あらすじ
かつて世界を席巻し、自動車と並ぶ外貨の稼ぎ頭だった日本の電子産業。 今や、それは夢まぼろしである。そうなってしまった本当の原因は何か。 多面的な視点で解き明かす。
2013年、日本の電子産業の貿易収支は、とうとう赤字になった。同じ2013年の生産金額は約11兆円にまで縮小する。2000年に達成したピーク26兆円の半分以下である。
電子立国とまで讃えられた日本の電子産業が、なぜここまで凋落してしまったのか。私も、この疑問から出発した。特に凋落が、なぜ他産業ではなく電子産業なのか、他国ではなく日本なのか、これを理解したかった。
そうして調べてみた結果が本書である。
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泣いても笑っても、日本は「第2の太平洋戦争」(対米半導体戦争)に負けたのである。衰退した日本に、もう「第3の太平洋戦争」は考えられないが、もしあるとしても、また敗戦するのは必定。日本が従来のままのであるかぎり、何回やっても同じ失敗を繰り返すだろう、と言われている。日本が再興するためには、識者からいろいろ指摘されている弱点、つまり『無戦略」「情報軽視」「無反省・無責任」「情緒的な甘え」「定型作業を好む」などを克服しなければならない。
前置きが長くなったが、著者の西村吉雄氏は、「日本電子産業のすさまじいまでの凋落」ぶりを簡明に説明している。西村氏は技術ジャーナリストになる前は「マイクロ波半導体デバイスや半導体レーザーの研究に従事」した経験があるから、合理的な考え方で論を展開している。「個々の企業の業績を超える構造変化が見えることがある」という「統計データ」を基にして分析をしている。日本電子工業崩壊の顛末を知る上で、細部において異論があるとしても、西村氏が示唆に富む諸考察を提供してくれるので、本書は大いに頼りになる。
日本の電子産業の経営者たちにおかれては、耳が痛い話ばかりであり、「エクスキューズ」をしたくなるだろうが、この度の悲惨な結果を招いた責任を絶対に免れることはできない。謙虚に本書を読み(併せて湯之上隆氏の本も読むとなおよろしい)、十分に反省をして残りの人生を有意義に全うされたい。
ところで、日本の自動車産業も雲行きが怪しくなってきたようだ。近い将来に日産が消滅し、トヨタが自動車産業のTSMCになるという悪夢が正夢にならないことを願う。
本書の目次は次のようである:
まえがき
第1章 大きな産業が日本から消えようとしている
日本のICT(情報通信技術)産業の貿易赤字は「天然ガス」並み
第2章 わかっていたはずの「地デジ特需」終了
日本製テレビが盛んに輸出されていたのは1985年まで
第3章 100年ぶりの通信自由化がもたらしたもの
「自由化」「モバイル」「インターネット」の大波に翻弄された通信市場
第4章 鎖国のときは栄え、開国したら衰退
市場のグローバル化で精彩を失った日本のパソコン
第5章 「安すぎる」と非難され、やがて「高すぎて」売れなくなる
日本のDRAM産業の栄枯盛衰
第6章 日本の半導体産業、分業を嫌い続けた果てに衰退
半導体産業でも設計と製造の分業が進む
第7章 アップルにも鴻海にもなれなかった日本メーカー
ファブレス・メーカーとEMSが製造業を再定義
第8章 イノベーションと研究を混同した日本電子産業
技術革新はイノベーションではない
大9章 成功体験から抜け出せるか
工本主義による保護は工業を元気にしない
【付録A】プログラム内蔵方式
【付録B】半導体
【付録C】パケット交換
引用・参考文献
あとがき
Posted by ブクログ
日本の電子産業が成功した理由(アメリカの戦後政策)と転落した理由(ガラパゴスに特化した産業構造、捨てられない成功体験、非効率な製造業の垂直的管理、など)細かく書かれている。
日本がなぜファブレス、ファウンドリーの流れに遅れたのか。ファウンドリーに特化していれば日本のプライドのものづくりの文化が活かされたのではないか。日本の大企業の経営者の言動の矛盾がうまく書かれている。
イノベーションと基礎研究を混同してしまい、経済発展に関係のない基礎研究に投資してしまったことも書いてある。
ガラパゴスであるテレビ産業に大きな投資をして失敗した大企業たち。ガラケー(ガラパゴス携帯の略だったと初めて知った。)に頼って世界の競争から取り残されてしまったことも解説している。
日本の大企業の減価償却についての意識の低さがファブレス化を妨げていたことも興味深い。日本の企業の資本は銀行からもらっているため、担保として大きな固定資産を所持しておく必要があるなど。
Posted by ブクログ
1991年、私が大学生だった頃に、NHKで「電子立国 日本の自叙伝」というドキュメンタリーが放送され、本にもなった。半導体という技術に、日本の官民が貪欲に取り組み、世界のトップに上り詰めたその過程が誇らしげに記録されていたものだ。
それから、20年以上立った現在、日本は電子立国ではなくなってしまった。ハード的には、中国、韓国に完敗し、国内企業は存続すら怪しい。ソフト的には、欧米企業の競争相手ですらない。
誰がみても電子立国は凋落してしまった訳だが、そうした歴史に学ばなければ、唯一残っている自動車などの製造業も同じ道を辿っても不思議ではない。
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凄まじい本であった。凋落以前に勝ててたのか? ものづくりとか言う割に製造受託はしないのはどういうことだというのは完全に同意であるし、ものづくり神話を語られた時は使っていこう。
Posted by ブクログ
著者は、元々工学系の博士号をもつ、日経BPの日経エレクトロニクス元編集長。雑誌の編集長だけあって、電子分野の網羅しており、文章も読みやすく的確である。日経メールによく引用される(自社だから当たり前だが)のも妥当かなと思った。
本書は、日本電子産業の衰退を、過去との比較、世界の他地域との比較、他産業(日本の自動車等)との比較、によって明らかにすることが本書の目的(p.15)である。
そのうえで、戦後を冷戦終了の1985年までの資本主義政策としての日本、2000年までの内需拡大時期、2000年以後の衰退時期、として分析している。
具体的に扱っているのは、地デジ特需としてのテレビ産業、有線から無線の通信の自由化、PC(98シリーズ、DOS/V、Windows)、DRAMの栄枯盛衰、半導体産業の設計と製造の分業化、ファブレスメーカーとEMS、イノベーションと研究の混同、成功体験から抜け出せるかの各章である。
まとめの本としては非常によくできていると思った。
Posted by ブクログ
電子技術分野でなぜ稼げなくなり、衰退の一途をたどっているのか、を、非技術の視点で描く。
電機メーカの方とお話しすると、驚くほど賢い人がいる。のに、稼げない事業。
本を読むと、その理由が透けて見えてくる(技術へのこだわりが強すぎる)
事もあるし、「分かっていてもできなかった」事情があるのだろうなと感じます。
日本がグローバル化に乗れず、ガラパゴス化して世界市場で置いてけぼり的な
論調が(だいぶ落ち着いてきたが、まだある)ある中で、時代背景(米ソ冷戦終結によるアメリカの戦略転換)と日本人の持つ価値観(当初ファウンドリ事業を下に見ていた)等にも目を向けているのがポイントです。
雑誌の編集長らしく、章、説のタイトルも本質を捉えているので、すっと内容が入ってきます。
個人的には、各国人の持つ性格、価値観およびそこから展開される戦略は
企業の活動全般にも影響を与えるのかと改めて認識しました。
いくつか「なるほど」と言った視点を。
ー 売上と同相の投資、売上と逆相の償却負担
製造工場への莫大な設備投資の償却負担コストへの意識の低さ
ー 真の半導体メーカは近年までなかった。
総合電機メーカの一部門である半導体部門は、その半導体ビジネスの
観点で投資を決める事ができない。
ー 垂直統合か水平分業かは雇用維持と無関係
EMSとして、他社の製造も請け負えば(それができるなら)雇用は維持可能。
ー 出版と印刷会社の関係に似るファブレスファウンドリの関係
ー 銀行からの借入には、担保(土地)が必要で、株式を持ち合う独特の経営慣習
ー 新たな分業構造の実現はイノベーションそのもの
ー インテルの経験と近年のビッグデータが示す「因果から相関へ」
ー イノベーションは技術革新ではない。既存の物や力の組み合わせ方を革新し、経済的あるいは
社会的価値を実現する行為(蒸気機関車ではなく、鉄道という社会システムがイノベーション)
ー 明治以降、通信機器は「国が仕切る」体質が造り付けられた
ー 成功は失敗のもと。
Posted by ブクログ
水平分業を頑なに拒んだ日本企業の考察の中で、メインバンク制度の視点からの分析は参考になった。もう一つの見方として、日本人のコミュニケーション能力の問題も影響していると思う。水平分業で中国や台湾の会社と日々のコミュニケーションを必要とする事は、普通に日本教育を受けてきた日本人からすると、酷でしかない。根本は教育じゃないのかな。
この敗北モデルを、日本の基幹産業である自動車分野でどう活かすべきか。EV化や業界水平分業化に対し、既に周回遅れであることは事実。日本のOEMは自社ブランドだけに拘らず、新興EVブランドの製造受託としての選択肢も進めるべき。日本の部品メーカーも含めた製造サプライチェーンの強さは生かせるはず。
Posted by ブクログ
それにしても凄まじい凋落だ.同一企業で製造と開発部門を維持していきたいという習性は,今の経営者は絶対持っていると思う.水平分業の考え方を取り入れられるだろうか.官僚も含めてこの現実を直視する必要があろう.
Posted by ブクログ
円高で台湾や韓国に出し抜かれたのかと思っていたが、設計vs製造という国際分業の流れを読み取れなかった企業経営に原因があったということか。
現場の能力に比べて高次元の経営力に欠けるのは、帝国陸軍以来我が国の悪しき伝統となってしまっている。
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電子産業に加わった4つの圧力
①半導体集積回路は、ムーアの法則による価格低下圧力をもたらす
②プログラム内蔵方式は、付加価値の源泉をソフトウエアに映す
③プログラム内蔵方式では処理の対象も手続きもデジタル化される
④インターネットは、企業間取引コストを下げ、分業を促進する
この4つの圧力に日本企業は対応せず、伝統的垂直統合と自前主義に立て込もった。これが衰退原因の本質。
時代は変わったのに成功体験から抜け出せない。
成功は失敗のもと
Posted by ブクログ
日本の電子産業の不振は最近の事のように思っていたが、逆にピークはかなり昔である事が分かった。実際はとうの昔に世界のトレンドからかけ離れていたのだが、日本語の壁であったり、いわゆるガラパゴス仕様により延命できただけだった。こう考えると、やはり日本には本当の経営者がいないということが分かる。結局は目先の売り上げに囚われて、世界の状況や今後想定されることに備えて手を予め打つということができない。銀行や政府、株主や社内調整に終始しているうちに世界の動きからどんどん乖離して行く様子が理解できた。確かに10年、20年先を予測するというのは不可能だが、今生き残っているのは未来を予測するのではなく、自ら未来を創ろうとする企業のみなのだろう。
Posted by ブクログ
一連の製造業敗退本の中では唯一、戦後の経済発展を冷戦、日米関係という視点から分析しており、この点に関しては面白い(主に前半)。80年代に起きた冷戦終結が少なからずテレビ、電話、パソコン・半導体全ての崩壊のトリガーになっており、この世界情勢の変化を無視して、技術や経営のあり方に敗退の原因を求めていては、いつまでたっても産業復興はあり得ないのかもしれない。
テレビ産業敗退の陰に放送業界vsインターネット産業って見方も面白いし、この例を考えても、技術や経営というよりは政治・ロビー活動によって業界団体が間違った方向に旗を降ってきた罪が大きい気がする。ただ、電話にしろテレビにしろ、頑張って次を作ったら既に世間では無用の長物ってパターンがあまりにも多くて悲しくなった。
肝心の主題についての結論は佐野昌さんの「半導体衰退の原因と生き残りの鍵」に近く、垂直から水平への転換に失敗したという考え方で、この点について面白い議論はなかった。
関連して企業研究所(中央研究所)と基礎研究ブームについての批判も1つの章を設けて書かれている。「研究所は大切」派としては悔しいけど、僕自身も最近は「理学の研究は大切だけど、工学に研究は必要ないかも」と思い始めている。
Posted by ブクログ
戦後日本を「電子立国」と定義づけたのは、おそらくNHKの「電子立国ニッポンの自叙伝」だ。放送されたのは1990年で、筆者の言う電子産業の輸出ピークを過ぎている。なんのことは無い。この番組はソニーやトヨタなどが伝説的に伸びていく時期を描いただけで、この強みが未来永劫続くことを保証した訳ではない。しかし、このマジックワードが、その後も日本人の耳に残り続けたのは確かだと思う。
筆者はその「電子立国」がなぜ凋落したか、と論を立てている。つまり、栄え続ける可能性もあったが誤った戦略など何らかの理由で凋落してしまったということだ。実際には、この競争の激しい資本主義社会では、一般に優位性を保ち続けることは難しく、栄え続ける方にむしろ理由があると思うのだが。
電子産業「凋落」のプロセスで筆者が注目するもの、それはテレビ産業の地デジバブルや携帯電話のガラケー時代、日本語パソコンなど、鎖国的環境下での一時的な繁栄。しかしそれらは経済誌上で語り尽くされた話で、今更本にすることもあるまい。筆者が本当に書きたかったのは、半導体産業の末路だろう。ファウンダー、ファウンドリーの分業が世界的な流れだったのに、日本企業はその流れに乗らなかった。日本企業はファウンドリーを一枚下と見做していて、そこにビジネスモデルの有機的なつながりを見いだすことができなかった。そうした状況下で、懐古的なモノづくり訴求や、そうした古い産業観に基づく公的支援政策には何の効果も無いと言いたいのだろう。
それはそうだと思うが、電子産業が先行して斜陽化した欧米にも色んなモデルがあって、必ずしも全ての会社がアップルやマイクロソフトやテキサスインスツルメンツになれた訳ではない。NECもソニーもパナソニックも、それぞれの道を歩み始めている。単に貿易黒字を稼げなくなったという嘆き節だけではなく、ビジネスモデルの未来を問わなければこの議論は閉じないと思うのだが、どうだろう。