Posted by ブクログ
2022年02月27日
最適なタイミング、コンテンツ、コミュニケーションを捉えて価値提供するには、ユーザーの置かれた状況(ペインポイントや成したい自己実現)を把握してそれに対する解決策や便益を提供し、ユーザーと定常的な接点をなるべく高頻度に持つ必要があります。これは商品販売型のビジネスでは実現が難しく、「体験提供型ビジネ...続きを読むス」に優位性が移行していくことを示しています。
NIO、NIU、ズールーは、いずれも商品に関わるペインポイントを解決するだけでなく、ユーザーにより良い生活スタイルを提案する形で、定常的に顧客との接点を持てる「体験提供型」のサービスに変化させています。これにより、商品販売型では提供できなかった顧客との新たな関係を作り出し、これを新たな優位性としながら、いつでも顧客の状態を知ることができています。前著に事例として挙げた「平安グッドドクター」はまさにこうしたモデルの先駆者であるわけですが、「売ること」「成約させること」にフォーカスするのではなく、顧客にずっと寄り添うことを重視することで、他社を圧倒し、人が人を連れてくるというモデルが、多方面に成立し始めているのです。
■第2章まとめ
(1)最上位に来る決済プラットフォーマーは、「決済機能を提供する」という考え方ではなく、それぞれの企業ミッションと元来のケイパビリティを生かして普及させていった。
(2)購入後に接点を持ちにくいメーカーや成約型ビジネスは、「ペインポイントを解決する便利系サービス」と「ライフスタイルに新しい意味をもたらすサービス」の双方に拡大し、顧客との定常的な接点を持つバリュージャーニーに変化している。
(3)これにより、「何かを購入する」という行動がサービスに埋め込まれ、サービスへのロイヤルティーやその利便性の中で「ついでに購入する」ような行動が当たり前になりつつある。これを「コマースの偏在化」と呼んでいる。
(4)上記のようにメーカーもサービサー化する中、その潮流を捉え、サービサー向けの支援を提供するtoB向けプラットフォームビジネスも生まれている。
■O2Oとは異なる
「先日、新宿を歩いていたら、近くにあるショッピングモールからメッセージが飛んできて、キャンペーンの情報を受け取ったのですが、これってOMOでしょうか」
…
私は質問してきた人に、まず聞いてみました。
「ユーザーとしてそれが便利だとか、自分に合ったうれしい情報だと感じましたか?」
するとその方は
「うーん、あまり便利とは思いませんでした。通知が送られただけなので」
とおっしゃるので、私は
「じゃあ、OMOではないですね。まったく顧客目線ではないですから」と回答しました。ただ単にオンラインとオフラインを融合させればよいという考え方は、結局のところアフターデジタル時代に必要な視点に転換していないので、本質を失った「単なるオンラインとオフラインの連携」と言わざるを得ません。
■データのマネタイズの3パターン
(1)マーケティング・広告に活用する
「この人はどのあたりで何をいつ頃買ってくる」という情報から、マーケティングソリューションを企業向けに提供して、そのソリューションフィーで稼ぐことができます。例えばアリババは、ECのシェアを半分以上押さえているため、ウェブ上での購買行動データも潤沢に持っています。モバイルペイメントのシェアも半分以上持っています。「リアルで消費された行動」の方をより参考にしたいという企業もあるので、リアルとデジタル双方を合わせた消費行動を基にマーケティングしたい、という企業にはより高いソリューションを販売できます。
(2)金融に活用する
どれくらいの支払い能力があり、どのような消費行動を取るのかが分かることで、主に個人向け融資の与信管理効率が良くなります。これによって明らかになった「信用度」を別の企業に展開して活用することで、他社もそれに依拠してサービス展開できる「信用スコアプラットフォーム」になり、ソリューションとしてのマネタイズも可能になります。
(3)インフラに活用する
人の動きのデータを活用し、交通や医療の効率を向上させることで、それ自体でのマネタイズは難しいが、スマートシティに対する投資や管理費用として、国、自治体、エンタープライズからのマネタイズが可能になります。
■データを持つ幻想と現実
【幻想】保持しているデータそのものが財産だと思っている。
【現実】ソリューション化して活用できないと、持っていても意味がない(漏洩リスクと管理コストのみが発生する)。
【幻想】社会レベルでの共有、または、他社とのエコシステムによってビッグデータ活用できると思っている。
【現実】データ突合には「目的設定の主導権争いとコストの壁」が立ちはだかり、1社が目的を持って主導しないと実現は難しい
【幻想】ペイメントデータさえ取れれば勝ちだと考える。
【現実】ペイメントデータで直接的にマネタイズする方法は限られ、ビジネスとビジョンに基づいた目的設定が重要である。
■アフターデジタルで提唱している「あるべきDX」
「デジタルとリアルが融合することで膨大で高頻度な行動データを使い、企業競争の原理が商品販売型から体験提供型になる、つまりバリュージャーニーを作って運用していくことを踏まえ、新たな顧客との関係性とはどのようなものであり、どのような体験を提供する存在になるべきかを考える活動である」
■第3章まとめ
(1)データエコシステムやデータ売買を中心に置いた「実現性の見えない大きな絵」ばかりを描かないように、データ活用や共有の幻想を解く必要がある。
(2)「デジタル」という手段にとらわれ過ぎず、デジタルとリアルの強みと弱みを正しく捉え、つなぎ合わせることで顧客との新たな関係を作っていくことにOMOの本質がある。
(3)「広範囲なデータでいかにマネタイズできるか」ではなく、「個社で取得できる行動データをいかにUXに活用するか」が鍵となる。
■「役に立つ」から「意味がある」へ
「役に立つ」=機能的便益の有無
「意味がある」=自己実現的便益の有無
■肝に銘ずべきこと
・「ユーザーが置かれている状況」に関する仮説を持つ。
・実ユーザーや消費者に当たってそれを検証する。
・「その不幸せな状況をどう改善するか、どのような幸せな状況にするか」という仮説を持つ。
・「幸せな状況」の企画が受け入れられるかを検証する。
■第4章まとめ
(1)デジタルとリアルが融合し、オンライン前提となったアフターデジタル社会は、UXとテクノロジーを使うことで1つの企業がアーキテクチャを作ることが可能になった。
(2)その分、データを悪用したり、ユーザーを監視・管理・コントロールしたりすることも可能で、こちらに進むと社会発展が止まるため、断固として防ぐ意志が必要になる。
(3)DX・UXに携わるすべてのビジネスパーソンは、ユーザーに不義理を働かず、在りたい自己実現ができる世界観や、心の底から共感する世界観を提供しているUX(バリュージャーニー)があふれ、UXの善さを競う環境になることで、ディストピアではない「多様な自由が調和するアフターデジタル社会」を目指すべき。
AI・データをはじめとするテクノロジー前提・オンライン前提社会において、企業から発信する新しい自由の在り方(アップデート)を示し、これに挑戦し、ディストピアを防ぐ勇気を持とう、というのが前提となる精神です。
これを持った上で、その実現(つまりバリュージャーニーを作って運用すること)において最も重要なケイパビリティが「UX企画力」であり、すべてに通底するのは「ユーザーの置かれた状況を捉える」ことです。これには「ビジネスを構築するためのUX企画力」と「グロースチーム運用のためのUX企画力」の2つがあります。
この2つを行うことでバリュージャーニーが実現されますが、これはアフターデジタル社会にとって「UX選択の自由における選択肢の1つ」としてのUXを提供しており、こうした「今まで以上の自己実現を可能にする、自由の選択肢」を皆さんとたくさん作り、それがあふれる社会にしたい、という願いと方法論が、本省のメッセージとなります。
■第5章まとめ
(1)社内の意識変革や説得を通して、どのように会社全体で話を通りやすくするのか。
【地盤固め】DXの必要性と目的の認識をそろえる。
【目指す絵の確認】事業そのものだけでなく、ケイパビリティ取得や、高LTVモデルへの転換といった大義設定を行う。
【まずは体験する】失敗を恐れずなるべく早く開始してラーニングし、より具体的な成功への道筋を示すことで社内全体を巻き込む。
(2)ケイパビリティをいかに調達するのか。
【対話型組織】上からの情報共有が十分行われ、かつ下も上も横も一緒に対話と議論ができる組織を作り、自ら価値を考えて動ける文化を作る。
【オンオフの補完関係】オンラインとオフライン、双方のプレイヤーにおいてケイパビリティを補完したいと考えているため、「目指す世界が近い企業」と補い合うべし。