経済学者として主にアジアにおける「経済開発」をテーマに研究活動を行う著者の立場から、安倍政権の進める国家戦略特区構想に対し論評を行っている。国家戦略特区制度に批判的なスタイルで一貫している。
国家戦略特区もその範疇に入る「特別経済区(SEZ)」は、本来、工業化を目指す途上国において効果を発揮する経済
...続きを読む政策であり、経済的に成熟の域に達している現在の日本で、国家戦略特区が国家あるいは国民に対し、経済的利益をもたらす形で機能することは期待できないと指摘。また、国家戦略特区構想は、その効果が期待できないだけでなく、格差の拡大、人権の侵害、違憲性などの問題を持つものであることも指摘。さらに、韓国・中国を中心としたアジア各国における特区の現状にも触れ、いずれもあまりうまくいっていないとしている。そして、政権の民間頼みの無責任体質、経済政策の誤りを述べ、国家戦略特区は国民にも国家にもメリットがないと主張している。
著者の国家戦略特区制度への批判は一理ある部分もあると思うが、新自由主義に対する反感が強すぎて、評価にバイアスがかかっていると思われる部分も少なくなかった。例えば、混合診療、公設民営学校、農業の大規模化、カジノなどについては、批判が一面的であると感じた。格差が生じることが常に悪ではないだろう。健康で文化的な最低限度の生活を保障した上で、個々人の経済状況に応じて、選択肢を拡大することは社会の活力を生む点でも有意義なことではないだろうか。