赤染晶子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
タイトルの乙女という言葉から、つい少女小説や恋愛小説なのかと推測してしまうが、さにあらず。
学生たちに“メンチ”を切り、怒って教室を立ち去るときは「あたくし、実家に帰らせて頂きます!」と言い放つドイツ人教授や、指にストップウォッチだこができている麗子様などなど、強烈なキャラとその言動にゲラゲラ笑ってしまうのだが、読み進めていくと作者の《さあ、ここからが本番やで》という声が聞こえてくるかのように、作者の冷徹な目をもって《真実をみつめよ》と言葉が紡がれていく。
素晴らしい音楽を聴き終えた瞬間、人は深い溜息が出るものであるが、この本を読み終えたとき、同じように深い溜息が出た。
この作者は鬼才であ -
Posted by ブクログ
⚫︎受け取ったメッセージ
「真実とは乙女にとって禁断の果実だった。」
⚫︎あらすじ(本概要より転載)
ある外国語大学で流れた教授と女学生にまつわる黒い噂。乙女達が騒然とするなか、みか子はスピーチコンテストの課題『アンネの日記』のドイツ語のテキストの暗記に懸命になる。そこには、少女時代に読んだときは気づかなかったアンネの心の叫びが記されていた。やがて噂の真相も明らかとなり……。悲劇の少女アンネ・フランクと現代女性の奇跡の邂逅を描く、感動の芥川賞受賞作。
⚫︎感想
すごい短編小説だった。ユーモアとシリアスをこのように巧みにブレンドし、密告する側とされる側という葛藤と統合を描く。深刻なホロコース -
Posted by ブクログ
私が初めて、受賞時から読みたいと思った芥川賞作品です。
外大の女子学生達が繰り広げるお話、
とのことで、気持ちの上で、
近年の受賞作より何となく敷居が低いというか。
そうして「読みたい」「読みたい」とは常々言っていたものの、
結局、本屋さんで遭遇したのは、文庫本になってから。
買う予定だった本を戻してしまって(ごめんなさい~!)
即刻購入ののち、帰宅後一気読みしました。
まず、執拗に繰り返される、
「乙女」という言葉が印象的で癖になる。
そういえば、最近では最早死語のような気もする程、
歪に聞こえる言葉だけど、私達は乙女なのだー。
少し前に、アンネの日記を読んだところだったので、
彼女の -
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赤染晶子さん初読です。文庫筋書きの「悲劇の少女アンネ・フランクと現代女性の奇跡の邂逅」に惹かれました。本作は100ページに満たない中篇小説で、2010年の芥川賞受賞作です。赤染さんは2017年、42歳で早世されました。
ナチ体制下で究極の迫害を受けたユダヤ人と、大学のスピーチ・ゼミで孤立させられる主人公の対比が斬新で興味深かったです。その物語の切り口は、異質な存在を排除しようとする根源的な人間の性(さが)に通じ、普遍的問題なのかと思いました。ただ、隠れ家のアンネ・フランク一家の密告と、現代の閉鎖社会での告げ口では隔たりが大きく、そもそも比較にならない恐怖レベルでしょうが…。
こんなレ -
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芥川賞受賞作のこの本は非常に薄い。
読みづらいかなと思ったが、書き出しが台本のト書きのようですんなり入り込むことができた。軽やかな文章の合間に笑いも上手く散りばめてある。
ここは京都の外国語大学。授業中に乱入してきたのはドイツ語学科のバッハマン教授。スピーチコンテスト(暗唱の部)の課題『アンネの日記』の一節を明日までに暗記するよう告げ教室を出て行く。
主人公のみか子は暗記しながらアンネの心の叫びに触れる。学園に流れる黒い噂に翻弄される自身をリンクさせながら…
自分の言葉を獲得していく終盤が良かった。
乙女という生き物は「信じられな〜い」と驚いて見せ、誰よりもそれを深く信じる。
自分とは違う -
Posted by ブクログ
赤染晶子が、観光地であるアンネの家を訪れて「アンネは本当はこんなこと望んでいなかった」と思った。それを忘れないでいようと思って書いた……という挿話を読んで手に取ってみました。
要するに『私』を発見する物語なのですが、自分が自分であることを他人に委ねてはいけないし、委ねることも出来ない。
他人が奪ってはならない。
他人が勝手に物語を与えてもいけない。
そういった尊厳についての物語だと思います。
まあアンネの尊厳についてドイツ人と日本人が語るなと言われればそれまでなんですが。
逆にアンネがみずから密告したアイデンティティを尊重せねばならぬと、ドイツ人が日本人に教えるというのは…… -
Posted by ブクログ
本の紹介にもある通り、「アンネ・フランクとの邂逅」ということばがぴったりの物語でした。しかも、生の切実感を伴った「邂逅」です。
意識的なのか、描かれている世界が少女チックな世界で少々とっつきにくかったのですが(笑)、解説の方も書いておられるようにスポ根物に近い背景と、ところどころに繰り出されるユーモア(特に、バッハマン教授の常軌の逸脱ぶりが面白い!)で、何とか物語に馴染むことができました。(笑)中盤の衝撃的告白には、自分もみか子同様、「ええっ!」と思ってしまいました。(笑)
社会の中で認められ働きたい。しかし、その「社会」は人を「他者」として疎外する側の集団でもある。そして、いったん「他者」と