井上里のレビュー一覧

  • 消失の惑星【ほし】

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    幼い姉妹の失踪から始まる物語。だけどその事件のことはあまり語られず一章ずつ語り手を変えながらその人物の生活、不安、怒り、悲しみが描かれていく。失踪のことは語られないけれど常にその空気は感じられて読み手も不安なまま読み進めていく。その緊張感に圧倒される。何かを、誰かを失うということの痛みや悲しみが迫ってくる終盤は苦しくなるほどでなかなか冷静には読めないほどだった。久々に深く入り込んで読んだ感覚があった。

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    2021年03月02日
  • 消失の惑星【ほし】

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    幼い姉妹の失踪から始まり、まずはみっしりとした不安感に覆われる。しかし読み進むうちに、それも物語の断片であって、登場人物の誰もが、さびれた極寒の地で閉塞感や失望や喪失感を抱えて生きていることがわかってくる。群像劇から浮かび上がってくる、民族や貧困や女性の現況。

    被害者が「消費されやすいことを警戒」する筆者の姿勢は、失踪や犯罪の物語とは明らかに一線を画している。
    暗く陰鬱なトーンでありながら、遠い奥底に、人の強さも感じられる気がする。
    私は『二月』に最も掴まれた。

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    2021年02月25日
  • わたしはイザベル

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    母親に愛されず、ずっといい子を演じてきたイザベル。本を読むこと、物語を書くことが大好きなのに、ずっとその気持ちを押し殺して生きている。ある時、文学部の学生達と知り合ったことで、忘れかけていた「物語が好き」という気持ちを思い出し、いい子を演じない素の自分を思い出していく。

    子どもの頃に好きだったものを思い出すことは、本来の自分に帰ることなのだと教えてくれる物語。

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    2020年02月11日
  • わたしはイザベル

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    この物語が書かれたのは1974年らしく、40年近くの時を経て、今、この物語に出会えたことがほとんど奇跡のようで、翻訳してくださったかた、出版してくださった方々へ感謝の気持ちでいっぱいです。

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    2017年05月22日
  • わたしはイザベル

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    カエルがおなかを解剖されるみたいに
    親に虐待されて傷ついた子どもの心を
    丁寧に綿密にほぐしているような小説。

    わたしが感じてたのはこういうことだったのか!ってこの本を読んで気づく人も多いのでは。

    そうなの。
    だからあなたは間違ってなんかいないし
    誰の目も気にせず
    自由に生きられるのよ。

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    2017年03月27日
  • ジャングル・ブック

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     ジャングル・ブック、モーグリ編を集めた書籍です。最近複数の出版社からジャングルブックが出ていますが、モーグリの物語を読むのであれば、実質的後日談の番外編である「ラクの物語」が入ったこの文春文庫版が良いのではないかと思います。

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    2016年08月02日
  • 密やかな炎

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    移民二世の中国系アメリカ人の作品
    人種問題を少し絡んでいて
    多様な価値観で生きる家族の様が
    描かれて興味深い
    芸術家で定住せずに生活する母と娘
    母親は過去に娘の妊娠に関して
    秘密を抱えていた
    新しい土地で四人の子を持つ大家の家族と交流し事件が起こる

    母親ミアの生きる力
    状況に対応する能力の高さを感じる
    安定した生活とはなんだろう
    大家の娘が15で一人でニューヨークを
    目指すところから
    このストーリーが続いていくことを
    想像出来る

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    2025年12月21日
  • 密やかな炎

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    読み進めていくうちに、ミアはジョディ・フォスターのイメージが合うと思った。既にドラマ化されている様だけど、見て見ようかどうか悩む。ドラマ化や映画化って全然別物になってしまう事が多いから。
    英語版も入手したので、時間を見つけて読みたい。

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    2025年10月30日
  • 密やかな炎

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    シェイカー・ハイツという計画的に造られた町に住み規則を重んじる人や、型を破りながら人生を歩んでいく人達が交錯する物語。じっくりと読んでいるうちにいつの間にか物語に引き込まれていた。両親の理解を得られぬまま芸術の道を選択し放浪するミア、恵まれた家庭に生まれながらも規則に縛られることを嫌い両親に理解されないイジーら、自身の中に燃える火を信じて生きていくことは大事。一方で、ミアの両親らがその生き方を理解しないことを責めるような表現は少なかった。育ち方や環境、時代が違えば、許容できる範囲も変わり、考え方が異なることは無理もないという表現だった。ある小さな町の物語に没入したような満足感のある本だった。

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    2025年10月03日
  • 消失の惑星【ほし】

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    すごく息苦しい内容だった。
    ロシア東部のカムチャツカ半島という遠い国が舞台でありながら、多くの共感できる部分がありました。
    幼い姉妹が行方不明になったことを発端に、半島中の女性たちの影の部分が明らかになっていく。先住民族や同性愛への差別、ウクライナへの侵攻が始まっている時期。
    カムチャツカの女性でなくても、誰でもそのような境遇になる可能性を感じられて苦しくて怖かった。

    クライマックスに向けてページを早く捲りたい気持ちがとてもはやりました。

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    2025年10月01日
  • 密やかな炎

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    米国の住宅街での火事で幕が開く。
    弁護士の父親と地元新聞の記者の母親、4人の高校生の兄弟・姉妹が住む地元の名士リチャードソン家。原因は、末娘イジーの放火。そして、イジーとリチャードソン家の家事を担っていたミアとその娘でリチャードソン家の子どもたちと仲の良かった娘のパールが、いなくなった。

    家族の意味、親子のあり方・意味、命をさずかる事の意味…。リチャードソン家とウォレン家(ミアとパール)、ミアの同僚のべべ、様々な立場の登場人物たちの思いとすれ違いに考えさせられた。

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    2025年09月29日
  • 消失の惑星【ほし】

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    カムチャッカ半島に関してあまり知識がなかったので、地名が挙がるたびにマップを検索して街並みを見るのがとても刺激的だった。ツンドラに塞がれた陸の孤島とか、伝承のような過去の災害の記憶とか、遠いどこかの物語は、遠さゆえにこちら側の寂しさも共振させるよう。

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    2025年09月28日
  • 密やかな炎

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    母と子、異なった生活歴、職歴を持つ回想が異なる二組の「家」そして女性の対立。
    筆者イングは中国系移民2世・・これまで読んできた同じ流れにいる作家とはまた一味異なった作品だった。
    読み始めは、なかなか流れに乗れず、正直だれるドラマ。
    次第に 背景となる時代、社会風景に生きていくティーンの男女の性愛、セックス、妊娠、そして異人種の代理母など様々な愛の形と「母と子」のモデルの裏が描かれて行く手法が染みわたってきた。

    舞台となるオハイオ州シェイカー・ハイツは実存するんですね。
    完璧な場所、完璧な暮らし・・そこに住んでいるリチャードソン一家はまさにそう、そして母エレナは常にりそいうの家庭像を追い求める

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    2025年09月27日
  • 火明かり ゲド戦記別冊

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    ゲド戦記の別冊…どういう内容なのか?
    ゲド戦記の大ファンとして興味しんしんで読み始める。まさに別冊であって、前6冊の後日談的なものではない。大部分を占めるル=グウィンのエッセイに、ゲド戦記全体に対しての作者の思いがよく伝わってきた。最初の3冊を読んだときの感動と、長い時間を経て出版された「帰還」の衝撃。
    別物だ、と感じたのは正しかったのだと思う。
    未発表だった「オドレンの娘」は、ル=グウィンらしさを感じられる作品で、好きだ。

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    2025年07月10日
  • 密やかな炎

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    面白かった。さりげなく、しかし確実に意図的に物語に登場する様々な家族の「かたち」。なかには、非難を呼び得る選択の結果形成されたものもある。しかし著者は決してそれをジャッジしない。ただ、人生として描いている。
    そしてそれぞれのヒストリーや勃発する事件の中で描写される、ジェンダーや人種を巡る尽きぬ問題。特に、作者の実感の滲む、米国社会におけるアジア系移民の立場やそのアイデンティティを巡る議論については、新たに気付かされる視点もあった。
    何よりサスペンスとしての物語の織られ方が上質だ。裕福な、絵に描いたような美しい家庭と思春期の子供たちの生活に、ある日訪れる根無し草の親子─というやや古典的な導入から

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    2025年07月04日
  • 密やかな炎

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    母と子のアンバランスな愛情… 情緒がリアリティに満ち溢れ、ジワリジワリと染みわたる #密やかな炎

    ■あらすじ
    オハイオ州シェイカー・ハイツに住むリチャードソン一家。母エレナは子どもたちに規律を重んじるよう厳しく接し、理想の家庭を追い求める女性だった。

    ある日、一家の借家に母娘ミアとパールが引っ越してくる。有色人種で芸術家のミアは経済的に苦しい生活を送っている。安定した暮らしに憧れているミアは、裕福なリチャードソン一家の子どもたちと交流を深めていく。

    やがてこのリチャードソンの大きな邸宅が、火事になってしまうのだが…

    ■きっと読みたくなるレビュー
    ダークでやたら現実味あふれるホームドラマ

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    2025年06月14日
  • 密やかな炎

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    ネタバレ

    失ったものはもう戻らない。
    何を得て、何を諦めて失うのか。
    2つの家族はまったく違う環境下で生活している。どちらの家族が正しいなんてことはない。しかし子供達にとって、どちらの方が生きやすいかと言われるとまた違ってくるのだろう。
    出てくるキャラクターたちはみな魅力的で、
    描写がこと細かく、まるでキャラクターたちが自分の友人のように見えてきました。
    そんな彼らが選ぶものは何なのか。
    家族なのか、友情なのか、恋人なのか。
    はたまた、、、?
    火事を巡って、その原因は、犯人は誰なのか。
    過去に遡って真実を探していくミステリー。
    私は特にミアの過去シーンに驚き、
    息を呑んでしまいました。

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    2025年05月11日
  • 夜の底を歩く

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    ネタバレ

    父は病死、母は刑務所に入って今は更生施設にいることで、17歳のキアラは兄のマーカスと2人で暮らしていたのだが、兄はラッパーを夢みてばかりで働かない。アパートの家賃も滞りがちで、おまけに値上げするという。
    同じアパートに住む9歳のトレバーもネグレクトを受けていて、食べるものもない様子。
    キアラは、職を探すも雇ってくれる店はどこもなく、追い詰められた果てに思わぬことから売春を始め…。

    誰に救いを求めたらいいのかわからずに、ただ生きるためにしたことが大きな事件となる。

    このようなことがある世の中では駄目なはずなのに誰も気づかずにいることが、どうしてもやるせなく思う。


    著者が、ティーンエイジャ

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    2025年03月03日
  • 夜の底を歩く

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    17歳女の子キアラの物語… 黒人女性が何故こんな酷い扱いを受けなければならないのか #夜の底を歩く

    ■あらすじ
    17歳の女の子キアラは、定職にもつかない兄と暮らしていた。父は既に病死し、母も刑務所に収監されているため、誰も彼女を守ってくれない。さらに同じ地区に住む9歳の少年トレバーがネグレクトを受けていた。彼女は自身の生活とトレバーを守るために求人を探すも、まだ未成年のために仕事にありつけない。ついに彼女は自身の身体を売り始めるのだが…

    ■きっと読みたくなるレビュー
    やるせない気持ちで胸がいっぱいになる物語、しかし声をあげるべきだという、強い意思を感じる作品でした。黒人女性が何故こんなにも

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    2025年02月11日
  • 消失の惑星【ほし】

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    幼い姉妹が行方不明になった街。連作短編のように語られていく、そこで暮らす12人の“彼女たち”の人生、生活。解決しない問題やこびり付いて剥がすことの出来ない思い悩み、不安、悲しみ。小さな喜び。世界、社会が押し付けてくるままならなさ。傷と痛み。それぞれの小さな物語。それらは少しづつ重なり合い紡がれて、大切に掬い上げられた彼女たちの小さい物語をたしかに残したまま、ひとつの街、土地の、あるいは女性たちの物語として先へと伸びて行く。その先はページが尽きても開かれているけれど、希望の光は見えている。たしかに。

    彼女たちの人生、生活、物語に共感し、多分感情移入もしている。もしかしたら身近にも感じていたかも

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    2025年01月30日