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「小説や詩を読むことで心が豊かになると妄信的に信じている人がいたら、ちょっと危いと思います。世の中の『当たり前』ほど、あてにならないものはありません」――今こそ「考えること」に真剣に向き合ってみませんか。突き詰めた思考の果てにうまれた、氏の軽妙かつ深遠な語りにどうぞ耳を傾けてください。 明るさは滅びの姿 「豊かさ」に隠されたもの 自分の毒に責任を持つ 人間らしい嘘は許す 困ったらインチキでもやるしかない いいことをさりげなく、悪いことは大げさに ――<目次より>
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Posted by ブクログ
吉本隆明氏の著書をはじめて読みましたが、これまで読まずぎらいだったとおもいました。 けっこう醒めていて、乾いた感情かとおもいますが、分かりやすい内容でした。 ものごとには両面があり、必然がある。 人の多少の努力や考えなどは、大勢を変えることなく、ゆきつくところまでいってしまう。 気になったのは以下...続きを読むです。 ・いじめるほうもいじめられるほうも両方とも問題児だ、ということだ。 ・いつも明るいところばかりを見ていたら、暗いところにあるものが見えなくなってしまいます。そもそも、暗いところにこそ、真実が隠されているのではなにでしょうか。 ・いくら科学技術が発達しても、人間の魂、精神が発達するわけではありません。むしろ、人間の精神というものは悪くなっていくものだという考え方もある。 ・天然自然を主体に考えたら、いいことも、悪いこともあるのが当然であって、悪いことを言わないというのは、それだけで、もうだめな証拠だということです。釈迦、キリスト、孔子、老子たちがいいことしか言わないのは、世の中に悪いことがたくさん現れてきたためというのです。 ・現に、日本の現代を例にとっても、少しもいい時代になっていないことを実感します。 ・本を読んだことによって毒がまわったかもしれないと考えるようになりました。 ・何かに熱中するということは、そのことの毒も必ず受けるということです。 ・人間自身もそうですが、すべてのものは善と悪を併せ持っています。 ・毒が回っている人の特徴は、何でもやりすぎるということです ・いい生き方:自分が持って生まれた運命や宿命というのがあるとすれば、それに素直に生きていくことではないかと。 ・蓮如:「白骨の御文章」 朝に紅顔を誇っている身も夕には白骨と化す ・親鸞:修業なんかしても浄土に行けない。浄土は実体ではないから、行くも行かないもない。ある意味で仏教にとどめを刺した人です。 ・「いいもの」は好き嫌いで判断できない何かを持っている ・期限をみれば本質がわかる ・僕は噂話や消息通の話など一切信用せず、自分の目や感覚で人やものをみるようにしてきました。良し悪しというのは、バランスのようなもので、全否定も、全肯定もなかなかできない者だと考えています。 ・一般の人間関係においても、いい関係かどうかを判断する基準というものを持っています。それは、お互いが言いにくいことをきちんと言えるかどうかです。 ・親鸞だけが、死ぬことは不定だと言い切って死ぬ時のことをあまり考えない方がいい、どういう風に死ぬかはわからないのだから考えても無駄であるという意味のことを言っています。 ・誰も教えてなんかくれないよ、自分で考えて、自分でやらないとやっていけない。 ・理想の自分と現実の自分が違うことがほとんどです。 ・自分がなりたい仕事と、他人から見た向き不向きが違うことはよくあることです。そういうときには両方やって、両方の修練をすればいいと僕は思います。 ■結論:すべてが逆な方向へ進んでいる ・いまの日本は、道徳的にもよくないから、品格とか愛国心とか武士道精神といったもの復活させようという考えがブームになっているようです。しかし、僕はそういくことは無駄である、初めから無駄なんだと考えています。 ・こういうのがいいんだ とわかっていても、そうはできないし、そのとおりにはならないのが現在の大きな問題なのです。やる人がいないし、耳を貸す人もいません。もしいても、それは少数だけで、根本的にはならないでしょうか。 ・一つはっきり言えるのは、いいことをいいと言ったところで無駄だということ、何はともあれ、いまは考えなければならない時代です。考えなければどうしようもないところまで人間がきてしまったということは確かなのです。 ・いま、行き着くところまできたらこそ、人間とは何かということをもっと根源的に考えてみる必要があるのではないかと思うのです。 目次 まえがき 1 善悪二元論の限界 2 批評眼について 3 本物と贋物 4 生き方は顔に出る 5 才能とコンプレックス 6 今の見方、未来の見方 あとがき ISBN:9784062770057 出版社:講談社 判型:文庫 ページ数:260ページ 定価:620円(本体) 発行年月日:2012年03月21日第3刷
本書が刊行されてから12年余り。日本の状況は、吉本氏が最低と評してから留まるところを知らず落ち続けているようにみえる。おそらく吉本氏の言う、本質を考えなかった結果なんだろうと思う。現政権がここまで民意を無視してやりたい放題なのも、私達が考えなかった結果に違いなく、私達が育て上げた政権なのだろう。では...続きを読むどうすればいいのか?やはり考え続けることでしか解決法は見つからないのだ。 思考停止状態から脱するには、或いは底の底まで行く必要があるのかもしれない。 失わないと気づけないところまできてしまった。
・「平家は明るい。明るさは滅びの姿であろうか。」太宰治 →明るいからいい、暗いからだめ、の二元論ではなく。 ・倫理的にいいことしか言わないのはおかしい。安藤昌益 天然自然を主体に考えたら、いいことも悪いこともあるのが当然。 →いいことを言うやつが増えたら、時代が悪くなってきた証拠。 ・本にも、お...続きを読む金にも、毒がある。 ・いい作品とは。 そこに表現されている心の動きや人間関係というのが、俺だけにしか分からない、と読者に思わせる作品。 ↓ 読んだ人ぜんぶが、俺だけにしかわからない、と感じれば、普遍性があるということ。 ・「歩きながら書かれた文章でなければ読む気がしない」似ーチェ =運動性を伴うことで、自分の資源となる。 ・天皇は、神主である。 ・言いにくいことを言う。その解放感。 ・日本人には、包容力がなかった。だから、カッとしてしまう。島国ゆえの。 ・人を見る上で大事なこと。 その人が、何を目指しているか、何を志しているか、という、生きることのモチーフ。 ・老人とは、人間の中の動物性が極限まで小さくなった、より人間らしい人間である。 ・自分にとって重要なこと。 その時代その時代で、みんなが重要だと思っていることをすこし自分の方に引き寄せてみたときに、自分に足りないものがあって行き得なかったり、行こうと思えば行けるのに気持ちがどうしても乗らなかったりする、その理由を考えることだ。 ・いまは、行き着く所まで来てしまったので、人間とは何かについて考えなおさねばならない時代。
おこがましいけど、もし私がどんな考え方をする人間なのか知りたかったらこれを読んでって言えるくらい自分の分身みたいな本だった。
円熟した語りの中に、内省に内省を重ね、磨きに磨かれた思想が織り込まれているのが分かりました。 こういう境地、憧れます。
全ページおもしろい! 読みやすく作者の実感に満ちている。 自分の頭と足で考えようと思える全うな一冊だと感じた。
共同幻想論などとは異なり読みやすいが、さらりと書いた文章でも意味を理解するには、かなりの筋肉(読書量)が必要かと思う。3割くらい解釈できたかなぁ。
著者は自分の言いたいことをこの本で言い切ったのだろうか。そんなことはないだろうなと思った。 平易な文体だし、語りかけるような口調で終始話が進むから読みやすいのは読みやすい。そして、人間の性格形成は、幼少期までの母親もしくはその代わりとなるような人との関わり方に決定されるという考え方が、もうこれでもか...続きを読むと何回も出てくる。翻って見て自身は良い育ち方ができたのかどうかは恐らく死ぬまでわからないのだけれど、この本で言うような物事は、そして人物は、善と悪だけに限らないし、ある面で善くともある面で毒がまわってるという考え方を、できる限りしていきたいし、最後の最後までとことん追い込むみたいな真似はしないでいられるような、言ってみれば潔い人間になりたいと、そういう読後感。
この人の本は以前から読みたかったのだが本気の本は内容がまったく理解できそうになさそうで敬遠していたが、書店で見つけたこの本はとてもライトで書かれた時代も10年くらい前のものでしっかりと頭に入ってくるので購入。 著者の考え方がはっきりとしているのですべてに共感できることではないが ・あらゆるものに利と...続きを読む毒がある。 ・いい作家とは俺にしか分からないだろうと多くの読者に思わせること。 ・良好な人間関係とは言いにくいことをはっきりと言える関係。 ・以前は作者の文学的成熟と社会的成熟の時間経過を世の中が待ってくれていたが現在はそれを持ってくれない。 だから大家が生まれにくくなる。 ・戦時中など社会全体が悪になっている時は個人個人の倫理観が高くなる。しかし平和な時は逆に個人個人の倫理観が低くなる。 などなど。 おもしろい考え方を教えてもらった気がする。
吉本隆明氏(2012年逝去)の晩年にインタビューに基づいて書籍化され(2007年)、2011年に文庫化された。 私は全共闘に影響を与えた時代の吉本氏は知らないが、氏が晩年に記した著作やインタビューから、多くの示唆を与えてもらったように思う。 本書では、1.善悪二元論の限界、2.批評眼について、3.本...続きを読む物と偽物、4.生き方は顔に出る、5.才能とコンプレックス、6.今の見方、未来の見方、が取り上げられているが、特に印象に残ったセンテンスは以下である。 ◆善悪二元論の限界~「明るいからよくて、暗いからだめだという善悪二元論で考えると、物事の本質を見誤る恐れがあります。無意識のうちに答が決まっている価値判断は、無意識のうちに人の心を強制します」、「いまという時代は、善悪両面から見る、あるいは善悪という価値観を脇において物事自体を見ようとする、そういう見方が必要な時代なのです」 ◆批評眼について~「一番大事にしているのは自分の肌感覚というか、身のまわりの印象です」 ◆本物と偽物~「僕は、男女関係に限らず、一般の人間関係においても、いい関係かどうかを判断する基準というものを持っています。それは、・・・お互いが言いにくいことをきちんと言えるかどうかです」 ◆才能とコンプレックス~「大切なことはその都度変わっていきます。だから何が人生で重要だというふうに言われたら、ずっと一貫して、大切なものと現状の自分との距離について考えていくことだと思うのです」 ◆今の見方、未来の見方~「一つはっきり言えるのは、いいことをいいと言ったところで無駄だということです。それは歴史が何回も証明してきました。いいか悪いかではなく、考え方の筋道を深く追わなければ、問題の本質が見えてきません。考え方の微細な筋道をたどっていかないと、解決の糸口を見失ってしまうでしょう」 吉本氏の思想の一端が分り易くまとめられた一冊である。 (2007年5月了)
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