西村吉雄のレビュー一覧
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泣いても笑っても、日本は「第2の太平洋戦争」(対米半導体戦争)に負けたのである。衰退した日本に、もう「第3の太平洋戦争」は考えられないが、もしあるとしても、また敗戦するのは必定。日本が従来のままのであるかぎり、何回やっても同じ失敗を繰り返すだろう、と言われている。日本が再興するためには、識者からいろいろ指摘されている弱点、つまり『無戦略」「情報軽視」「無反省・無責任」「情緒的な甘え」「定型作業を好む」などを克服しなければならない。
前置きが長くなったが、著者の西村吉雄氏は、「日本電子産業のすさまじいまでの凋落」ぶりを簡明に説明している。西村氏は技術ジャーナリストになる前は「マイクロ波半導体デ -
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日本の電子産業が成功した理由(アメリカの戦後政策)と転落した理由(ガラパゴスに特化した産業構造、捨てられない成功体験、非効率な製造業の垂直的管理、など)細かく書かれている。
日本がなぜファブレス、ファウンドリーの流れに遅れたのか。ファウンドリーに特化していれば日本のプライドのものづくりの文化が活かされたのではないか。日本の大企業の経営者の言動の矛盾がうまく書かれている。
イノベーションと基礎研究を混同してしまい、経済発展に関係のない基礎研究に投資してしまったことも書いてある。
ガラパゴスであるテレビ産業に大きな投資をして失敗した大企業たち。ガラケー(ガラパゴス携帯の略だったと初めて知った。)に -
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1991年、私が大学生だった頃に、NHKで「電子立国 日本の自叙伝」というドキュメンタリーが放送され、本にもなった。半導体という技術に、日本の官民が貪欲に取り組み、世界のトップに上り詰めたその過程が誇らしげに記録されていたものだ。
それから、20年以上立った現在、日本は電子立国ではなくなってしまった。ハード的には、中国、韓国に完敗し、国内企業は存続すら怪しい。ソフト的には、欧米企業の競争相手ですらない。
誰がみても電子立国は凋落してしまった訳だが、そうした歴史に学ばなければ、唯一残っている自動車などの製造業も同じ道を辿っても不思議ではない。 -
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著者は、元々工学系の博士号をもつ、日経BPの日経エレクトロニクス元編集長。雑誌の編集長だけあって、電子分野の網羅しており、文章も読みやすく的確である。日経メールによく引用される(自社だから当たり前だが)のも妥当かなと思った。
本書は、日本電子産業の衰退を、過去との比較、世界の他地域との比較、他産業(日本の自動車等)との比較、によって明らかにすることが本書の目的(p.15)である。
そのうえで、戦後を冷戦終了の1985年までの資本主義政策としての日本、2000年までの内需拡大時期、2000年以後の衰退時期、として分析している。
具体的に扱っているのは、地デジ特需としてのテレビ産業、有線から -
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ネタバレ電子技術分野でなぜ稼げなくなり、衰退の一途をたどっているのか、を、非技術の視点で描く。
電機メーカの方とお話しすると、驚くほど賢い人がいる。のに、稼げない事業。
本を読むと、その理由が透けて見えてくる(技術へのこだわりが強すぎる)
事もあるし、「分かっていてもできなかった」事情があるのだろうなと感じます。
日本がグローバル化に乗れず、ガラパゴス化して世界市場で置いてけぼり的な
論調が(だいぶ落ち着いてきたが、まだある)ある中で、時代背景(米ソ冷戦終結によるアメリカの戦略転換)と日本人の持つ価値観(当初ファウンドリ事業を下に見ていた)等にも目を向けているのがポイントです。
雑誌の編集長らし -
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水平分業を頑なに拒んだ日本企業の考察の中で、メインバンク制度の視点からの分析は参考になった。もう一つの見方として、日本人のコミュニケーション能力の問題も影響していると思う。水平分業で中国や台湾の会社と日々のコミュニケーションを必要とする事は、普通に日本教育を受けてきた日本人からすると、酷でしかない。根本は教育じゃないのかな。
この敗北モデルを、日本の基幹産業である自動車分野でどう活かすべきか。EV化や業界水平分業化に対し、既に周回遅れであることは事実。日本のOEMは自社ブランドだけに拘らず、新興EVブランドの製造受託としての選択肢も進めるべき。日本の部品メーカーも含めた製造サプライチェーンの -
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著者は複数の大学の教授職のほか、技術系専門誌の編集者としての経歴も持つ工学者。本書は日経BPのウェブメディアの連載のうちもっとも普遍性が高かったテーマ、すなわち「イノベーションは経済成長に資するか?」を敷衍させる一方、ICT分野におけるイノベーションの実例を豊富に収集し一冊にまとめたもの。文章はかなり平易(改行が多用されたいかにもウェブ記事といった文体)で読みやすいが、残念なのは第2部と第3部で重なる記述がかなり多く、分量が嵩増しされてしまっていることだ。500ページ弱の大著だが、これほど長くなくともいいのでは。
題名の「イノベーションは、万能ではない」はイノベーションを起こしてもムダ、 -
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日本の電子産業の不振は最近の事のように思っていたが、逆にピークはかなり昔である事が分かった。実際はとうの昔に世界のトレンドからかけ離れていたのだが、日本語の壁であったり、いわゆるガラパゴス仕様により延命できただけだった。こう考えると、やはり日本には本当の経営者がいないということが分かる。結局は目先の売り上げに囚われて、世界の状況や今後想定されることに備えて手を予め打つということができない。銀行や政府、株主や社内調整に終始しているうちに世界の動きからどんどん乖離して行く様子が理解できた。確かに10年、20年先を予測するというのは不可能だが、今生き残っているのは未来を予測するのではなく、自ら未来を
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一連の製造業敗退本の中では唯一、戦後の経済発展を冷戦、日米関係という視点から分析しており、この点に関しては面白い(主に前半)。80年代に起きた冷戦終結が少なからずテレビ、電話、パソコン・半導体全ての崩壊のトリガーになっており、この世界情勢の変化を無視して、技術や経営のあり方に敗退の原因を求めていては、いつまでたっても産業復興はあり得ないのかもしれない。
テレビ産業敗退の陰に放送業界vsインターネット産業って見方も面白いし、この例を考えても、技術や経営というよりは政治・ロビー活動によって業界団体が間違った方向に旗を降ってきた罪が大きい気がする。ただ、電話にしろテレビにしろ、頑張って次を作ったら -
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戦後日本を「電子立国」と定義づけたのは、おそらくNHKの「電子立国ニッポンの自叙伝」だ。放送されたのは1990年で、筆者の言う電子産業の輸出ピークを過ぎている。なんのことは無い。この番組はソニーやトヨタなどが伝説的に伸びていく時期を描いただけで、この強みが未来永劫続くことを保証した訳ではない。しかし、このマジックワードが、その後も日本人の耳に残り続けたのは確かだと思う。
筆者はその「電子立国」がなぜ凋落したか、と論を立てている。つまり、栄え続ける可能性もあったが誤った戦略など何らかの理由で凋落してしまったということだ。実際には、この競争の激しい資本主義社会では、一般に優位性を保ち続けることは難