Posted by ブクログ
2021年02月20日
米国人の父とイラン人の母を持つ、米国の高校生ダリウス。生まれも育ちもポートランドでイランに行ったことはないのに、学校ではイランの出自をからかわれ、「自分の国」のことを知った方がいい等々言われる。かといってペルシャ語も出来ず、イランの祖父母とスカイプで話すのはなんだか気まずい。父親には全てに失望されて...続きを読むいるように感じ、鬱の症状は薬でコントロールしている…
文体は軽い感じで、そこまで深刻には感じられないのだが、ちょっとした一言に傷つき、過去の「ちょっとした掛け違い」の集積に段々押し潰されそうになっているダリウスの気持ちが痛いほど伝わってきて、鬱とはこんなに苦しいものなのかと感じる。幼い妹を愛し、祖父母のこともよく知りたいと思う心優しいダリウスは、父にもいじめっ子にも激しく言い返すわけでもなく、かろうじて「ええっと」と言った後黙ってしまう。
そんなダリウスが初めて訪れたイランで親友と出会い、実物の祖父母や沢山の親戚に囲まれて過ごすことで、父親とのわだかまりをとき,自分という存在との折り合いを見つけていく。「今まで空っぽだったダーリーウーシュの場所が埋まった」という親友ソフラーブの優しい言葉に癒される。
スタートレックや指輪物語からの引用(と、それに関する小文字の註釈)が少し読みにくく、さらにペルシャ語が大量に出ているので物語に入りにくいと感じたのは最初の数分のみ。途中からはイランの家族や親友ソフラーブの温かさ、実物はよくわからないけど美味しそうなペルシャ料理の数々に魅了され、一つ一つの会話に涙無くして読み進められない。
ところで筆者のコメントに「鬱が人生に与える影響を伝えたかった」とある。全体的に、薬でコントロールされた状態のダリウスの視点で語られるので、そこまで激しい落ち込みはないのだが、病気を知らない人から「なぜ落ち込むの?」と聞かれるたびに答えられない辛さ、同じ鬱病を持つ父親なりの、息子に遺伝させてしまった後悔や自傷行為を恐れる気持ちが伝わってきて、本当に簡単に一言で片付けられないものなんだなあと理解。イランと鬱とアメリカ高校生活と。色々新しい出会いのある素敵な小説だった!