櫻井武のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
現在の脳科学でどこまでSF作品の脳に関する技術を実現できるかという内容でした。
取り上げられている題材の中でも「コンピューターに心を持たせられるか」が特におもしろかったです。
この章の冒頭で心を「感情と意識から成る、生物種の繁栄のためのシステム」とする考え方が気に入りました。
コンピューターに心を持たせるうえで感情は実現できそうに思いますが、意識(自己)の実現が想像できません。
『膚の下』(神林長平)で、コンピューターの自己の範囲(無線通信でつながっていても自己の範囲)が人の感覚よりも広く困惑する場面を思い出しました。
読み終えたあと索引を見て、まだまだ読んでいないSF名著がたくさんあるこ -
Posted by ブクログ
SF小説・SF映画を素材に、脳科学などの知見から実現可能性を探る思考実験のような書。
幾つか興味深い記述はあるが、脳は身体なくして意識活動を維持することは難しいらしい。
これは「唯脳論」などというタイトルの本を書いた養老孟司が、実は身体の重要性を説いていることにも繋がることだろう。
また、量子論でいう多世界解釈を、人間の意識のありようと結び付けて論じるところも印象的であった。
私の記憶が確かならば、「神星記ヴァグランツ」では、多数のパラレルワールドを認識可能な超AIが登場していたが、この超AIが出てくるエピソードについて本書の著者の解説が聞きたいと思う。 -
Posted by ブクログ
SFを導入にして脳科学の知見から何がどこまで可能か考察した本。各章それぞれ1冊の本になりそうな内容だが、簡易に読みやすく説明してくれている。
【目次】
第1章 サイボーグは「超人」になれるのか(『二重太陽系死の呼び声』ニール・R・ジョーンズ)
第2章 脳は電子デバイスと融合できるか(『攻殻機動隊』士郎正宗)
第3章 意識はデータ化できるか(『順列都市』グレッグ・イーガン)
第4章 脳は人工冬眠を起こせるか(『夏への扉』ロバート・A・ハインライン)
第5章 記憶は書き換えられるか(『追憶売ります』フィリップ・K・ディック)
第6章 脳にとって時間とはなにか(『TENET/テネット』クリストファ -
Posted by ブクログ
主に人間の睡眠について、脳内でどのようなしくみで眠くなるのか、睡眠とは脳にとってどのような現象なのか、そして睡眠の生物学的な意味について、すでにわかっていることを中心にまとめられている。
睡眠は毎日ほとんど必ず行っている行為だが、現代でもその意味は十分に明らかになっているわけでは無い。
これまでの睡眠に関する科学的な発見、特に睡眠が特定の脳内物質によって引き起こされること、レム睡眠とノンレム睡眠がまったく別の現象であることなど、個々のトピックが大変おもしろい。
睡眠とは何かという問題は意識のあり方、ひいては自分という存在について私たちが持っている感覚についての考えにまでつながるものだと思う。こ -
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ネタバレ「こころ」とはなんだろう?そして、
「こころ」とはいったい、どこにあるのだろうか?(P3)
自分の行動のほとんどは、自分の確固たる意志が
決めていると信じているだろう。しかし、
神経科学の立場から言えば、多くの行動は意識下で
選択されている。(P7)
上記のことが分かりやすく説明されている一冊。
内容は難しいが各章の終わりにとても簡単な
「まとめ」が書かれていて親切な内容になっている。
・大脳皮質の作動原理の説明。
ヒトの「共感」する能力は「こころ」を考える
うえで欠かせない機能である。
・「感情」と似た概念の「情動」について。
情動とは感情の客観的・科学的な評価である。(P73)
情動は -
Posted by ブクログ
〇この本の一番大切なPOINT
眠れないという問題を解決するためにもっとも大切なのはたったひとつのこと、それは「睡眠にこだわりを持たない」ということ。眠れないということを意識すればするほど、皮肉にも眠れなくなる。
→このことは最近読んだ岡田尊司の「人はなぜ眠れないのか」にも同様のことが書いてありました。眠れない人にとって意識しないというのはなかなか難しいことですが、下記の個所を読んで、考え方が転換され、少しだけどできるようになりました。
◎最も感銘を受けた個所 p134
・睡眠の評価は睡眠自体で行ってはいけない
睡眠に対する自己評価は全くあてにならならい。睡眠というのは、自己評価と客観 -
Posted by ブクログ
大脳辺縁系の働きや、情動と身体の関係性、脳内の報酬機構などが比較的わかりやすく語られる。こういった内容の本が新書として出版されるのは社会貢献の観点からもとても喜ばしい。さすが、ブルーバックス。
この本で共有されている意識に関する知見として大きなものを二つ挙げるとすると、次の内容を挙げることができるかもしれない:
・「意識」はすでに自律的に起こった情動などの意識下の反応を、脳が認知して解釈したものである。したがって意識の情動に対する優位性は否定される。
・精神は、脳を含む進化論的な発展を基盤としている。
なお著者は、感情と情動を明確に区別をした上で包括的な理解をしているので注意が必要である。 -
Posted by ブクログ
脳科学の立場から心の存在を一般向けに書いたものである。最も興味深いのは心と身体の境目が私が考えていたのとは異なることだ。
漠然と心は脳が中核となっているのに対して、身体は心臓がその中心であると考えていた。もちろん脳も心臓から送られてきた血液で動いているのだから、この考えは明らかにおかしい。ただ、精神的なことは首から上で大半をまかなっていると考えていた。
ところが、何かのきっかけで起きる情動は脳だけでなく、全身に駆けめぐるネットワークの情報を脳が最終的に構造化して認識されるようなのだ。また情動と認知は同時になされ、認識されることがなくても行動は起きる。私たちはほとんどの行動を認識することな -
Posted by ブクログ
ネタバレ情報番組で紹介されていたので手に取った一冊です。
本書は、SF小説に描かれる未来像(サイボーグ化、脳とデバイスの融合、人工冬眠、記憶の書き換え、眠らない脳など)を、現代の脳科学や技術から見て「実現可能か」を検証していてとても刺激的でした。
テーマは大きく、①原理が未解明でまだ不可能なもの、②仕組みは分かりつつも技術が追いついていないもの、③実現が極めて困難なもの、の3つに分かれています。未来を考える面白さと同時に、科学技術と脳研究の進歩が不可欠だと実感しました。
「おわりに」の木星探査のショートストーリーで語られる「体験の価値」は特に印象的でした。どれほど技術が進んでも、自分自身の経験は代