日本の降伏から1ヶ月後。連合軍側の報道関係者が広島と長崎に入った。
オーストラリア国籍のイギリス紙の記者以外は、アメリカ陸軍航空軍が
募ったプレスツアーだ。
イギリス紙の記者も、アメリカ人記者も、目にした光景は同じだった。
原爆に何もかも破壊され、吹き飛ばされた風景と、収容された病院で
効果のない
...続きを読む手当てを受けながら死に向かう人々。
しかし、被爆地の現状を記者の見たままに掲載したのはイギリス紙だけ
だった。アメリカ人記者も手当てに当たる日本人医師に取材し、残留
放射能による人体への影響を記事にしている。だが、本国での掲載時に
その内容は大幅に削除され、修正が加えられた。
現実をありのままに伝えれば、アメリカ国内の世論は原爆の使用を
非人道的として軍に対し非難の声が上がるだろう。軍としては一番
回避したいことだ。だから、検閲を行い、国内メディアに報道規制の
協力を求める。それが、記者たちのなかにあった愛国心と結び付き、
自主的に記事の内容を抑制する効果を上げる。
「それは広島と長崎を見たジャーナリストたちについても言えた。
彼らのほとんどは特派員である前にアメリカ人だった。もっとも強力な
検閲官は、彼らや本国の編集者一人ひとりの心のなかに存在していた。
それは、だれの心のなかにも潜んでいるものなのだ。」
この文章を読んでいて、ふと、クロンカイトがベトナム戦争時に語った
愛国心についての言葉を思い出した。
膨大な資料と、各メディアのデータベースに丹念な取材がなされている
良書である。