、起きて新聞を取ろうと外に出たら、何故か鷹が死んでいた。また、ある朝には玄関に得体の知れない動物のやや大き目の足跡があった。形状からするとクマの可能性があるが、この辺ではクマ出没の情報は無い。
『山怪』には、巨大なヘビの話も度々登場する。太さはビール瓶と言うからにはアナコンダみたいな巨大なヘビなのだろう。先日、我が家の庭の草刈りをしていたら、庭の境界にある金網の上部にヘビの脱け殻が絡まっていた。その長さは1メートル。太さはさほどではないが、1メートルのヘビでも十分巨大だ。
定価1,100円
★★★★ -
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マタギに興味がある人には必読の書といっていいと思う。
直接阿仁マタギの末裔たちに話を聞き、直接阿仁マタギの猟に同行し、マタギとともに飲み、喰らったノンフィクションライターの記録。
いまもまだ伺うことのできる、阿仁合の西根打刃物製作所の先代、松橋旅館の先代たちと山に入った記録。
マタギたちに聞いた話、動物の生態、猟のやり方、そして山や川の恵み 正にマタギ完本といえる。
フクロナガサを格好いいからと持つだけでなく、なぜフクロナガサが今の形になっているか?などマタギから受け継がれている知恵など、民俗学の本では得られない知見を知ることができると思う。
また、秋田内陸縦貫鉄道の旅に出かけたくなってしまった。 -
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なんとなく、「日本で肉食が始まったのは明治時代になってから」といういめーじがありましたが、それが大きな誤解だったことが分かりました。
たしかに、言われてみれば旧石器時代から狩猟は行われていたわけですし、牛や馬、豚を食べていなかっただけで、いわゆる「ジビエ」と言われるような鹿肉や猪肉は食べていたわけですね。
本書では日本で様々な動物が食べられてきた歴史を振り返りながら、現代の食卓にのる肉について、「畜産肉」と「狩猟肉」に分けて紹介されています。
また、かつては商店街にあった(わたしも薄っすらと記憶にありますが)枝肉を吊るした肉屋も紹介されています。笑い話で、「スーパーに並んでいる切り身の魚しか知らない子どもが、水族館で生きている魚を見て『魚じゃない者が泳いでいる』と驚いた」というものがありますが、肉についてはよりそれが顕著な気がします。
「生きている動物」が、どのようにして「食肉」となったのか、かつての被差別部落問題と合わせて触れているところも、分かりやすい解説で印象的でした。
特定の思想宗教ではない限り、日常生活の中で何かしらの肉は日々口にしています。その肉がどのようにして食卓にやってきたのか、日本の食肉を安定的に確保するためにはどのようなことが必要なのか、考えるきっかけになりそうです。
今夏に食べた鹿肉のカタと猪肉のジャーキーなどのジビエ料理は下処理が丁寧だったこともあって臭みもなくて柔らかく、とても美味だったことを思い出しながら読みました。 -
Posted by ブクログ
山にまつわる不思議な話を、全国各地の山人から聞き書きしたシリーズ第五作。
作者の田中康弘いわく「大団円」とのこと。
時代の移り変わりを思えば、よくぞここまで取材を続けてくださったなあと感動します。
怪談や怪異もありますが、本作を読んでいて一番感じたことは「無知は最強」でしょうか。
土葬した仏様を掘り起こし荼毘に付してお骨にするのに使っていた鉄板とは露知らず、東京から来た観光客がそれでバーベキューをしていた…なんて話には仰天しました。きっとその人たちは今も知らないんでしょうし、知らないから何ともない。まさに最強です(笑)
また何かの折に復活して欲しいなと思うシリーズでした。
まずは田中先生、お疲れ様でした!