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日本の叙景歌は,偽装された恋歌であったのか.和歌の核心にはいかなる自然観が存在していたのか.和歌と漢詩の本質的な相違とは? 勅撰和歌集の編纂を貫く理念とは? 日本詩歌の流れ,特徴のみならず,日本文化のにおいや感触までをも伝える卓抜な日本文化芸術論.コレージュ・ド・フランスにおける,全五回の講義録.(解説=池澤夏樹)
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Posted by ブクログ
社会の状況と関連させつつ議論しているので、分かりやすい講義録になっている。女性注目した3章と5章(女性歌人と中世歌謡)がとくに印象に残った。
重税への怒りを詠う 平安時代の学者で政治家、菅原道真といえば、学問の神様として名高い。毎年正月になると、道真をまつる福岡県の太宰府天満宮は初詣の受験生でにぎわう。学者として異例の出世を遂げたが中傷のため太宰府に左遷され、失意のうちに死んだことから、死後、祟りをなしたという伝説もある。 しかし菅原...続きを読む道真がそれだけのエピソードで有名なことは、はなはだ残念だと著者は嘆く。道真は偉大な詩人でもあったからだ。それは単に多くの詩を残したとか、宮廷内で称賛される詩を書いたとかいう意味ではない。 道真は漢詩人として、重税に苦しむ庶民に同情・共感する詩を多く書き、為政者の不正・腐敗を弾劾する詩を残した。近代以前の日本において、このような政治的・社会的主題の詩は、道真の詩を除いてはまったく書かれなかったという。 道真がこれらの詩を書くきっかけとなったのは、讃岐国(現香川県)知事として送った4年間の地方生活だ。生まれて初めて、庶民の生活の苦難に満ちた実態に触れ、その見聞を詩にとどめた。 重税を逃れようと他国に逃れたが、どうにもならず舞い戻ってきた男。冬になっても薄い衣服で輸送に従事する馬丁。いつ釣れるかわからない魚を釣って租税を払おうとする漁師。「寒早十首」と題する連作で、重税に苦しむ貧しい人々を描いた。 高い地位にいる役人は、原理的に言って、ほとんどまったく、税に苦しむ貧者への同情・共感を持ちえなかった。なぜなら、まさにその税を取り立てる側の人間だからだ。その意味で道真は「ほとんど類例を見出せない役人であり、そしてまた詩人」だったと著者は記す。 テレビや雑誌で戦前の政治家が作った漢詩を見せ、「教養があった」などと感心して見せる企画がよくある。しかしそれらの詩の中に、菅原道真のように、税への怒りを詠ったものが果たしてどれだけあるだろうか。 真の教養とは、単に芸術の表面をなぞることにあるのではなく、そこで何を表現するかにある。そんなことも考えさせられる一冊だ。
自身も優れた詩人である著者の 漢詩、和歌、中世歌謡を論じた日本詩歌論。 海外講演のために、日本的な感覚(現代日本人には理解にかなり努力が必要)を、論理的な文章にまとめているのがさすが。 日本文化論としても興味深い記述が多数。
論理明快な文章。実作者からは感覚的に当然と思っていることを、快刀乱麻を断つ形での説明をしてくれる。和歌は和するものということ、叙景という概念を意識させてくれたのはありがたいし、批判的意識としての菅原道真や女性の和歌・今様という点からもとらえているのが的確と思う。
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